表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
67/101

第56話~世界転移術~

~新宿・歌舞伎町~

~居酒屋「陽羽南(ひばな)」 歌舞伎町店~



 グンボルトとその同行者は、閉店間際の23時まで飲んでは食べ、注文してはまた飲んでを続けていた。合計金額は余裕で五桁に届いている。

 お会計を済ませた後に一度退店してもらい、閉店後のレジの締め作業と会計確認を行って深夜0時45分。

 未だ明るい陽羽南の店内で、制服を脱いで私服に着替えた僕達六人は、緊張の面持ちで立っていた。寅司とディトはバイトであるため、21時には仕事を終えて帰宅済みだ。

 そして、静かな店内に響くエレベーターのドアが開く音。中からグンボルトが、彼の同行者が姿を見せる。


「お待たせしました、サハテニさん」

「いや、構わぬ。こんな遅くまで時間を使わせて申し訳ない」


 小さく頭を下げると、グンボルトは僕達六人の前に立った。自身の隣に立つ、小柄な男性の肩にそっと手を置く。


「まずは、紹介を。私の友人であり、我が世界グウェンダルの導師(どうし)の一人。ゴフィムだ」

「ゴフィム・コトナリです。先程はご馳走様でした」


 にっこりと柔和な笑みを浮かべ、こちらに頭を下げてくる男性――ゴフィム。彼に向かって僕も頭を下げつつ、右手側に立つ五人の方へと手を伸ばした。


「陽羽南 歌舞伎町店、店長のマウロです。お二人から見て右から、ホール担当のエティ、アンバス、パスティータ。厨房担当のシフェール、サレオスです」


 僕の紹介に合わせて、それぞれが一人ずつ頭を下げていく。

 そして最後、サレオスが頭を下げたところで、ゴフィムがサレオスへと視線を向けたまま口を開いた。


「サレオスさんは他の五人とは、出身世界が異なるということでよいのですよね?」

「えっ!?は、はい、そうですけれど、何故分かったんですか!?」


 唐突な核心を突いた言葉に、サレオスがすぐさま顔を上げた。彼を除く僕達五人も揃って目を見開いている。

 僕達はそれぞれの名前を告げただけだ。グンボルトとゴフィムが先程客として訪れた時も、別段何かを話したわけではない。グンボルトの口から知らされた可能性がゼロではないが、彼にもそんなに詳しい話はしていないはずだ。

 驚愕に目を見開く僕達に、人差し指を立てたゴフィムがその白く細い指先をくるりと回した。


「僕の目は、その人が『どの世界から来たか』が見えるんですよ。バイトの仙虎の男の子のように、その世界で生まれ育った人には、何も見えないんですが」

「これが、ゴフィムが導師の位に就くに至った力だ。私よりも遥かに優れた、『世界転移術(・・・・・)』の術者である。故にここへと導いたのだ」

「「セカイテンイジュツ?」」


 耳慣れない言葉に、エティとパスティータが同時に首を傾げておうむ返しした。

 世界転移術。

 僕はグンボルトが一度話をしていたのを覚えているが、他の四人にとっては初めて耳にする話だ。サレオスに至っては区役所での訓練も受けていないから、全く意味の分からない話だろう。

