高校3年 秋の味
秋のお話です
2019.10.14 Am7:10
ラスト数行に文面を追加しました。
花火大会から2か月後。
文化祭も終わり、受験シーズンまっただかである。
ちなみに文化祭では、クレープな味がしたのはこっそり告げておく。
そんな受験勉強なお休みの日。里奈が泣きついてきた。
「和樹ー」
勉強している俺の部屋にである。
両親も、姉妹も里奈の事認めているのはわかってるさ。
でも、年頃の娘さんを男の部屋にあげるのってよろしくない?
「もー聞いてよ。お父さんがね!」
実際には泣いてないのだけど、進路に関する里奈の家庭の話らしい。
いやこれ、俺が判断できねーよな。むしろ、里奈の考えを里奈のご両親に説得するの、俺が関わるの?と頭によぎる。
「成績は何とかB判定を維持してる。でも一人暮らしは危ないからダメってね」
現時点でのB判定、これを維持すればチャンスはあるかもしれない。
「進路の学部がダメという理由から来てるわけじゃないの?」
「そこもあるのかな。医学部は女性に大変だってのもあるかもしれない」
今年初めに騒がせた医学部問題が頭をよぎる。
夜勤もあるし、不摂生となるし、大変だと聞いてるもんね。
「和樹は合格したら東京に出る予定でしょ?でも家から通うには遠いし」
片道2時間半の大学だ。どうしたって家を出て暮らさざるを得ない。
通えない距離じゃないけど、通学は大変だ。
「和樹も一緒に説得してよー」
え、だから何で俺が里奈の両親を説得しなければなんないのさ。
直接これを言うと里奈が怒るだろうから、言い回しを変えて聞いていた。
「俺が同席して効果あるの?」
「んー、わかんない」
どちらにしろ、これ以上の勉強は手につかないだろうな。
出かける準備をすると、里奈が喜んだ。
「あ、お母さん?さっきの話だけど、和樹も一緒に参加してくれるってー」
スマホで電話する里奈。何だろう、この外堀を埋められてる感は。
娘の進路に、他のお宅の男が顔を出して納得するんか?
「え、和樹にお礼を言いなさいって?わかったわ」
あ、里奈のお母さんはマトモなようだ。里奈が納得するよう同席するか。
里奈と共にいつもの道を歩く。
いつもの曲がり角。ここでいつもと違う道を曲がる。
「それで、ご両親が納得するような説得方法はあんの?」
「うーん」
駄目だこりゃ。まぁ、同席して俺は何も言わずにしてればいいか。
よそ様の事情に口出すわけにもいかんしね。
あれこれ話しつつも、いい説得方法は出なかったようだ。
そして里奈のうちの前に到着する。
普通の一軒家でなく、古くからあるような壮大なお宅。
入り口には監視カメラ付き。
常に姿がチェックされている。里奈が何かをかざすとピーっと音が鳴った。
日本屋敷なのに意外とハイテクだな。
そんな事を考えながら、訪問した。
「ただいまー」
いつも来るたびに思う。里奈の家すげーなー。
従事さんいるし。
「これは、乾井のお坊ちゃま。ようこそいらっしゃいました」
そう挨拶する従事である松田さん。
「こんにちは、松田さん。腰のお加減はどう?」
腰痛持ちで50代後半なダンディ叔父さんだ。
俺もこんなカッコいい人になりたい。
「年ですからなー、快調とは言えないもんです」
よそ様の子息にも丁寧に挨拶してくれる。
あー、手土産用意すればよかったのかなと今更ながらに気づいてしまう。
「まっちゃん、お父さん居るよね?」
里奈にとってみれば、こんなカッコいい従事長も『お手伝いのまっちゃん』である。
「旦那さまも、理子さまと共にお待ちしております」
理子さんというのは、里奈のお母さんだ。
里奈はスタスタと歩いてるが、お高そうな絵とか、坪とか飾られてる。
本当、里奈のお宅すごいなー。
「入るよー」
そんな声で客間に入る里奈。
改めて思うが、何で俺連れてこられたのだろう。
里奈のご両親が座ってるし、何か言われる前に先制ジャブだ。
「こんにちは、勇次郎さん、理子さん。この度はご家族のお話に顔を出してしまい申し訳ございません」
お辞儀をする。マジでしゃしゃり出る気ないし!
