少女、未来は地平線の彼方に
初の連載始めました。よろしくお願いします!
※主人公の設定上、性的嗜好、下ネタなど不快な表現が一部入ります。あらかじめご了承ください。
「おはようございます」
「ああ、おはよう……って、ちょっと待ってー!」
ここは王立学園の正門。
朝の登校時間、多くの学生が門をくぐる中、守衛が一人の少女を呼び止める。
「君、ホントに学園の生徒かい?」
呼び止められた女子生徒。
たしかに学園の制服は着用している。が、その見た目は明らかに通学する生徒の年齢ではなく、不審に思った守衛に止められたのである。
「はい。間違いなくここの学園の生徒ですが……」
その少女は、呼び止められたことに一切動揺を見せることも無く、「またか」といった表情で学生証を提示する。
「えーと、淑女課程一年、キャサリン・リングリッド……ホントにウチの生徒!?」
「おい、新入りナニしてんだ? ……って、ああケイトちゃんか。悪いな、コイツ今日から配属の新入りなんだ」
「そうでしたのね。淑女課程1年のキャサリン・リングリッドと申します。このようなナリで申し訳ございませんが、お見知り置きいただけると助かりますわ」
そう言って二人の守衛に微笑み、校舎の中へ消えていく少女の背を見つめながら、新入りと呼ばれていた守衛が先輩に確認する。
「先輩、あの子ホントに15歳ですか?」
「学生証見ただろうが」
「年齢詐称じゃないですよね……」
「キャサリン・リングリッド伯爵令嬢、15歳で間違いない」
「あ、リングリッド伯爵って」
「王国一の剣聖、マルーフ卿の御息女だ」
◆
入学してからそろそろ3ヶ月、これで止められたのは何回目かしら……
年相応に見えないのは分かるけど、やっぱり傷つきますわ。
皆様ごきげんよう、私の名はキャサリン。仲の良い方からはケイトと呼ばれております。
父は王国第二騎士団の団長として、他国との戦や野獣討伐で多大な功績を残し、当代一の剣聖と呼ばれている、リングリッド伯爵マルーフ。私はその父のもとに生まれた4人兄妹の末っ子、唯一の女の子として生まれ、幼い頃は美少女ともて囃されました。
ですがリングリッド家は代々騎士の家系。騎士になるため、幼い頃から鍛錬を重ねる兄達の姿を見ていた私は、自然とその輪に加わって野山を駆け回るようになり、結果、可憐なご令嬢とは程遠い野猿が出来上がったのでございます。
しかもウチの兄達は、後に全員が学園の騎士課程を首席で卒業したという武闘派兄弟。そんな生まれついての脳筋狂戦士は、妹相手でも手加減というものを知らず、遊びと称したガチンコ訓練を日々かましてくれるので、幼い頃は生傷の絶えない毎日でした。
普通の女性は剣を扱えなくて当たり前だから、もう少し手加減してくれてもよろしいのよ。と思わなくもありませんでしたが、生来負けず嫌いな性格で負けっぱなしが悔しい私は、お父様にお願いして、騎士団の皆様に本格的な訓練の手ほどきをお願いしましたの。
父にとって私は唯一の娘なので、可愛く着飾って愛でたいと思っていたそうですが、本人がそうしたいならと訓練を認めてくださり、その甲斐もあって「将来は『美人すぎる女性騎士』と呼ばれること間違い無し」と、騎士団の皆様に言わしめるようになり、私も将来は騎士になるんだとずっと思っておりました。
それから10年近くが経ち、今は15歳。
さらに強く美しくなったはずなのに「美人すぎる女性騎士」と呼ばれる未来は、やってくる足音すら聞こえません。
武芸の腕前は、猛者揃いの第二騎士団でも太鼓判を押されています。騎士団の野獣討伐にご一緒して、ゴブリンやオークくらいなら1人で屠ることが出来ますので、それなりの腕前だとは思います。
