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ちょろちょろのちょろすけ


 その後、どうやって自分の家まで帰ったのかの記憶は曖昧だ。

 気づいたら目の前に、「わあすごい顔色してるけど大丈夫?」なんて言ってる黒髪の男がいて、よたよたと馬から降りて、そのまままっすぐベッドの直行したのだけはなんとなく覚えている。

 

 その男は最初は気づかわし気にスープを作ろうか、なんて言ってくれていたはずなのに、布団の中からぽそぽそと事情を話し終える頃にはゲラゲラと笑い転げていた。

 

 思わず枕をぶん投げたものの、本業狩人の男にはあっさり避けられて終わった。

 くそう。

 当たってくれるぐらいの優しさは見せていただきたかった。


「やー、今度の騎士団長さんは面白い人みたいだね」


 ひいひいと笑いころげていた男が、涙に濡れた目元を指腹で擦りながら言う。


「……他人事だと思って」

「実際他人事だからねえ。それに、お嬢、自分だけの騎士とか憧れてたじゃn」

「わあああああやめてえええ!」


 黒歴史だ。

 黒歴史すぎる。

 改めて他人の口から言われると、枕に突っ伏して足をジタバタしたくなる。

 というかやった。

 枕はぶん投げてしまって手元になかったから、変わりにシーツに突っ伏す。


「――…あの頃は、若かったんです」


 ほんの、一年ほど前の話だけれども。

 外界から隔離されて森の中で育った私にとって、街からやってきた正騎士の青年はまるで物語に登場する王子様のようだった。

 思慮深く、誠実で、女性に対しての物腰の洗練された()に私はあっという間に惹かれていってしまった。

 

 ()は、白い髪に赤い眼を持つ私の外見を厭わなかった。

 少なくとも、わかるようには振る舞わなかった。

 

 魔女殿、と馬上から()が差し伸べてくれた手のぬくもりをまだ覚えている。

 ぐいと私の身体を軽々と引き上げてくれたたくましい腕も。

 魔女殿はまるで羽毛のように軽いのですね、と笑った声も。


「――…しにたい」

「いきて」

「このままシーツで窒息死したい」

「森の魔女が失恋の黒歴史に耐えかねて窒息死ってのはちょっとフォローしきれないかなー」

「ばーかばーか」


 語彙を失って低レベルの悪口を言う私の頭上から、面白がるような男の笑い声が降ってくる。


「お嬢は惚れっぽいからねえ」

「隔離された森で暮らしているんだから仕方ないでしょ!」

「まあねえ」


 生まれてこの方、基本的には養母と二人きりで暮らしてきたのだ。

 養母が死んでからは、時折この男が遊びにやってくる他は、一人で生きてきた。

 森の騎士たちのほとんどは近隣の村に住む男衆たちだし、彼らにとっての私というのは「女」である前に「森の魔女」だ。

 だから、つまり。

 

 私は異性への耐性がとことん低い。


 少しでも気のあるそぶりを取られれば、いともたやすくときめいてしまう。

 ちょろいのだ。

 ちょろちょろのちょろすけだ。


「あんなの心臓に悪すぎる……」


 正視するだけで不整脈が起きるのでないだろうか。

 金茶の巻き毛に爽やかな蒼の双眸。

 鍛えられた体躯に柔らかで誠実な物腰。

 そんな男に騎士として仕えられるなんて心臓が持たない。

 いずれ森を去る男に気持ちを注いだところで、報われないのはわかっている。

 抑えのきかない気持ちに泣かされ、苦しむ羽目になるとわかっている。

 欲しい、と思ってしまったらそこから先は地獄だ。

 それがわかっているから、もう二度と正騎士相手に恋なんてしてたまるかと思っていたのに。


「こんなのってある???」


 クダを巻くように呻いた私の声に、男は耐えかねたようにぶふりと噴き出した。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

今晩にでも5話目を更新できればいいな、と目論みつつ。

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