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幕間・2~ギルドマスターの執務室にて~

~シュマル王国・王都エメディオ~

~国立冒険者ギルド・マスター執務室~



 豪奢とまでいかないが、小綺麗に整えられた室内。

 その中央にある幅広のデスクを挟み、二人の男性が向かい合っている。

 片方は壮年の人間(ヒューマン)、片方は中年ほどの獅子の獣人(ビーストレイス)

 会話はない。沈黙が、部屋の中の重苦しい空気を増長させる。

 と、扉の向こう側が俄に騒がしくなる。ノックもそこそこに、大きな音を立てて扉が開け放たれ、廊下からエルフの女性が転がり込んできた。


「国王陛下、ギルドマスター、申し上げます!

 ヴァリッサ洞窟の巨獣について、大規模討伐(レイド)参加中のパーティーから、討伐に成功したとの報告がございました!!」

「おおっ!!」


 女性からの報告に、着席せずに立っていた獣人(ビーストレイス)の男性――国立冒険者ギルドのギルドマスター、ランドルフの表情が色めき立った。

 ランドルフと対面して椅子に座っていた人間(ヒューマン)の男性――シュマル王国第67代国王、ナタニエル三世も、目を細めて柔和な笑みを湛える。


「やれやれ、出現からおよそ半年。ようやく片がついたか。

 大規模討伐(レイド)に参加したパーティーの代表者には、王都帰還後に城に出向くよう伝えよ。余自ら、褒美を取らせねばならぬ」

「かしこまりました!」


 ナタニエル三世が重みのある、落ち着いた声色で告げると、入室してきた女性が大きく頭を下げる。

 そのまま、入ってきたときと同じ勢いでバタバタと退室すると、ランドルフが大きく息を吐いた。


「依頼を発行してから六ヶ月、大規模討伐(レイド)を組んでから三ヶ月……長かったですな、陛下」

「応とも、長かった。

 幾人もの戦士が敗走し、時には命を落とした。

 やはり、異世界からの来訪者(・・・・・・・・・)の力は侮りがたい」


 それまでの笑顔を消し去り、憂うように、ナタニエル三世は目を閉じる。

 ヴァリッサ洞窟の巨獣はマウロ達パーティーが挑んでからも、幾度となく冒険者を退けてきた。

 一国のギルドでは手に余ると、国王権限で大規模討伐(レイド)が組まれたのがおよそ三ヶ月前のことだ。

 近隣の国家のみならず、南方のアグロ連合国や西方の神聖クラリス帝国からも大々的に冒険者を募り、総勢30名という大規模な、世界屈指の強者を一揃え集めて、ようやく勝ち取った勝利である。

 ヴァリッサ洞窟が王国屈指の銀鉱山でなければ、巨獣が地中を好き勝手に掘り進むことができなければ、ここまで大規模にはならなかっただろう。


 それだけならまだしも、あの巨獣は異世界(・・・)からの転移者だった。

 ここではない、別の世界から転移してくる者には、力が宿る。シュマル王国だけではない、この世界での共通認識だ。

 巨獣であろうと、それは例外ではなかったようだ。


 場が落ち着いたところで、ナタニエル三世がやおら口を開く。


「ところで、ランドルフよ」

「はい、陛下」

岩壁の(・・・)は、未だ行方知れずか?」


 国王からの問いかけに、口を閉ざすランドルフ。しばしの沈黙の後、ゆっくりと頭を振って口を開いた。


「……はい、この六ヶ月、手を尽くして捜索にあたっておりますが、パーティーを組んでいた五名全員、杳として行方が知れません。

 あの『岩壁のマウロ(・・・・・・)ともあろうものが(・・・・・・・・)、他の国での目撃報告もなく、六ヶ月もです」


 ランドルフの報告を受けて、ナタニエル三世はいっそう深く、心から残念そうに、深い溜め息をついた。


「そうか……まだ見付からぬか。

 いい加減、あれの作るグスターシュが恋しくなってきたのう」


 心底ガッカリした様子の国王に、ランドルフは深々と頭を下げた。

 情報が少ない段階でも、マウロのパーティーのみならずA+コンビのアンバスとシフェールのパーティーがいれば、巨獣くらい赤子の手を捻るくらいに片付けられるだろうと。

 完全に侮っていた。自分の失態だ。


「申し訳ありません」

「よい、死んでいなければ後で何とでもなる。

 こうまで手を尽くしても痕跡すら見付からぬのなら、いよいよ異世界に転移した(・・・・・・・・)のであろう。

 ふふ、余の懐刀(・・)の目を以てしても見通せぬのだ。来るものもあれば出でるものもあるということよ」


 そう言ってナタニエル三世は力なく笑った。それを見てランドルフは、がっくりと肩を落とす。

 ナタニエル三世の懐刀は、世界を見通す目を持つ(・・・・・・・・・・)魔術師だと専らの噂だ。その人物でも見付けられないのなら、いよいよこの世界には居ないのかもしれない。


「願わくば、再び戻って来れるとよいが、な……」


 落胆の表情を見せるランドルフを見やり、ナタニエル三世は周囲に聞こえぬほどの小さな声量で独り言ちた。



~つづく~

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