二十二話 『夏休みの予定』
金曜日――
大掃除中、同じく特別教室の掃除に配置された相田が海の日程を発表する。
男子七人、女子五人。最終的にはもう少し増えるかもしれないが今のところそんな感じ。仲のいい人が仲のいい人を呼んでいる。
そんな全員の日程が合うのは八月に入って、二日目の日。割と大変な大掃除終わり、帰りに鴻崎にそのことを伝える。
「うん、大丈夫。予定とかないから」
「あー、まぁそれならいいな」
遊ぶような友達も多分いなさそうだ。鴻崎が女子友達とつるんでいる、というところは見たことがない。
ということは夏休みの大半が暇だろう。夏休みの宿題は一応あるが形式的なものでとても少ない。たぶん一週間となく、頑張れば一日で終わらせられる。こと鴻崎は一日で終わらせるそうだ。
そんな帰り道、鴻崎は改めて、
「私、露出とか出来ないから……ごめんね」
「別に、期待してねぇよ。そんなこと」
「え? 期待、してないの」
なぜだか鴻崎は悲壮面。口をきゅっと引き結んで項垂れた。
「いや、まぁ……見たくないとかそういうことじゃなくて、別に無理させてまでみたいほどじゃないというか……まぁそのなんだ。見せたくないんだろ?」
「でも、一応、水着、着てみるつもりだから……上にラッシュガードとか羽織るけど」
鴻崎は「それだったら傷も隠せるし」と呟く。
「そっか、じゃ、楽しみにしてるよ」
公園で道を別れ、各々家路につく。
羽知は自室のクローゼットを漁っていた。探し物は海パン。こういった年に数回使うか使わないかの代物の管理はすべて親任せにしていた。見当たらず、後頭部に手を当てる。中学高校とプール授業がなかった。そんなこともありぴちぴちの水着すらない。あったとしても穿くわけがないのだが。
「こりゃ、買うしかないか……ま、五千円ありゃまともなのは買えるだろ」
とりあえず急ぐ必要もなく、探すのを諦めた。
夏休みが始まり、バイト。夏休みという約一か月の休みを良いことにバイトを始めたという同世代が見られる。他校の生徒である女子といつの間に仲良くなったのか仕事中だというのにおしゃべりを繰り広げる相田のそんな後姿を羽知はレジカウンターから妬ましく見る。とてもむなしい気分に駆られていると客が来る。その対応をこなす。
長々と陳列をしているわけにもいかず、相田はこちらによって来る。よろしくない。
「そんなジっと見て、どうかしたか?」
「お前は女子と話すためにバイトしてんのか?」
「んだよ、僻みか? お前ももっと積極的になったほうが良いぞ――ってそっか、お前には鴻崎っていう彼女が居るんだったな、わるいわるい」
ばしんばしんと肩を叩く相田。
「俺は一途だからな、ほかの女子に話しかけて痴情のもつれを招くわけにはいかないんだよ」
「そうはならんだろ」
「どういう意味だよ」
「彼女の眼中に入らない――ってこったな」
「レジ、任せた」
「おう? 浮気はすんなよー」
虚仮にされて黙っているような性格ではなく、羽知は陳列中の女子の隣に屈む。
「何か手伝おうか?」
向いた黒く潤いのある瞳。人形の精緻なガラス工芸に生まれた瞳みたいだった。思わず吸い込まれそうになる。物腰柔らかな笑みを浮かべ、捉えた双眸が羽知を一時時空に拘束する。
如実に体感した異質に羽知は冷や汗をかく。
「あ、羽知さん。いえ、こちらは大丈夫です。相田さんが手伝ってくれたので」
「あ、あぁそう」
羽知は無理やり笑みを浮かべ、すぐに立ち去った。すると相田が肩を叩き、
「撃沈だな」
その手を無言で払った。
お昼時になると客足は賑わい、レジに最低でも二人いないと回せない、という時間帯。
午後一時を過ぎるとその足取りも静まり、暇になる。さっき補完した棚も今ではもぬけの殻。
そんな時間を見て休憩を入れる。割引で買うコンビニ弁当を食べつつ、同じく休憩をとった新入りの彼女、三浦・帆夏。都内の私立女子高に通っている同じく一年生。
女子校育ち――という崇高な響きなど思わせない接しやすさがある。曰く、異性の目がないゆえに『女の子らしさ』というものが次第に薄れゆくとか何とか。とてもそうは感じない。
けれどそれとは違った異様な雰囲気を纏っていた。
――彼女もまた、自分と似ている。
頭を振った。きっと錯覚だ。
「三浦さん、結構シフト入れてるけど、夏休み予定とかないの?」
適当に自分のシフトを確認ついでに彼女のシフトを盗み見た。羽知のシフトに被せるように入っていた。目を眇める。
鮭おにぎりを食んでいた三浦が少し驚いたような顔をする。嫌にかわいらしい。そして口の中をお茶で流し、指先を合わせた。
「私、バイト、してみたかったので。それが夏休みの予定なんです」
「そりゃ大層なことで……社会勉強とか、そういう感じ?」
「まぁそういえば聞こえはいいかもしれませんね」
と言い微笑み、「でも、本当は欲しい物があって」と付け足した。その小さなつぶやきに反応するべきか迷い、反応しなかった。羽知は悪意を孕んだ眼光を見逃さない。
「ま、ほどほどにね。比較的この店舗は暇だから大変だってことはないと思うけど。店長いつも営業成績が悪くて汗かいてるし、君みたいな容姿のいい人が居れば士気も上がるよ」
「お気遣いありがとうございます」
と三浦は編まれた長い髪を尻尾のように撫でながら言う。
休憩が終わり、羽知は一足先に店に出る。それと入れ違いに相田が休憩をとる。
というかこの店、高校生しかいない。
店長はまた本部に出払っている。帰りは夕方を過ぎるだろう。




