序
何百年もの昔。
かつて暗黒大陸と呼ばれた場所があった。
深き森、険しき山、激しい河、人の営みを拒むようなその土地には魔獣や聖獣と呼ばれるものたちが多く暮らしていたのだという。
けれど、人というのは常に前に進み続けるイキモノだ。
彼らは努力を続け、かつての未知を既知へと切り開き続けた。
身をもって学んだ知恵を後進へと伝え、後進はさらなる前進をもってそれに応えた。
結果、暗黒大陸は人のために人によって拓かれた。
進んだ技術の前においてはかつて魔物と呼ばれたイキモノたちももはやただの害獣の一種に過ぎず、魔獣や聖獣も同様に貶められた。
種族の種類はあれど、大陸の覇者は“ひと”となった。
そして、いくらかの時が流れ―――
人々が森や獣を恐れなくなってから久しい今。
それでもなお森に住まうものがいる。
森を守り、森と“ひと”との境界線を守るものがいる。
かつて暗黒大陸と呼ばれた土地、テッシウス大陸の端に聳える霊峰アールギス。
その麓に広がる『森』はどこの国の領土にも含まれていない。
この『森』だけがテッシウス大陸に残された唯一の神秘であり、不可思議なのだ。
そして――
私、アデリードは人の身でありながらそんな『森』を守るものとしての役割を持った、今代の『魔女』だったりする。
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