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山椒姫、特訓の成果を実感する

剣術大会開幕です。

途中半分くらいヤコブ視点となります。

 さあ、いよいよ剣術大会の開幕です。


 大会は3日間続く学園祭の中でも特に盛り上がるイベントの1つで、初日が予選、2日目が決勝1回戦と2回戦、そして大観衆が集まる中、最終日に準決勝と決勝が行われます。


「まずは初戦。完勝して勢いに乗りましょう!」

「おーっ!!」

「ヤコブさん、作戦をお伝えする前にお伺いします。貴男が対戦相手だとしたら、どうやって戦いますか? そして相手はどう攻めてくると思いますか?」

「えーと……こちらは2人しかいませんから、体力の消耗を狙って長期戦、相手の出方を見ますかね」

「そうですね。概ね合っているかと」


 基礎的な戦術眼は上出来ですね。ヤコブさんは学業優秀なので、頭脳を使うことに関しては問題無さそうです。


「今回の場合は相手が舐めてかかって、時間の無駄とばかりに向こうからいきなり決着を付けに来る可能性もありますが、どちらにせよヤコブさんは初手から全力で仕留めるよう攻撃してください。休む間を与えてはなりません」

「キャサリン様。相手はそれを分っていて構えてくるのでは?」


 ヤコブさんは長期戦狙いなら防御を固めてくるだろうし、攻めてこられてはいきなりつばぜり合いになるのではなどと心配していますが、余計なことは考えなくていいんです。相手がどう来ようとも、殺られる前に殺るだけのこと。


「両者先鋒、前へ!」

「ほら、いってらっしゃい」

「いってきます!」


 審判のコールに促され、ヤコブさんは緊張の表情で壇上へ上がりますが、貴男の実力がどれほど上がったか、私達はよく知っています。大丈夫、絶対に勝てるから!






<ヤコブ視点>


 不思議な感覚だ……まさか自分がこの舞台に立っているなんて……なのに、対峙する相手と視線が合っても怖さを全く感じない。


 ケヴィン様やネイサン様、それにキャサリン様と向き合った時は、己の全てを押し出してもなお、気配だけで潰されるくらいの感覚があったが、この相手からそういった空気を察することがないからだろうか。


 正直強くなった感覚はあまり無いのだが、何となくいけるかもしれない……


「では、始め!」



 ◆



 我が家は文官の家系。家で剣の訓練などやったこともない。父も自分が剣を握ったところで何も出来んよと断言するほど、武芸とは無縁の生活だった。


 そんな僕が剣術同好会に入ったのは、お世話になった先輩への恩返しもあった。

 入学したとき、同好会は既に当時の3年生のみ。新入生が加入しなければ廃部となる運命の中、歴史ある同好会を自分達の代で潰すのはしのびないと、変な使命感から入会を決意した。


 でも、現実は甘くない。


 去年の大会は予選リーグ3戦全敗。かろうじて先輩が1勝したのでストレート負けは避けられたが、それだって相手が余力残しでわざと棄権して拾った勝ち星だ。


 歴史ある同好会ではあったが、腕に覚えのある有力な生徒は高位貴族の家に個別でスカウトされるようになり、所属するのは僕と同じようにここで初めて剣を握るような文官の家の子や、平民の子達ばかり。


 基礎も出来ていない人間が簡単に勝てるわけもなく、いつしか成績は低迷。勝てもしない集団に属してまで剣を始めようなどという物好きはおらず、ついに残ったのは僕とテオの2人だけ。




「ヤコブ、そんな地味な案内じゃ誰も見やしないぞ。ただでさえ掲示板から外れて隅っこの方だろ」

「いいんだよ。他の同好会はみんな色とりどりに案内を作っているんだから、同じようにやっても埋もれてしまうだけだ。こうやってシンプルな方が却って目を引くかもしれないだろ」

