8グラウンドで眺めます。
ブックマーク・誤字報告ありがとうございます!!
薬草園からの帰り道、遠目に見えた学園のグラウンドに数人の生徒が剣を振るっているのが見えた。
その中にお兄様らしき人影はなく特に何も思わず頑張ってんな〜と横目で眺めているとお母様がどうしたのと私の視線の先を追った。
「あら、確かあれは、なんだったかしら…あ、そうそう。デンドロ侯爵家の方ではなくて?」
デンドロ侯爵家て、貴族時代の頃からいたな…女王時代はいなかった気がするけど。確か侯爵家でありながら優秀な騎士を輩出していた名家だった。
「あぁ、彼はそうですね。現侯爵の弟殿です。騎士道や剣術などの先生をしています。」
「彼は私から三本とった数少ない人だったからてっきり騎士団に入っているのだと思っていましたわ。」
…三本とったって、戦ったって事だよね?
こんな綺麗なお母様に決闘を申し込むって事はもしかして…
お母様をチラッと見るとニコって微笑まれた。
「私に求婚してきた殿方の一人です。」
う、うええぇぇぇぇええええい!!!
さ、さっすがあぁぁあ!!やっぱ絶世の美女はどこに行っても求婚者がいるのかなぁ?
「せっかく剣術の授業中のようだし見に行きましょうか。」
そう言い、私の手を引きながらお母様はグラウンドに向かい歩き出した。
す、すげぇ…振った男の元へ旦那を連れてちょっとコンビニに買い物行こうかな?みたいなノリでまっすぐ歩いて行っていやがる!
チラッとお父様を見るといつもとなんら変わらぬ顔で「あぁ、ゼブラか。三年ぶりだ、今度酒にでも誘うか。」て、つぶやいてるぅぅ!結構仲よさそうだし、その仲いい奴の思い人を嫁にしたのに平然としてる!さっすがぁ!もぉう、かっこいい奴め!(やけくそ)
トムさんを見ると私と同じ考えだったのか、顔から表情が消えてますね。
あ、口角が上がってきた…が、目が笑っていなぁい!見事なアルカイックスマイルですね。
恐ろしい思いでトボトボ歩いていると見知った横顔を見つけた。
彼を見つけた事によって憂鬱だった気持ちが若干紛れた。どうやら手合わせをしているようでカンッカンと木刀力強くぶつかり合う音が聞こえる。
彼の方が圧倒的にリードしているようだ。おぉ、結構強いのでは?すごいな王子様。
視界の端で教師らしき大柄な男がこちらに気づきギョッとした顔になった。そして次の瞬間にはニカッと人のよさそうな笑みを浮かべ手を振っている。そして手をパンパンと鳴らし手合わせをしていた七組を止めた。彼らは互いに礼をし男の元へ集まる。
「彼がデンドロ家のゼブラ様ですよ。」
お母様が視線であの大柄な教師を指す。うん。だよねー。
グラウンドに入り彼らに近ずくと私の目当ての人物は気づいたようで小さく笑って手を振ってくれる。
「あら、エレノアはベネザードの王太子と知り合いだったの?」
「はい、ほけんしつですこし。」
ここまで来るとやはり、殆どの生徒が気づき驚いた顔をして急いで礼をして行く。
ほぉ、やはり王弟殿下夫妻は有名なようだ。
ゼブラさんが前に出て私たちに挨拶をしようとして口を開いたすぐ、お父様はゼブラさんとは視線を合わせずゼブラさんより先に声を発した。
「娘はまだやらん。」
……
あたりに沈黙が落ちる。皆目を見開いてそんな事を言われたセオ様を見て、そして言ったお父様を見て、最後にその娘っぽい私を見る。
…もう、驚きすぎてさ。一周回って冷静だわ。
「おとうさま。セオドリクおうたいしでんか はようじょしゅみではありません。つまり、そういうことです。」
いくら仲がいいからってすぐにそういう方に考えないでください。
そういう意味を込めて結構真面目な顔とトーンで言ってやたぜ。ふん!(キラ)
って、あれ、またもや静寂が訪れる。
「ふ…ふくっ…くく…言い訳するところが違うだろう…くふっくく…つまりそういう事って…くっ…」
セオ様は口を手で押さえ顔を背け、肩を震わせています。
…いや、笑う要素あったかな?
「いや、エレノア、私は殿下が幼女趣味だと思っていったわけではなく…いや、違うところで勘違いはしていたが。すまないな殿下、勘違いをして。」
「ははははははははは!!!なんと面白い事だ!殿下が幼女趣味とは!それにアーサーがオロオロしているのを見るのは中々に珍しい事だ!もしやその可愛らしいご令嬢、最近噂になっている目覚めた眠り姫ですかな?」
ザワリと周りが騒がしくなる。
「彼女が…」とか「やばい…目覚めそう…」「天使の降臨」「ブルーノ殿がいっていた通りだ…⁉︎」とか色々聞こえてきた。
お兄様一体何を言っていたのですか?
困って元の冷静さを取り戻したセオ様に助けを求めると、また手を隠し肩を震わせ笑い出してしまった。
なんなの⁉︎意外とよく笑う人なの?
仕方なくお母様と繋いでいた手に力を込め見上げる。…どうしたらいいですか?
意思の疎通はできたようでニコッと笑うと、見ててねと囁き前をエンジェルスマイルを添えて見据えた。
「久しぶりにハルガネット帝国に帰ってきたので息子の学園を娘と一緒に見学しているのですが少し参加してもよろしくて?」
…参加って、見学の事だよね?一緒に授業に参加じゃないよね?
