表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
道化師  作者: YUKI
6/8

同伴出勤出来るのか?

午後の授業もいつもと変わりなく過ぎていったが、なんとなく周りからの視線が、気になる。

目が合うと逸らされ、あちこちでボソボソと何かを言われているが、直接何かを言われる事はない。

昼にかなり目立っていたからこれぐらいは仕方ないのかもしれない。

人気上位クラスの龍也が一海とワイワイやっていたんだから、なんだかんだと噂が飛び交っているんだろう。

だが、俺まで噂の中心になる事はない筈だが。

面倒になり、気にするのをやめ龍也達と加納を迎えに行き、四人でバス停へと足を進めた。


「ヒロ、今日のバイト俺も助っ人に入るからよろしくな。」


「わかった、一緒に行くか?」


「いや、一海と同伴出勤だ。」


「それはそれはお熱い事で。」


「ヒロも加納と同伴出勤すればいいじゃん。」


俺たちの話についてこれない加納が不思議そうに首を傾げている。

「弘樹、バイトしてるの?」


「加納も用事がないなら来るか?」


「いいの?邪魔にならない?」


「店には顔出せないけど、休憩室があるからそこで一海と一緒にいればいいよ。退屈かもしれないけどな。」


悩んでいる加納に一海が必死感を漂わせ、

「加納さん、お願いがあります。勉強を見てもらえないですか。僕、数学が壊滅的な状況でして。」


龍也や俺に並んで加納も成績は上位クラスだ。

一海だけが、成績は悪くはないがベスト10には入れないでいる。

そんなに気にしなくてもいいと言ってはいるんだが、本人は頑張ると言ってきかない。


だから、今回休憩室で一緒に時間を過ごすならとお願いしているみたいだ。


「僕でいいなら一緒に勉強しようかな。」


ちょっぴり素っ気ない言い方になっているが、俯いた顔はほんのりと赤みを帯び、笑みを浮かべていた。


「じゃ、決まりだな。お互いに同伴出勤だ。」


元気いっぱいの龍也の雄叫びがバス停に響いて、周りの人から白い目で見られ恥ずかしい。

そそくさと龍也から距離を取り、俺たちは他人のふりをする。

「お前ら、他人のふりをするな!」

俺たち含め、今度は明らかに迷惑そうな視線がビシバシと向けられた。

肩身の狭い思いのままバスに乗り、それぞれのバス停で「後で。」と、一声かけて別れて行く。そんな些細な事でも加納にとっては嬉しい様で始終笑顔だった。


俺の部屋の前で加納と別れたが、夕飯の時間になったらまた会えると俺は自然と笑みを溢していた。


なのに、時間になっても現れない。

LINEをしたが既読にならない。

外出してるのか?

電話をかけてみるが、呼び出し音が虚しく鳴り響く。諦めかけた時、か細い声がやっと聞こえた。

「もしもし、弘樹?どうしたの?」


「今、何処?」


「えっ!家だけど。」


「何故、来ない?夕飯の時間は言ったよな?」


「えっ!あれ本当の事なの?社交辞令とかじゃないの?」


「何で俺がお前に社交辞令なんて言うんだ?」


「ごめんなさい。」


「怒ってないから早くおいで。待ってるから。」


努めて優しく言ったが、「ごめんなさい。」と呟く声に心が締め付けられる様な悲しさを感じた。

また、僕なんかがとか考えたんだろう。何故あんなに自信がないんだ?

