6 新作ケーキを出品するそうです
リーネ視点です♪
(10/27/2020 少し読みにくい文章があったので修正しましたが、内容はほとんど変えていません。)
(今日もおいしそうにできたなぁ!)
リーネが自己満足にふけりながら出来立ての生ケーキをショーケースに陳列していると、ミネアが何やら慌てた様子でバックヤードから出てきた。
「リーネ、ちょっとこちらにいらっしゃい!」
「ふぇ?」
ミネアの必死な形相に、何かまずいことでもしでかしてしまったかとリーネは一瞬焦ったような表情をしたものの、思いあたる節がなかったのか戸惑った様子でバックヤードに連行されていった。
そしてミネアは再びバックヤードから顔を出し、もう一人のパティシエであるロバートと販売員のカレンに向かって、「あとのことはお二人にお任せしますね!」と言い放つと、バタンとバックヤードのドアを閉めた。
ミネアはドアを閉めるとすぐリーネに向き直り、目を輝かせながらリーネの度肝を抜くようなことを言い出した。
「ねぇ、リーネ聞いて。あなたの新作ケーキを王家主催のケーキコンテストに出品しようと思うの!」
「・・・え、ええー!?」
(ミネアさん、なんだかまたすごいことを言い始めたけど大丈夫かしら?普段は常識的なのに、突然びっくりすることを言うのよね。こないだの王都への研修だってかなりの出費だったろうに、ミネアさんからは気易くいってらっしゃいと言われてうれしい反面びっくりしたのよね。)
そんなリーネの胸中などお構いなしに、ミネアは話し続ける。
「それでね、コンテストのテーマは茶会で供するケーキってことなんだけど、作品概要と完成図を急いで準備しないといけないの!」
「あ・・・あの、ちょっとまず確認をさせてもらっても?そもそも王家主催のコンテストに、平民が出品できるものなのでしょうか?」
王家が主催というからにはそれなりの身分がなければ応募できないはずでは?と考えたリーネが思わず尋ねると、ミネアはいたずらっ子のような表情をして、うふふと笑いながら言った。
「あ、それは店から応募するから大丈夫よ。それにね、そもそも私が貴族だから何の問題もないのよね。あ、制作者はリーネってちゃんと書くから安心してね。」
ミネアが貴族であることをさらりと言いのけたので、リーネは思わず面食らった。
だが、思い当たる節は今までもいくつかあった。
(そうだ、ミネアさんが平民のはずはないわよね・・・。)
貴族とは思えないような気やすさと姉のような態度に最近は全く意識していなかったが、ミネアに初めて会ったときにリーネは平民とは思えないような美しさと気品にしばしの間見入ってしまったことを思い出した。
(腰までまっすぐに伸びだライラック色の髪、落ち着いたプラチナカラーの瞳にほっそりと長い手足、そして整った顔立ちがまるで絵本から飛び出してきたお姫様のようだと思ったのよね。)
加えて、リーネが店舗への面接に行く前に、事前面談と称して領主であるグローリオーザ伯爵家の当主がわざわざ製菓学校まで訪問しにきたのだ。
そんなことは前代未聞で、「メゾン・ド・グローリア」は他のパティスリーとは何か違うようだとリーネは感じていたのだった。
(だから、ミネアさんとの面接を経て自分が採用されたのはとてもうれしかったな。)
リーネがそんなことをぼんやりと考えていると、ミネアは焦れるように口を開いた。
「それでね、コンテストの締切が明後日だから今日中に書類を出してしまいたいの。まずは、作品概要をまとめるのにちょっと話を聞かせてもらえるかしら?それから完成図のデッサンっていつも描いていると思うのだけど、今回もあるかしら?」
(あ、そうだった。コンテストの話をしていたのよね・・・。)
リーネは、ミネアが貴族であることはひとまず置いておいて・・・と頭を切り替えて返事をする。
「はい、デッサンは新作を考えるときにいつも描いているのですぐにお渡しできます。それから作品概要は・・・塩キャラメルを使ったケーキという説明だけじゃダメですよね。甘さ控えめの素敵なケーキを作りたいと思って、いろいろな素材を組み合わせてみたら意外とお野菜やナッツとの相性が良かったので斬新かなと思って作ってみたんです。」
「ケーキに塩キャラメル・・・?確か塩キャラメルって・・・。」
ミネアはリーネが隣人によくスイーツを差し入れていることを知っていた。そして、その隣人が塩キャラメルを気に入っていたことも。
「はい、前にお話したと思うんですが、お隣さんが塩キャラメルを気に入ってくれて。もういなくなってしまったんですけど、ね・・・。」
リーネの言葉に今度はミネアが驚く番だった。
「え、リーネ???もういないってどういうこと!?」
「実は・・・こないだの研修から帰ってきたら引っ越しちゃってて。」
そう告げるとリーネは思わず目頭を押さえた。
そして泣いてしまいそうなのをこらえて、ようやく何とか取り繕ったような笑みを浮かべた。
「つらいことを思い出させてしまったようでごめんなさいね。けれど・・・とても素晴らしい作品だと思うの。これはきっと、リーネにしか作れないケーキだと思うわ。」
それを聞いてリーネは別の意味でまた目頭が熱くなってしまい、ついに涙をこらえきれなくなってしまった。
リーネがミネアの発した言葉に思わず感情が高ぶって涙をこぼしてしまったその傍らで、ミネアはなんとか作品概要をまとめ上げ、素早く応募する準備を整えた。
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