恋人なのに、俺を信じてほしい
加納と恋人同士になったのだからと、昼休みは一緒に過ごそうと決めた。
先ずは龍也達に紹介しないといけないと、考えていると今日もいつも通り龍也達が迎えに来た。
「ヒロ、テラスに行くぞ。」
手を挙げ、了解の合図を送り考える。
さりげなく加納を迎えに行くか、それとも先に事情を話すか、どちらだ?
よっぽど眉間に皺が寄っていたみたいだ。龍也が心配そうに「どうした?」と聞いてくるから、加納に会う前に話そうと覚悟を決める。
「龍也、一海、急だが、付き合う相手ができた。今から紹介したいから迎えに行っていいか?」
「はぁ?急だよな。俺は、いいけど、一海はいいか?」
「何を気にしてるんですか?龍也が良いのに僕が反対する意味あります。それに、ヒロさんが選んだ人でしょ、楽しみでしかないです。」
珍しくきっぱりと言い切る一海に、俺達は少し慌ててしまう。
なんだかお怒りモードらしい一海に龍也が言い訳を繰り返している姿はちょっぴり情けないと思いながら眺めていた。
廊下でのやりとりがかなり目立っていたみたいで、俺のクラスだけでなく、隣のクラスの窓からも様子を伺う連中が結構の数になっていた。
「弘樹、目立ち過ぎだよ。早く退散した方がいいみたいだよ。」
いつの間にか側にきていた加納が、俺の袖をくいくいと引っ張って小声で注意を促す。
加納の指摘にやっと状況を把握した俺は、
「龍也、周りを見ろ!ヤバいから退散だ。」
俺の声にハッと周りを見渡した二人、真っ赤になる一海と真っ青になる龍也、俺は笑いが込み上げてくるのを抑えるが、それでも我慢できず声に出して笑いながら、加納の手を取り走り出していた。
「はぁっ!見たか、あの二人の顔、笑えるよな!」
俺の言い様に後ろを走る龍也からは、
「笑うな!発端はお前だろ!」
と、怒りの言葉が飛んできた。
こちらも一海の手を引き走りながらである。
「それで、ヒロと一緒に走っているのが恋の相手でいいのか?」
「そうだ!このまま裏庭まで行こうぜ。」
「よっしゃ!一海大丈夫か?」
「ご心配なく、まだいけますよ。」
さっきまでの怒りモードは消え、満面の笑顔である。
俺たちは、久しぶりに子供になった気分で笑いながら走った。
桜の木で埋め尽くされた丘、数ヶ所テーブルとベンチが置かれている。そのひとつに俺たちはどさりと腰を落ち着かせる。
「はぁぁ、楽しい!久しぶりだな、こんな気分は。」
「そうだな。加納、大丈夫か?」
隣ではぁはぁと息を切らす加納が心配になった。
「今思い出しましたって顔で心配されても嬉しくないです。神崎さんはずっと新川さんを気遣ってたのに。弘樹は全然でしたもんね。」
ふいっと顔を逸らされ、俺はどうすれば良いのかわからず、龍也達に救いを求める。
視線を向けられた二人は、嬉しそうに微笑んでいる。
「二組の加納さんですよね。初めまして、新川一海です。よろしくね。」
「俺は、神崎龍也だ。ヒロは誰かと付き合うの初めてなんだよ。今回は大目に見て許してやってくれ。」
二人の視線を一気に受け、真っ赤になる加納が可愛くて、そんな加納を二人に見せるのが勿体ないと。
気づくと俺の腕の中に加納がいた。
「何をやっているんだ?」
呆れて溜息をつく龍也が、時間がない、飯だと弁当を一海と自分の分を広げて食べ始める。
俺も腕の中で益々赤い顔になっている加納、ずっと腕の中に閉じ込めたいとは思うが、今は我慢とそっと腕を解く。
「すまん、弁当で許してくれ。」
二人分の弁当を加納と俺の前に広げる。
「えっ!僕の分も作ってくれたの?パンを買ってきたんだけど、これ、どうしよう?」
俺の好きなメロンパンと焼きそばパンが二つテーブルの上に出された。
「俺の好きなパンだ。間食に貰っていいか?」
加納が俺の好きなパンを選んでいる事に嬉しさが込み上げる。
どうぞと俺の手に乗せられたパンを俺は鞄にそそくさとしまう。
そんな俺を見て、龍也はまた大きな溜息をついてる。
「ヒロ、そんなに慌てて仕舞わなくても誰も取ったりしないから。さぁ、食べよう。」
「ヒロさんの弁当も美味しそう。加納さん良かったですね。」
一海も料理が苦手でいつも龍也に作ってもらっているのと嬉しそうに話している。
加納はほんとに食べていいのか、不安そうに弁当と俺の顔を何度か行ったり来たりと可愛い仕草を繰り返している。
「ほら、食べろ。」
俺が差し出した卵焼きを穴が開くほど見つめ、そして俺の顔色を上目遣いに見てくる。
「あーんだ。口を開けろ。」
真っ赤に頬を染め開けられた口に卵焼きを放り込む。
「上手いか?勝手に甘い味付けにしたが良かったか?」
「うん、甘い卵焼き好きです。」
「それなら良かった。ほら、後は自分で食べろ。」
手に箸を握らせ、先を進める。
目の前から小さな声で、「ご馳走様ですね、いちゃいちゃし過ぎだろ。」と聞こえたが無視をきめこむ。
加納の紹介も気を病む程の事ではなかった。あっさりと受け入れてくれた二人に感謝だ。
翌日、俺たちの噂が学園中に広がっている事に頭を悩ませるとは今の俺たちには思いもしなかった。