 内容を掴み切れないで僕達が揃って難しい顔をしていると、ゴフィムが人差し指を伸ばしたままその指先を僕に向けてくい、と動かす。

 と。


「!?」


 突然ゴフィムの指先の空間に現れた巨大な(ホール)に、僕は改めて驚愕した。

 人為的に(ホール)を開ける様子はこれまでにも何度か目にしてきたが、こんなに少ない、単純な動作で、人が通れるサイズの(ホール)を開けてみせた者は、初めてだ。

 それに、(ホール)から流れてくるこの感覚は、確かに魔力。僕達に馴染み深い魔力だ。

 開けた(ホール)の捩れた空間を避けるように、こちら側に回り込んできたゴフィムが、自分の胸をトン、と指先で叩いた。


「世界に(ホール)を開ける術。異なる世界と世界とを繋げる術。

 僕達グウェンダルの民が修め、選ばれた者に教え伝える秘伝の術。それが『世界転移術』です。

 僕はグウェンダルの世界を導き、世界と世界の橋渡しをする導師として、世界転移術を人々に伝える仕事をしています」

「ここまで言えば分かるだろう、店長。私はお前たちに世界転移術を身に付けてもらうために、ゴフィムをここに連れてきたのだ」


 いつもの平静な口調で、グンボルトが話を締めにかかる。対して僕達は、目の前に唐突に出現した人が通れるサイズの(・・・・・・・・・)(ホール)に視線が釘付けだ。

 これを通れば、チェルパに帰れるのか。

 そんな期待と不安の入り混じった視線を(ホール)を開けたゴフィムに向けると、ゴフィムはこくりと頷いた。


「お察しの通り、皆さんの出身世界、チェルパへの(ホール)です。

 皆さんのお国までは見えませんでしたので、故郷に繋がっているかは分かりませんが、ちゃんとそちらの世界の大地の上に繋がっています」

「じゃあ……これを通れば、チェルパに帰れるってことなのか!?」


 アンバスが瞳を輝かせながら声を張る。

 その隣に立つパスティータもエティも、今までにないくらいに期待に満ちた表情をしていた。シフェールだけ何故か、少し浮かない顔をしていたが。

 そんな僕達の顔を見回してゴフィムは改めて頷くも、すぐに手のひらをこちらに向けてみせる。


「勘違いしないでいただきたいのは、僕は皆さんを元の世界に帰すために来たわけじゃない。

 皆さんに世界転移術を身に付けてもらうために来たんです。

 その為には、分かりやすい目標があった方がいいでしょう?自分の元いた世界に帰るという、分かりやすい目標が。

 今回チェルパに繋がる(ホール)を開けたのは、皆さんにチェルパという世界のイメージを取り戻してもらうためです。長く離れると、忘れてしまうものですからね」


 そう力強く話して、ゴフィムはその手をぐっと握りしめる。

 彼のその言葉に、僕は改めて目の前に開かれた(ホール)を見つめた。

 目の前に、懐かしきチェルパに繋がる道が開かれている。それを、自らの手で開けるようになる。

 それが僕の、僕達のまず目指すべきポイントだ。

 真剣な面持ちになったところで、ふとゴフィムの表情が曇った。


「それに、僕の開いた(ホール)では、本当の意味で皆さんを元の世界に帰すことは出来ない(・・・・)ですからね」

「えっ?」

「それってどういう……」


 突然に告げられた言葉に、僕達は揃って首を傾げた。

 (ホール)の向こう側に立ったままのグンボルトが、小さく嘆息する。


「我々グウェンダルの民の使う世界転移術には、制限があるのだ。その制限は(ホール)を開く者によって変わる」

「グンボルトさんの(ホール)は、転移先の世界から別の世界に転移できない制限があります。別の世界に移動するには、一度元いた世界に戻らないといけない仕組みですね。

 僕の開く(ホール)は、転移先の世界で活動できる時間に制限があります。転移した先の世界で定められた時間が過ぎると、(ホール)に引き戻されて強制的に元いた世界に戻されます。

 市区町村の役所の転移課の皆さんには、自分が訪れたことのある世界にしか(ホール)を開けない制限がかかっています。あれが制限の中で一番安全なので」


 グンボルトの後を継いで口を開いたゴフィムが、申し訳なさそうな表情のままで頭を掻いた。

 つまり、こうしてゴフィムの手で開かれた(ホール)を通ってチェルパに帰ったところで、一定時間が経過したら強制的に地球に引き戻されてしまうということだ。それでは確かに、帰ったことにはならない。

 二の句が継げないでいる僕達に、自身の足元に視線を落としたゴフィムがゆっくりと口を開いた。さらりとした前髪が目元を隠す。


「この制限は、先程グンボルトさんが話したように開く人によって変わります。例えば店長さんとエティさんとで別の制限が設けられることも十分にあり得る。

 転移課の皆さんに教えたやり方で、訪れたことのある世界にしか開けない制限に固めてもいいのですが、あのやり方は時間の流れがゆっくりなグウェンダルで教えても時間がかかる。皆さんに関してはそんな悠長なことは言ってられません」

「アースとチェルパの合一の危険性があるから……ですよね」


 僕の発した言葉に、ぐっと拳を握りながらゴフィムが顔を上げた。

 その表情は、なんとも物悲しげだ。


「このところ、異なる世界同士が合一の危機に陥るケースが頻発しているんです。

 僕達導師が総出でそれぞれの世界に出張っては、その世界の人々に真実を明かして世界合一の危機を遠ざけるように働きかけていますが、なかなか順調にはいっていません。

 そうして世界の多様性が失われてしまっては、僕達の存在意義も揺らいでしまいます。合一した世界がその傍から崩壊していく危険性も高いです。なんとかしないといけない」

「そのために、私達が……チェルパと地球を行き来できるようになって、何とかしないといけない、ということか」


 シフェールが真剣な面持ちで答えると、こくりとゴフィムが頷いた。

 その後ろでグンボルトも大きく頷いている。


「そうです。皆さんにはその力があるはずだ。グンボルトさんの見立てがあるなら間違いはないです。だから僕が、手ずから指導します。

 その為にも、まずは皆さんの世界、チェルパの現状を見てもらう必要がある。世界を見て、思い出してもらう必要があります。

 準備が出来たら、(ホール)を潜ってあちらに向かって、キリのいいところで戻ってきてください。いいですね?」


 ぐるりと僕達を見回して、まなじりを決したゴフィムが告げる。

 それに僕達五人は、揃ってこくりと、はっきりと頷いた。一人蚊帳の外のサレオスだけが、口をぽかんと開いたままで僕達を見ているのだった。



~第57話へ~

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