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道化師  作者: YUKI
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二人だけの幸せの一時

学園を出て、途中で加納に会うかもと周りに気を配りながら自転車を走らせていたが、結局会うことはなかった。

もう明日話せばいいかと、諦めエレベーターを降りた視線の先、玄関の前に佇む加納の姿に俺の思考は否応なくさかのぼる事になった。


 人の近づく気配に顔を上げた加納は、


「ごめん。返事をちゃんと聞いてなかったから。ゆっくり試そうって、いいの?」


逃げ出したくせに、俺の確かな返事が欲しくて待っていたんだろう。


慌てて話し出すのを俺は制して、肩を抱く。


「待て。」


軽く返事を返し、玄関を開け加納を中に促す。


「上がっていいの?」

「あぁ」

「弘樹って言葉数減らすと言うか、単語で話す?」


 疑問形で変なことを言い出す加納に俺は、眉間に皺を寄せ見つめてしまった。


「ごめん、変な事言ったね。深い意味ないからそんな年寄りみたいに皺作らないの。」


にこやかに笑いながら部屋に入ってキョロキョロと部屋を見渡している加納のおちつきのない動きが可愛く見える。


俺は、鞄をソファーに投げ、キッチンで自分のコップにお茶を入れながら加納に話しかける。


「何か飲むか?」


「ううん、今はいいよ。ありがとう。」


俺がコップを持ってダイニングの椅子に腰掛けるのを見て、慌てて話し出す。


「さっきの続きなんだけど、どうなの?僕は喜んでいいの?」


少し首を傾げながら聞く加納に、後回しにした事を思い出す。


「俺は、いいよ。タチはした事ないけど、加納相手にネコは勘弁してくれ。それでもいいか?」


「えっと、それは僕も弘樹を押し倒そうなんてこれっぽっちも思ってないから。」


「それなら、恋人同士って事で。週末でもデートするか?」


「うん。いいの?何するの?」


俺の前で立って話していた加納の腕を引き、膝の上に座らせ腰に腕を回す。


「きゃっ!弘樹くん、これはどどうすれば。」


慌てて吃ってるとこも可愛く思える。


「今度、椅子を買っておくよ。今はこれで我慢しろ。」


俯く加納、後ろから見ても解るぐらい首から耳も、多分顔も真っ赤なんだろう。


可愛い、そして、エロい。


首筋に唇を当て、印をつけておく。


なんだかいい匂いがする。


「待って、僕汗臭くない?イヤ、くすぐっいよ。痛い、何してるの?」


「俺のだって印をつけた。いい匂いがする。俺好きだな、この匂い。何か付けてるのか?」


恥ずかしそうに俺がつけた跡当たりを手で隠す仕草もいい。


「つけてない。ボディソープかな?わかんない。」


「そうか。」


首を押さえる手に舌を這わす。指を舌先でなぞると慌てて首から離してしまった。


「弘樹、めっちゃエロいんだけど。僕、初心者なんだから、手加減してよ。」


「ふ~ん、あんなエロいキスしてたのに?初心者なのか?あれ、初めてだったのか?」


「僕がしたのが初めてだから、弘樹がしたのは二度目になるかな?」


そこで何で疑問形なんだか解らないけど、初めてにしてはエロいし、感じやすいし、もっと色々したくなる。


「今日はこの後、用事あるか?」


「ううん、ないけど。」


後ろ抱きにしていた姿勢を横抱きにして、啄む様に軽くキスをしてみる。


閉じた瞼が微かに震えてるのが、自虐心を煽られ止まらなくなりそうだ。


「腹減らないか?何か作るから待ってろ。」


最後にリップ音をたててキスをし、加納を抱き上げソファに降ろす。


「此処で待ってろ。テレビでも見てるといい。」


クシャと髪を撫ぜ、キッチンへ向かう背に加納があげた小さな悲鳴が聞こえた。


昨日のうちに下拵えをしておいた肉を油で揚げる。

サラダは簡単にレタスを千切っただけでいいだろう。

朝の残りのトマトとアスパラをレタスの上に乗せ、自家製のドレッシングをサッと掛けておく。

スープはあっさりコンソメで。

小さめのオムレツを唐揚げの横に添え、ケチャップでハートを描いておく。


俺的に甘々の恋人仕様だな。似合わないとは思うが、意外と俺は可愛いのが好きだ。


テーブルにプレースマットを二人分。

料理を並べ、客用に買った箸を俺の向かいに置く。

この部屋で初めて俺以外の食事の用意がされた食卓。

自然と笑みが溢れた事に動揺している自分が変に可笑しく思えた。


「加納、食事の用意が出来た。冷めないうちに食べるぞ。」


トコトコって言葉がピッタリな動作でダイニングテーブルまで来た加納がポカンと口を半開きで固まってしまった。


「どうした?早く席につけ。」


一つしかない椅子を勧め、俺は寝室から丸椅子を持って来て座った。


「これ全部弘樹が作ったの?凄い!」


「これぐらい出来なくてどうするんだ?お前も一人暮らしなんだから、料理ぐらい出来て当然だろ。」


「絶対に無理だよ、僕には。」


「いつも何食ってんだ?」


「コンビニ弁当。」


「はぁ~、毎日か?」


「だって・・・。」


しょんぼりと俯いてしまった加納。


「まぁ、今は先に食うぞ。」


力無く頷き、『いただきます』と小さな声が聞こえた。


「美味しい。」


そんな声が聞こえた後は、夢中で食べる加納の笑顔が見れて俺は、他の誰に食べさせた時より心が満たされていた。


「明日から夕飯は一緒に此処で食べるからな。19時までには来いよ。」


「えっ!毎日、弘樹のご飯が食べれるの?いいの?」


「俺がそうしたいだけだから、気にするな。」


「こんな幸せがあるなんて。夢じゃないよね?」


頬を何度も抓ってはへらへらと笑みを浮かべる姿が可愛く愛しいと思えた。


頬が赤く色づいてるのも可笑しくて俺にしては珍しく声を出して笑っていた。


「抓り過ぎだろ、それ。」


頬にそっと触れてみる。


柔らかいすべすべした手触りが、小さな子供だった頃に触った羽二重餅を思い出し、幸せだった時間を一時だけど取り戻した様に感じた。




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