少女、濡れ衣を着せる
「ラザフォード公爵令嬢様は護衛役をお付けになられていないご様子。差し出がましいとは存じますが、私であれば護衛役のお役に立てるかと思い推参いたしました」
騎士課程に入学したというロニーがアリス様の護衛を買ってきました。
背は180cmちょっと、騎士課程の生徒らしく鍛えられた体格、そしてまあまあ強面。第一印象は熊、ぬいぐるみのクマではなく、リアル熊。
推参なんて上手いこと言ってますが、要は押し売りだし、丁寧な言葉遣いではありますが、一夜漬けな感じがプンプンします。
それにしてもアボット子爵家の人なんて、騎士団にいたかしら? さすがに余所の騎士団のことまで全部把握はしてませんが、私の知る限りでは聞いたことがありません。
「アボット子爵家……アボット政務官のご令息かしら」
「父をご存じとは光栄です」
「アボット家は代々文官の家柄。騎士になるのは何か理由でも?」
アリス様が彼のお父様のことをご存じのようです。
政務官は宰相府で実務を統括する官職。文官の家系であれば、騎士団で家名を聞くことは確かにありませんわね。
「ええ、我が家は父も兄も文官として勤務しておりますが、私は何というか……そちらの方面より、武芸の方が性に合っていまして……腕には自信があります。お仕えさせて頂ければお役に立てるかと」
ロニーは自信満々で自己アピールをしますが、裏を返すと勉強が苦手なのかしら?
そんなロニーの願いもむなしく、アリス様は「不要です」と申し出を断ります。まあ断られて当然ですけど、ロニーは何故だと驚きます。
「何故ですか。見れば侍女と思しき女性が2人と…チb……妹さん?」
「なんで妹が制服着てここにいるのよ。同級生よ」
「それは失礼。とにかく、その者達だけでは御身が危険に晒されたときに危のうございます」
(コイツ……チビって言おうとしたろ、同級生ってこともサラッとスルーしやがった。ホントに失礼だわ)
「外では我が家の護衛騎士がおりますし、学園内ならば信頼する彼女達がおりますので、何の問題もありません。貴男にご助力願う必要がありません」
「……アデレイド・クイントン侯爵令嬢」
ロニーの口からとある令嬢の名前が出てきました。
(へえ、推参するためにそれなりに情報は集めていたのね)
アデレイド・クイントン侯爵令嬢。学園の2年生で、ジェームズ殿下の婚約者候補2番手の方。
家柄は十分なのですが、かなり気性の激しいお方で、2番手とは言ってもアリス様とは大きく離された状態。
よって、アリス様に危害を加える可能性のあるご令嬢の筆頭になります。
「仮にも侯爵令嬢。証拠も無くあらぬ疑いをかけるのは、御身のためにも止めた方がよろしいわよ」
あらぬ疑いとトボケてますが、周りにそう思わせるだけの状況であることは事実。
ですが、それを面と向かって言ってくる方を側に置けば、こちらから先にケンカを売ったと見られかねませんので、得策ではありません。
「考えが甘いですな。学園のような場所だからこそ油断した隙を狙われます」
「そのように言われるのは心外ですわ。私には私の考えがあります」
態と隙を見せるために、私がいるわけだしね。
「しかし!」
「しつこい男は嫌われますわよ」
アリス様はこれ以上の問答は不要とばかりに話を打ち切り、この場を立ち去ろうとします。
声も表情も平然を装っていますが、内心ムカついているんだろうな。
「待ってくれ! まだ話は……」
諦めのつかないロニーが、立ち去ろうとする私達の背後から手を伸ばしかけるのが見えました。
相手を言葉で制する時には、条件反射で思わず手が出てしまうもので、本当に捕まえる意図は無いのでしょうが、私はあえて大げさに振り向きながら腕を伸ばし、彼が私の腕に触るよう仕向けます。
「何をなさいますの!」
「エッ!?」
やはり本当に捕まえるつもりは無かったのでしょう、捕まえた彼の方が狼狽しています。
「許しもなく女性の腕を掴むなど、貴男の騎士道はどこの道を進んでおられるのかしら?」
「い、いや……今のはそっちが勝手に……捕まりに……」
「勝手に? 私の方から貴男に捕まりに行ったと? 私のことを殿方に平気で体を触らせる痴女とでも仰りたいの!」
心の中の私は「冤罪目的、そのとーり!」と言ってますが、彼のアリス様に対する物言いが失礼を通り越してますので、少し痛い目を見てもらうことにします。
「貴男、女性の腕を掴むなど失礼を通り越して無礼よ。それに彼女は伯爵令嬢、アボット家に抗議されても文句は言えないわよ」
「いや、その……申し訳ございません」
何がどうなっているのかと混乱しているが、アリス様の抗議で分が悪いと感じたのか、顔を青くしたロニーが謝罪してきました。
「私も入学早々揉め事を起こしたくはありませんので、今日のところは不問としますが、以降、私への不要な接触は控えるように。ケイトもそれでいい?」
その言に私は「アリス様がそう仰せなら」と言うと、ロニーが改めて謝罪して、この場を立ち去りました。
「初日から側仕えの売り込みとはね」
「アボット家と公爵家で何か繋がりってありましたっけ?」
「立場上顔を合わせるくらいで、繋がりは無いわ」
貴族なんてものは派閥で繋がっており、仕官にはコネが一番重要。
そういうコネが無い人は、能力重視で採用する国の役人や騎士団などの職を目指すのが一般的だが、たまにコネのある人からの推薦で売り込みに来る人もいる。
だが彼の場合、家同士の繋がりとか推薦状のようなコネも無ければ、その為人も才能も不明。余程ピンポイントでその人に相応しい職が空いてない限り、おいそれと受け入れられる訳がない。
しかも今回の場合はアリス様個人への仕官。男性を側仕えにしては、そういう仲なのかと邪推する者が絶対出てきますので、余計にムチャな話です。
「彼の狙いは何?」
「敵対する令嬢のスパイ?」
「受け入れる訳無いのはさすがに分かるでしょ」
「それじゃあ何で?」
「うーん」「うーん」「うーん」
3人でああでもない、こうでもないと推論を交わしていると、アリス様が「とりあえず様子見ね」と仰り、エマとサリーに彼の意図を探るよう指示を出されました。
あのロニーという男、何かの目的があったのか、それとも只の考えなしのアホなのか。
初日から波乱の予感ですわ……
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