成績も上位にいるし、顔も可愛い方だと思う。

運動神経も悪いとまではいかない。普通だと思う。

自分は劣っているとあそこまで思い込むのは、何故なんだ?不思議でならない。

まだ、俺の事を信じてもらえないのが、悔しいのか、寂しいのか、自分でも解らない気持ちにも苛立った。


苛立つ気持ちを深呼吸で飲み込み、

テーブルに料理をセットし終わる頃、チャイムが丁度良く鳴った。


ドアを開けると俯いてしょげている立ち姿も可愛いと思ってしまう。

それだけで、悲しみも寂しさも、ましてや苛立ちも消えていた。


「上がって。」


「うん。」


靴を揃えて振り向いた加納を腕の中に捉える。


「俺はお前の何?」

「えっと、恋人?」


「何でまた疑問形なの?間違いなく恋人だろ?友達にこんな事しないだろ。」


触れるだけの軽いキスを繰り返しながら言い聞かす様に問う。


「うん、そうだけど、夢みたいで。弘樹はモテるから、ホントに僕なんかと一緒にいてくれるのか、夢みたいで。」


「ちょっと待て!俺がモテる?それはない。」


加納の思い違いを正したいが、玄関でいつまでも話してたら料理が冷めてしまう。

それに、思い違いを正すには、落ち着いて話した方が良さそうだと思い、抱きしめる腕を解いた。


「まぁ、食事が先だ。」


二人向かい合わせで席に着いただけなのに、さっきまでの情けない表情は消え、嬉しそうに微笑んでいる。


「ホントに凄いね。弘樹の料理どれも美味しくて僕幸せ。」


たかが料理ぐらいで、そんなに幸せな顔をする加納が、やっぱり可愛いし愛しい。

食事が済んだ後は、ソファで加納を膝に乗せテレビを見ながら腕の中に囲う。

恥ずかしそうにはしてるが、逆らう仕草は見せない。

「なぁ、さっき俺がモテるとか言っていたが、俺ははっきり言って怖がられはしてもモテた事など一度もない。」

俺は自信を持ってきっぱり言い切ったのに、加納は呆れたと溜息をついてる。


「あのね、弘樹のファンクラブもあるんだよ。」


「ちょっと待て、龍也はあるの知ってるが、俺まであるとは勘違いじゃないか?」


「それ、マジで言ってるの?龍也さんは親しみやすい感じで、ちょっと軟派な感じがモテるんだけど、弘樹は硬派な感じでかっこいいから、龍也さんと並んで上位ランキングなんだよ。」


加納のテンションが上がって凄い迫力で迫ってくる。


「わかったから、少し落ち着け。」


俺の膝の上で乗り出している自分が、今にも顔がひっつくくらいの距離にいるのに気づいた加納は、ヒィッと小さな悲鳴を残してテーブルの向こうまで逃げてしまった。


おいおい、そこまで逃げる事ないんじゃないか、かなり落ち込む俺だった。


夕食が済み、そろそろ店に行く時間だ。

「加納、店に行く時間だけど、そのままでいいのか?」


「えっ、もうそんな時間なの。僕、着替えてくるよ。」


廊下でスリッパにつまづき、転けそうになりながらも忙しなく帰っていった。


俺は、仕方ないと、食事の後片付けをしながら待つ事にした。

ついでに明日の弁当の下拵えもしておこう。


やるべき事が終わり、エプロンも所定の位置にかけ周りを見渡す。

もう、する事がない。いったい加納は何をやっているんだろう?

かなりの時間が過ぎたのだが、これ以上は無理だ。


部屋の戸締りを済ませ、加納を迎えに行く。

ドアホンを鳴らし、待つ。

部屋の中から、ドタバタと何かがひっくり返る音が聞こえてくるのだが、大丈夫なのだろうか?


見るも無惨な姿でドアから顔を出した加納は、今にも泣きそうな状態だった。


「どうしたんだ?何かがひっくり返るような音もしていたんだが。」


シャツを片袖だけ通し、ズボンも半分脱げかけているし、何が起こったんだ?


「先ずは部屋に入れてくれる?」


うんと頷く加納を抱きかかえ玄関に入る。


廊下にちらほら服が散らばっているのを、歩きながら拾い、リビングに入る。


何故、植木がひっくり返ってるんだ?

何故、カーテンがダラリと半分外れて垂れ下がっているんだ?

何故、テーブルもひっくり返ってる?

何故、ソファに服が散乱している?


着替えに帰っただけのはずなんだが、何があった?

何をどうすればこんな状況になるのか、誰か教えてくれ。


呆然と立ちつくす俺、俺の腕の中で項垂れる加納。


取り敢えず、加納を着替えさせてバイトに行こう。

「片付けは帰ってからだ。うん、そうしよう。」

無理やり自分に言い聞かせる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