「アイデアはいいけどなぁ……そもそも見てくれる人がいるかどうか」

「それを言うなよ……」


 新年度が始まり、2年生になった僕らは早速新入生の勧誘を始めるが、めぼしい男子生徒は既にスカウトを受けていたり、違う競技をやっていたりで入会はしてくれない。


 女子でも剣の嗜みのある者はいるが、そういう方は実家が騎士だったりして家で手解きを受けているから、わざわざ同好会に入る理由もないし、さすがに剣を握ったこともない女子を手当たり次第に勧誘というのも憚られる。


 なので、後はやったことは無いが興味はあるよという男子が加入してくれるのを期待するのみ。 


 当然勧誘用のポスターも作ったが、掲示板の目立つ場所は、結果を出している同好会へ優先的にあてがわれ、僕らに用意されたのは、追加で掲示板代わりに使われてた端の方の壁の、一番すみーっこの方。


 誰がこんなところを見るんだよと言わんばかりではあるが、逆にそんなところに極限まで地味な勧誘ポスターが貼ってあれば、間違って興味を持ってくれる人がいないかなあというアイデアである。




 だが入学式から1週間以上が経過しても入会はおろか、見学に来る生徒もいない。


「そうそう上手くいくはずもないか。仮に見学に来てくれても、こんなところで何をやるんですかと呆れられるだけだもんな」


 テオが自嘲気味に笑うが、責める気にはなれない。


 成績の下降に伴い部費も年々縮小となって、今ではほぼゼロ。練習場所も取り上げられ、代わりにここの使用許可が与えられたものの、費用が無いから整備も機材の購入もままならない状況で、入会してくれる人がいたら、どれだけ奇特な人なんだろうと僕でも思う。


 と思ったら、入会希望者がいた。そしてそれは我々同好会にとって、僕自身にとっても慈雨と言うべき人だった。


 キャサリン様とヒラリー。女性でありながら、男顔負けどころか男以上の武勇を持つ2人。容姿だけを見ればヒラリーの方が強そうだが、本当に強かったのはキャサリン様だった。


 ティハルト殿下の婚約者になるという噂の留学生、アデレイド様と共に隣国からやって来た2人。そのアデレイド様はキャサリン様のことを、存在自体が冗談みたいな人と謳っておられるそうだが、言い得て妙である。


 その見た目からは想像も付かない速さと、その細腕からはあり得ないであろう鋭い剣撃。一睨みでアソコがキューンと縮み上がるような気迫。まさに化け物です。


 そんな彼女に加え、妹君が心配で後を追っかけてきたと噂される、トランスフィールド王国公使付きの駐在武官ケヴィン殿とネイサン殿。三人には死ぬほどしごかれました。


 リングリッド辺境伯家の武名の源はここにあるのかと戦慄しましたが、キャサリン様はまだまだしごかれたとは言えませんよと仰る。あれがしごきで無ければ何だというのか。地獄でも手緩いかもしれません。

 

 当然勝てるわけもなく、唯々打ちのめされる毎日。その都度動きの悪かったところを指導してくれたり、心構えとか頭を使った立ち回りなど様々なことを教えてもらったが、そもそも勝つことが出来ないので、強くなったかどうかが今ひとつ実感できないまま本番を迎えてしまった。


 まあ僕が負けてもヒラリーが控えている。ダメで元々、やれるだけやってみよう。


(行きます!!!)



 ◆



〈キャサリン視点に戻る〉


「それまで! 勝者、ヤコブ・ドルクセン!」


 戦いはあっという間でした。


 気がつけば決着は付き、夢見心地で勝ち名乗りを受けるヤコブさんの視線の先には仲間に担がれて退場する敵の大将。


 3人抜き……完勝ですわ!!