小さい頃から美少女と呼ばれておりましたので、顔も悪くないと思います。訓練でも顔に傷が残らないようには気を付けていましたしね。
ではなぜ美人すぎる女性騎士と呼ばれる未来がやって来ないのか。それは……
「おはよう、ケイト。何ボーッとしてるの」
「おはようございます、オリヴァー様。ちょっと考え事をしてましたの」
「また守衛に止められちゃったね」
「いやですわ、見ていたのなら助けて頂いてもよろしかったのに」
私に声をかけて来たのは、公爵家次男のオリヴァー様。私の幼なじみで、現在学園の3年生。妹のアリス様が私と同級生であり、昔から家族ぐるみのお付き合いをしていたという気安さもあってか、よく声をかけてもらいます。
オリヴァー様はウチのがさつな兄達と違い、まさに貴公子の中の貴公子、学園の女子達の憧れの的。幼なじみとはいえ、彼のような素敵な男性に声をかけて頂いて嬉しくないわけがありません。自然と顔がほころびます。
「なんだオリヴァー、その子どこから誘拐してきたんだ」
2人でとりとめも無い話をしていると、オリヴァー様の友人がからかってきました。
「馬鹿を言うな。妹の同級生だ」
「へぇ、オマエそういう小っちゃい子が好みなんだ」
「その言い方は……ウチの家を敵に回す覚悟があっての発言と思っていいんだな?」
「おー恐、冗談だよ冗談」
オリヴァー様は本気で怒ってご友人を追い払いましたが、からかわれた理由が正に美人と呼ばれる未来がやってこない原因。声をかけられて喜んでいた私は急に気持ちが沈んでしまいます。
「ケイト、気にしなくていいよ。アイツも本気で言ってるわけじゃないから」
「ですが……私のような幼女に見える女と一緒にいると、オリヴァー様にご迷惑がかかりますわ」
「迷惑なんて思っていないさ、言いたい奴には言わせておけばいい」
そう、私が美人になるため足りないもの……
それは身長とスタイル(涙)
身長は130cmちょっと。確か8才くらいまでは普通に伸びていたのですが、それから数年間で伸びたのはごくわずか。胸は永遠に続く地平線が広がり、地殻変動が起きる気配もございません。
背が低いだけならまだいい。私はそれに加えて非常に幼い顔立ちのため、初対面の人には間違いなく10歳くらい、人によっては年齢一ケタに見間違われることは日常茶飯事。
学園の男子からは妹的な可愛さはあるが、彼女や婚約者としてしまうと、自分の嗜好が「幼女好み」と思われるのではないかということで、恋愛対象からは外されており、今のところ私がモテる要素は皆無。付けられたあだ名は「歩く年齢詐称」
優しいオリヴァー様はいつも励ましてくれますが、彼も今年学園を卒業すれば、今まで以上に社交の場へ出ることになります。私が側にいることであらぬ噂を立てられては、申し訳が立ちません。
はぁ……美人と呼ばれる日、いや、美人と呼ばれずとも年相応の女の子に見てもらえる日はいつになったら来るのでしょうか。今のところ(胸の)地平線の彼方にも姿が見えませんわ。
「そんな顔をするなケイト。君はまだまだこれから大きく成長して素敵な淑女になるためにここに来たんだろ。諦めるにはまだ早いよ」
そうです。騎士を目指していた私が淑女課程に通うのは、素敵な淑女になっていつかみんなに武人、ではなく美人と言わせるため! ……というのは建前。オリヴァー様もご存じなのに意地悪ですわ。
本来ならば騎士を目指す課程に進むはずだった私が淑女課程に進んだ理由は、オリヴァー様の妹アリス様のためなのです……
〈この物語は、小っちゃな少女キャサリンが、周りを巻き込みながら成長し、幸せを掴むまでのお話である〉
お読み頂きありがとうございました。
次回は入学一年前のお話となります。