「見学のみでお願いします。剣姫が参加したら……ダメです。」
ゼブラさんが顔を青ざめて首をブンブン振って拒否を表してます。
お母様一体何したの?なんか恐れられてない?この人お母様に求婚したんだよね?なんかそういう感じが全くないんだけど吹っ切れたのかな?
「ならば久し振りに手合わせをしないかゼブラ。生徒たちも実技ばかりではなく見て学ぶこともいいだろう。」
「ん?そうだな。きっと剣姫を落としたお前の剣術を皆も見たいだろう。」
「では審判は私がしてもいいかしら?」
「よろしいのですか?」
お母様はえぇ、と言ってニコニコ笑っています。
やはり今日も綺麗ですね。でもちょっと怒ってます。よっぽど戦いたかったのだなぁ…
そんなお母様に戦うために上着を脱いだお父様はポンポンと頭を撫でる。お母様は不貞腐れながらお父様の上着を受け取り私に少し離れているよう言いました。
ルールは剣技のみの魔法禁止。場外と審判の戦闘不能宣言と降参を言わせるまで続くそう。
半径5メートルほどの円の中お父様とゼブラさんが足を一歩引き構える。
場は静まり返り緊張感が漂う。
「はじめ」
カァンと音が響く。
二人は斬っては受け止め流しとやりあっている。語彙力がないのでなんとも言い表せないが早い。ぶつかり合う音も重く本当に木刀で試合をしているのかと疑うほど。
二人ともすごい集中力で斬りかかりあう。
ぶつかり合い、外に退きまた一歩前に出る。
皆が緊張感漂う中私はというと…早々に飽きた。
だって見ているだけってつまらないの。多分このままいけばお父様が勝つし私は安心してそこに飛んでいる蝶を眺める。
モンシロチョウだぁ。
「暇そうだな。」
横から声をかけられる。
セオ様だ。
セオ様は他の生徒たちのように前のめりに試合を見ず、後方からジッと見ていたので私の様子に気づき話しかけて来てくれた。
「だってなにもせずにみているだけなんてあきてしまったのです。わたしもたたかってみたい。」
「ふふ、そうか。自分もしたい方だったか。興味がないのではと思い話し相手でもしようかと思って来たが。どちらが勝つと思う?」
まぁ、なんてわかりきった事を聞くのでしょう。あ、でもセオ様わかってて聞いてますね?
まぁ、誰でもわかりますよね。あのお父様ですもの。少し手を抜いて戦っていらっしゃるのを分かっているかはわかりかねますが。
「おとうさまです。」
あ、そろそろ授業が終わる時間だ。さぁお父様さっさと終わらせてくださいませ。
「おとーさまーかってくださまいませぇー」
カキィィン
お父様がゼブラさんの剣を上に弾きあげ喉元に剣先を当てた。いや、ギリギリ当たっていない。
「参りました。」
はい、見事お父様の勝ちです。
二人が礼をしあい生徒たちは拍手を送る。
私はと言うと遠くで誰かの声がした気がして体を硬ばらせる。
いや、ねぇ…。こんな所にいるはずないよね。
空耳が聞こえる方が隠れるようにセオ様の真横にたち、盾にしセオ様の服の端を掴む。
え、運動した後なのにこんなにいい匂いするのは何故だい?さすがイケメンといったところか。
セオ様は膝をおり私と向かい合うようにしゃがみこみ安心させる様に手を両手で握ってまっすぐ私を見ている。
「どうした?」
くそう、その美形よ消え去れ!
…嘘です!ごめんなさい!タイプの顔が消え去るなんて泣いちゃうから。
答えようとした時グランド中に確実に声が響いた。
「アーーーーサーーーーーーー!!!お兄ちゃんが迎えに来たぞぉ!昨日は来てくれないし今日も来てくれないなんて…お兄ちゃん。…悲しい!!!」
「兄上。」
陛下ぁぁぁあ!
お父様はこの陛下のノリには慣れているようだ。真顔で受け答えしてる。さすが。
「エレノアちゅぅあぁんも久し振り!!どう!アーサー!書簡でも書いたけど愛娘と我が息子を婚約させる気になったかな!!」
いややぁぁぁああ!好きじゃない人と結婚なんてお断り!!涙目でセオ様の手をぎゅっと掴みプルプル震えて言う。
「いやです…へいか…こわい」
ごくわずかな声が聞こえたのかお父様の纏う空気が変わりブリザードが現れた。あ、真顔で激おこだ。
「お前なんぞの息子の為にエレノアは差し出さん。エレノアは恋愛結婚でも一生領地で暮らすでも自由に過ごすのだ。王命を使おうと無駄だ他国に亡命してやる。」
お父様…⁉︎お兄様と同じようなこと言ってる!よかった!王命きかないようだ!
「えぇ!!そんな…でも、もし息子らを好きになれば!ねぇ!エレノアちゃんも王子様とお話ししたいよね!?」
急に話を振られビクッとなりこちらに陛下が近づいて来ているのがわかる。
もうやだぁ!この人めんどくさい!王子様と話したいよね?とか別にいい!私は黒髪がタイプなんだ!
もう、やけくそで目の前のセオ様に背伸びをしてセオ様の首の後ろに手を回し、キュッと抱きついた。
「セオ様が目の前にいてくれるので結構です!!」
そう大きな瞳に涙を浮かべ怒った顔をしながら陛下に言ったのだった。
あ、頰に当たる黒髪がくすぐったい。
ブックマーク誤字報告お願いします!!