「ケイト様、ヤコブが、ヤコブが3人抜きですよ! たった1人で!」

「あら……ヒラリー様、『ヤコブ!』なんて呼び捨てにするほど仲良くなったんですね」

「……!! からかわないでくださいませ!」


 ヒラリー様はヤコブさんの勝利を自分のことのように喜び、興奮のあまりヤコブ呼びでございます。まあそうですよね。私も1人か2人くらいならばと思いましたが、いきなり3人抜きとは予想以上です。


 まずは先鋒戦。ヤコブさんには全力の8割くらいで攻めるように申しましたが、相手は戦法を決めかね、どっちつかずで試合に入ったようで、一気に間を詰めると、横薙ぎ一閃であっさりと相手を沈めます。


 そして中堅戦。ヤコブさんの動きが想定以上の速さだったからでしょうか、まずは攻撃を受け止めるべく防御の姿勢から入る相手に、お構いなしに突撃します。


 そのスピードは私の指示通り全力の9割ほど。先程の速さを基準に考えて待ち構える相手に先手を取り、反撃を受けることなく快勝です。


 最後に大将戦。全力で攻め込むヤコブさんに対し、相手は打ち合い上等とばかりに攻めかかってまいりました。


 ですが、ヤコブさんはスピードだけではありません。パワーだって以前とは比べ物になりません。


 相手もさすがは大将だけあって、ヤコブさんの攻撃を幾度となく受け止めますが、剣が触れ合うたびにその勢いとパワーに押され始めているのは明らか。


 やがて態勢を崩し、がらんどうになった腹にヤコブさんの突きを受け、もんどり打って倒れ込みます。


 完勝です。ヒラリー様の出番が無いほどの完勝です。




「勝ちましたー」

「お疲れ様!」

「よくやったわ!」


 勝ち名乗りを受け、揚々と帰ってくるヤコブさんの顔は充実感に満ちあふれております。


「ヤコブ、強くなったわ」

「皆さんのおかげです」

「うんうん。その感謝の姿勢があれば、もっと強くなれるよ」

「ここまで強くなっていたなんて信じられません」


 そうでしょうね。今までは相手が悪すぎました。


 相手は脳筋狂戦士ブラザーズ。実際にヤコブさんの実力はかなり上がっていましたが、彼が強くなるたびに手加減の具合を少しずつ減らして、実力差は平行線のままですから、勝てるわけがありません。


 人にはそれぞれ、その人に応じた指導法があります。


 諦めの早い方だと、いつか投げやりになってしまう方法でしたが、彼の真っ直ぐな心根と、ヒラリー様のサポートがあってこそ成立する指導でした。


「そうだったんですね。でも、そのせいでちょっとやりすぎてしまったかも……」


 そうですよね。それがデメリットと言えばデメリット。


 学生同士の戦いであれば、そうそう負けることはないくらいに強くなりましたが、自分の実力を把握させなかったがゆえに、相対的な力の差を図れず、全力を出し切った結果、相手は見るも無残な負け姿。


 あれ、僕何かやっちゃいましたか? ってやつですね。


 まあ防具は付けていて、致命傷にはなりませんし、皆様相手を叩きのめす心づもりで臨んでいるわけですから、自分が傷付く覚悟もお持ちでしょう。


「兎にも角にもまずは1勝、もう1つ勝てば決勝トーナメントは確定です。次はヒラリー様の出番ですよ」

「私が先鋒ですか?」

「ヤコブさんは特訓の成果を遺憾なく発揮しました。次は貴女の番ですよ」


 彼に後ろを任せるのも悪くないでしょと申し上げますと、ヒラリー様もそうねと納得した表情で先鋒を引き受けられます。


「ヤコブ、中堅任せるわよ」

「お任せあれ」

「本当に大丈夫?」

「多分大丈夫です。君が3人抜きするだろうから」

「何よそれ〜!」


 やはり勝ちますと雰囲気もより明るくなります。あと1つ、いえ、1位通過のためにも残り2つもキッチリ勝たせていただきます。


 


 私は出ない約束でしたが、やはり戦いを見ているとウズウズしてしまいますね……

気が付けば今回で100話。

キリのいいところで話を次話に繋げたのが計100回に到達しただけの通過点ですが、これまでお読み頂いだ全ての皆様に感謝です。


次回は8/25(水)投稿です。

よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] キャサリン含めた聖騎士連中と練習したなら相手は所詮学生 なんのプレッシャーも感じないだろ
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