2 帰る間もなく引っ越しさせられました
ライアン目線になります♪
その頃、ライアンは騎士団とともに王都へ向かっていた。
ここ数か月ほどの間にライアンが働く便利屋へは、魔獣の駆除よりも騎士団の魔獣討伐の道案内の依頼が多くなっていた。それはサーシェ近郊の森で魔獣の出没率が上がってきているためである。
ライアンは以前から何度か道案内の依頼を受けていたが、今回は魔獣討伐のための戦力サポートもあわせて依頼されていた。
そして今回の討伐対象である魔獣を仕留める際にライアンが少なからず活躍したことで、討伐に参加していた第三王子であるアンドリューに気に入られてしまい、有無を言わさず王都への帰還に付き合わされてしまったのだった。
さらにアンドリューは、ライアンが王都で騎士団に入隊することをほぼ決定事項として、ライアンへの断りなく彼の住まいを王都に移すように手配してしまったのだった。
ライアンがその事実を知ったのは、王都にある騎士団の寮に着いた時であった。あてがわれた寮の一室の扉を開けると、自分の部屋がそっくりそのまま転移してきたかのように再現されていたのだった。
ライアンはその驚愕の事実に唖然とし、そして次の瞬間、脳裏ににっこりとかわいらしく微笑むリーネの顔が思い浮かんだ。
(こんなことになるなら、いっそリーネに自分の思いを伝えておくべきだったな・・・。)
サーシェで自分の住まいの隣に住んでいたかわいらしい女性。
いつも自分を頼ってくれていたことがとてもうれしかった。
だが、彼女の自分への気持ちは、恋愛対象というよりもどちらかといえば兄のような存在として慕っているようだと薄々感じていた。
そのため、彼女との関係性を壊したくなくて、告白しようとまでは思えず、あいまいな関係に甘んじていた。
けれども。
自分が騎士団員として身を立てられたら、彼女に思いを伝え、受け入れてもらえるチャンスにつながるのではないか。
だからこそ、この与えられたチャンスをものにして、騎士団員としての立場を確固たるものにしなくては、とライアンは思うのだった。
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その後、ライアンは騎士団試験を受けて見事合格し、騎士団の一員となった。
ライアンの剣裁きは少々荒削りではあったものの、日頃の鍛錬と便利屋として働いていた時に身につけた無駄のない動きとスピードは目を見張るものがあり、実力の程は誰の眼から見ても明らかだった。
またライアンの経歴から魔獣討伐の即戦力としての働きが期待され、半年間の訓練後は討伐部隊に配属されることになった。
ライアンは一刻も早くリーネにそのことを報告したかったが、入団したばかりの騎士団員は情報漏洩防止の観点から家族以外への連絡は一切禁じられていた。
家族からリーネに連絡してもらうことも考えたが、付き合ってもいない男の家族から連絡がきたらドン引かれてしまうのではないかと臆してしまい、結局ライアンはリーネに連絡する機会を失ってしまった。
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