騎士団長、職務を全うする
俺の見た目が怖いのは知ってる。
出仕早々廊下で声を掛けられた。
「アルフ!また、振られたって?」
「・・・。」
睨んでも効かない。同期で気心が知れている所為で・・・。
奴は今、軍部参謀補佐をしている。ロンド・デイール補佐官様だ(既婚者)。
「お前、女見る目ないなぁ~。」
俺の嫁なんか、と惚気が始まるのでさっさと退散したい。
「漁場が悪いんだな。海の人魚ばっかり見てないで、丘の芋でもいいんじゃないか?アルフ面食いだろう。俺の嫁ほどじゃないが紹介してやろうか?あ、辞めとこう。また悲鳴を上げて帰られても困るしな。」
既婚者の癖に奴が誘うと未婚の女子が簡単に寄ってくる。
俺と同じく体格はゴツイ。しかし、人好きのする人懐っこい顔立ちに浮かべる笑顔、が上品に見えるから皆騙されるんだ。
羨まし・・・くなんかない。こんな口の悪い男の何処がいいんだ?。
「丘だろうが芋は失礼な言い方だぞ。」
「お、そっち?例え話だよ。俺からしたら嫁以外は皆、芋にしか見えないってな。今朝なんかも彼女、俺の、」
「待て!話しは後だ・・・俺は殿下に火急の用があるのだ」
手を前に突出し遮る。
ロンドは若干のけぞった。にやりとして、黙る。
殿下の執務室。
暫く仕事をこなしてからぽつりと言われたのが・・・。
「アルフレッドはネルワルドの貴族令嬢には好まれないだろうな。」
と追い打ちをかける言葉。
「殿下?」
低い声が地を這うように響く。
「こらこら、そう短気になるな。一般論だよ。変わり者の令嬢もいるだろう。何処かに」
慰めになっていない。
「後を継がないんなら商家の令嬢とか農園の主の娘でもいいかな。とな」
「殿下。何が言いたいかわかりません」
「いっそのこと断りづらい状況の娘を貰ったらどうかと思って。釣り書きがあるから見てみろ。気に入った娘の実家を窮地に立たせてやる。・・・睨むなよ。上司だぞ」
「今回ばかりは、年上として言わせて頂きたい」
殿下は潔癖だなあと言い、苦笑した。
だが!俺は殿下のやり方を批判したい訳ではない。王族なら姑息なやり方も有りだ。
「その手はもうやり尽くしました」
「は?・・・やった?」
殿下の綺麗な顔は驚いても醜くはならないらしい。
「ことごとく失敗いたしました」
相手の娘は最初は納得したようだったのに、駆け落ち沙汰を起こしたり、俺より年上のご隠居を見つけてきて嫁いだり。
どちらにしろ・・・どの娘も俺との破談の後、結婚生活はおおむね幸せらしい。
解せぬ。
殿下が黙り込んで、今までの話を無かったことにした。
休憩に王城内の食堂へ向かう。
歩いている時に、いつの間にか部下の一人が横にいた。
「団長。リンネル小隊長、新婚旅行らしいっすね。」
「ああ」
リンネルの嫁は俺が勘違いして求婚したお嬢さんだ。コイツは知らない。無だ。無心になれ。表情筋を鍛える訓練だと思おう。
「リンネルの嫁さん見ました?美人で胸のデカい姉さん。あいつ色っぽい姉さんが好みだったんすねぇ。純朴そうな顔して以外とリンネルさんエロいっすね」
「ヒュウガ。リンネルにもだが、御婦人相手に失礼な言い方をするな。特に人の多い場所で言っていい言葉ではない」
横の男を改めて見る。痩せぎすの騎士服がゆったりし過ぎてあまり似合わない男が、きょとんとしている。
平民上がりで言葉使いも中々直らないヒュウガという名の騎士だ。
「本人居ないし、良いかなって?」
「良くはない。言葉とは意外に外に漏れるモノだ。お前だとて人伝てに悪口を聞けばいい気はしないだろう?リンネルは勤勉だし、奥方もしっかり者だ」
ヒュウガは実力もあり、諭せばその場では解ってくれる男なのだが。
「団長は紳士っすね。俺には真似できねぇや。」
如何せん口は悪く、お喋り好きで困る。
何が気に入ったのか隊の違う俺を慕い、声を掛けてくるのは構わないのだが・・・。
感心したように俺を見て、また口を開いた。
「二股かけられた相手の事を褒めるなんて、団長は人柄が出来てる。俺だったら泣いて縋って、しつこく離れない自信があるし」
そんな自信は捨てろ!!・・・って!知ってたのかあぁ~~!!
無だ!無心になれ!お前なら出来る!ナンテコトないぞ!ムカシノハナシダヨ!
「二股ではない」
いつの間に広まった。いや、多分ヒュウガの妄想だ。妄想!
「彼女は知人で、知人だからリンネルを紹介しただけだ」
やせ我慢して。と殿下がいたら苦笑いする所だ。
「そうなんすか?」
喧噪が大きくなって角を曲がると、広々とした食堂がやっと見えた。
それではな、とヒュウガを置いて食器を取りにスタスタ歩く。
各々、入り口に張り出した数種類の定食の中から選ぶ方式なので、食器とカトラリーを取ってから厨房の見える棚に頼みに行く。給仕も注文聞きも居ない為、高位貴族は少ない。
何故かヒュウガはヒヨコの様に後ろをついてくる。
「そっかぁ。団長は素人では満足出来ないお方なんですねぇ。娼館のお姉さんに大人気でぇ来るもの拒まず千切っては投げ千切っては投げ!うん。下町の子供にも人気あるし。流石、第一の団長っす!」
顔が引き攣ってきた。
声がデカい!俺の私生活をねつ造してくれるな。
娼館は金払いで愛想が変わるものだ。それなのに俺の方がチェンジされてるだけなんだ。
子供も、俺はごっこ遊びの悪役に見立てられているだけだ。
無言を貫きなんでもないフリをする。
感心しきりのヒュウガは食器を持って俺と同じ物を頼む。
約束した訳でもないのに横に座る。
その間中延々口は動いている。
内容が俺の武勇伝(架空)というのがよろしくない。
いちいち否定をするが、ヒュウガは伝令役を務めた事もあり、叫ばずとも声の通りが良く喧騒の中でも声は耳に届く。
だからだろうか、周りの騎士が若干遠巻きにしてきているような気がして居た堪れない。
「ヒュウガ。今日は稽古をつけてやろうか」
「え?やった!ありがとうございますっ!」
鍛えるついでに叩きのめしてやろう。