「和樹君、よく来てくれたねー。こちらこそ、里奈が迷惑かけたね」
「里奈、ちゃんと和樹君にお礼言ったの!」
あー、こりゃ説得だめだろうな。
親父さんも、お袋さんも里奈と反対意見そうだし。
「言ったよー、もう!」
向かい側に座る俺と里奈。『失礼します』と松田さんが入室し、お茶の用意をしてくれる。
そんな中でノック音と共に入室したのが、勇成さん。里奈のお兄さんでもある。
「こんにちは、勇成さん」
「和樹君よく来てくれたね、里奈が迷惑かけて申し訳ない」
そういって勇成さんが座ったのは、里奈のご両親と僕達の席の真ん中。
いわゆるお誕生日席とも言われる場所だ。
細かいお話は割愛する。
里奈は「どうしても、東京の大学行く!通学面倒だから一人暮らし!」
里奈の父である勇次郎さんは「一人暮らしなんて危険だ。認めん」
俺と勇成さんは居るだけの存在。たまに里奈母の理子さんが口出すくらい。
なんで俺、ここに居るんだろうね。
勇成さんに目を向けると、『うちの問題なのにスマン』と返される。
「わかったわ、一人暮らしがダメなんでしょ!和樹と一緒に住む!」
えぇ、思わず里奈に視線を向ける。ニコリと笑みを返された。
里奈のニコリ笑顔可愛いね。いや違うけど。
「それは名案だね」
里奈兄の勇成さんがフォロー。え、よそ様の男と住まわすの良いのか?
里奈母の理子さんも何故か納得してるし。
良いのか、それ。俺なにも発言してないけど。
それでも何となく渋っている里奈父の勇次郎さん。
恐らく、俺の事を配慮してくれてるんだろうな。
仕方ないかー、よそ様の男と住まわす為にも里奈へ手助けするか。
「勇次郎さんお願いがございます。高校卒業と同時に、里奈さんと婚約をさせて下さい」
まぁ、という表情の里奈母である理子さん。
婚約の言葉に驚く里奈。里奈にプロポーズはまだだけど。
勇次郎さんには驚かれた。
「いつか里奈を下さいと言われると思ったが、婚約の言葉にはビックリしたよ」
というのが、後日談の里奈父、勇次郎さんの言葉である。
結局、俺との同棲、お手伝いさんの派遣を条件に里奈は東京に出る事を許可された。
俺の家では、里奈の株がすごく高い。
でも里奈の家である東雲家では、俺の評価が何となく高い。何でだろう。
詳細は、両家を交えて後日との結論になった。
里奈の機嫌がすこぶる良い。ニッコニッコ顔の里奈が隣にいる。
「里奈の相談無しだったけど、婚約がそんなに良かったか?」
「うん、ちょーびっくりした。東京に出る話より嬉しかった!」
どうやら里奈の中では『お嬢さんを下さい』に等しかったらしい。
そりゃそうか。里奈の家族の中で、娘さんと婚約させて下さいだもの。お嬢さん下さいと同等か。
「和樹」
「ん?」
そんな満面な笑みの里奈からキスをされた。
チュッとそっと触れるひと時。顔を離してもニッコニッコの里奈がいる。
「婚約、お受けいたします」
「おう」
里奈の顔を見るのが恥ずかしく、プイっと顔をそむけた。
きっと別の意味で笑みを浮かべてるんだろうな。
高校3年の秋は、『満面の笑みな味』だった。
駄作を閲覧頂き、ありがとうございました。
この話を投稿するにあたり、センター試験の概要を調べました。作者が試験受けたのなんて十数年前で全然覚えてねーわ(笑)
次話は、高校3年 冬のお話で14日夜に投稿予定。
ポイント等を頂けると、執筆活動の動力となります。
見てみたい状況等、感想等を頂けると、執筆活動に活かせるかもしれません。