挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

ブックマークする場合はログインしてください。

夢と現実、希望と絶望 〜僕らの恋はバレンタインデーからはじまる〜

作者:柊 鳳薔
 今日はバレンタインデーと呼ばれる2月14日。
 我々男子高校生たちは同級生や先輩後輩からチョコを貰うシミュレーションをしてくるのがマナーであると考えている。
 去年はシミュレーションをしたものも1つもチョコを貰えず、本命であろうチョコを貰った友人を悲しく眺めていただけだった。
 しかし、今年こそは絶対にチョコを貰える謎の自信があるのだ。

 シミュレーションをしていた1つである下駄箱へとやってきた。 
 下駄箱の中にチョコや呼び出しの手紙が入っているのは定番中の定番。
 逆に何も入っていなかったらチョコを貰える確率がガクンと落ちる。
 バレンタインデーほど下駄箱に価値を感じる日はない。

 チョコが入っていないかという期待といつも通りの中身だったらどうしようという不安が混ざり、下駄箱を開けようとする手が震える。


 頼む! 女子からの贈り物があってくれ


 覚悟を決め、勢いよく下駄箱を開けた。


 ………………………………

 夢と希望に溢れていたはずの中は、現実と絶望そして上履きだけだった。







 最悪だ…………終わった……


楓季ふうきどうした? 教科書でも忘れたか?」

 机にうつ伏せになって寝ていた僕に柊人しゅうとが話しかけてきた。
 こいつは去年本命チョコを得ることに成功し、リア充となった裏切り者だ。


「柊人か……お前はいいよなぁ…………可愛い彼女がいて」
「あぁ、今日14日か。そりゃドンマイ」

 彼女がいるため余裕がある柊人。
 まだ今日は終わっていないとわかっていても下駄箱になかったショックが体に溜まる。

「柊人、話があるからちょっと」
「楓季ごめん、行ってくる」

 噂をしていると教室の外から彼女の千冬ちふゆに呼ばれて柊人は行った。
 彼氏が忘れていても彼女が覚えていれば成立するのがバレンタインだ。

 クラスの男子たちが母や姉妹から貰ったという自虐ネタに女子たちが冷たい視線を送っている。
 母も姉妹もいない僕は冷たい目線すら送られることはない。

 
 あーもう授業が始まる時間か……


 僕がシミュレーションした限りチョコを貰うチャンスは2つしかない。そのチャンスは朝と放課後である。
 しかし、朝は終わってしまう。未だにチョコを貰えていない僕ら男子は放課後に全てを願うしかないのだろう。








 午前の授業が終わった僕は柊人と食堂でラーメンを食べている。

「今日お前ん家行っていい?」
「いいけど、千冬と一緒じゃなくていいの?」
「いや、クリスマスじゃないんだから、千冬もゆきちゃんと遊ぶみたいだし」
「なら安心して僕たちも遊べるな」

 バレンタインを忘れているなど、柊人はデリカシーがない所が多いため気にかけておくのが友人である僕の仕事だと思っている。

「それよりお前のバレンタインはどうしたよ。まだチョコなしか?」
「あぁ、本命も義理もクッキーもなし」
「体育祭あんなに目立ってたのに女の子から話しかけられなかったん?」

 体育祭で100mを陸部に勝ちながら1位を取り、リレーでアンカーとして走りごぼう抜きをした僕は全校生徒たちから注目を集めていた。

「特に変わらずいつも通り、まぁ男たちが部活の勧誘で来たけど」
「また部活に入るつもりは? もう治ったんだろ?」
「治ったっていってもブランクだってあるし昔のほうが速いなんて思いたくない」

 風が強かったこともあったが100m10秒台を出したり、2年連続で全国大会に出場していたりと陸上に人生を捧げていた。
 そんな中3の夏、僕と母が歩いているとトラックが突如突っ込んできた。その交通事故によって僕は少しの自由と母親を失った。

「意地になってない? 俺には走りたそうに見えるよ」
「体育祭なら何度やってもいいよ、勝てるから」
「ただの負けず嫌いかよ」

 昼飯が食べ終わり立ち上がりながら話す。

「当たり前じゃん。負ける勝負はしたくないね」
「バレンタインは?」
「去年は負けたけど今年は勝つ」

 食器を片付けガッツポーズを見せる。

「自信あんの?」
「貰えるって天が囁く」
「昔もそんなこと言ってたな」
「そうだっけ?」
「陸上の試合の前には常に」

 昔のことはあまり覚えていないが、確かに聞こえてたような気がする。

「じゃあいけるじゃん」
「本当にそういう勝負感だけは強いよ。じゃあ俺トイレ行くから」
「おう」

 バレンタインが始まってから女子と一言も喋っていない。
 放課後という最大のチャンスがあるのはわかっている。
 しかし、僕は貰えないような気がしてならなかった。








 学校が終わり10分が経過し、最後に残っていた女子2人が帰っていく。

「よし、じゃあ帰るぞ」
「そうだね……」

 僕と一緒に残っていた柊人が話しかけてきた。
 今年のチョコ0が決まった瞬間だ。








「お茶でいい? コーヒーもあるけど」
「おう、それにしても散らかってんな」

 自分の家に柊人と帰ってきた。
 僕の家は父との2人暮らしだが、父は出張などの泊まりが多く僕の1人暮らしみたいなものだ。

「どこに何があるかは把握してる。困りはしないよ」
「いや、それが困るんだよ……そうだ! 今から掃除を始めんぞ」

 頭に手を当て何かを考えている素振りを見せると、次はガッツポーズをした。

「お、おう」

 柊人の謎の気迫に押され掃除を始めることにした。
 元々掃除が嫌いなわけではなく、やる必要性がないと思っていたからだけの話であるため別に構わないし、柊人も手伝ってくれるというのだから乗らない手はない。








「クリスマスとか夏とかは無反応だったのに、何でバレンタインには拘るん?」

 黙々と片付けをしていた僕に柊人が手を止め聞いてきた。

「手作りチョコが食べたいから」
「それだけ?」
「それだけ」
「なんか……こう……記憶に残ったバレンタインの思い出があったとか、俺がバレンタインが理由で付き合い始めたからとかじゃなくて?」

考えを出そうと手をクルクル回しながら柊人が言った。

「そんな思い出もないし、お前にそこまで対抗心を燃やしてない」

 逆に思い出がないからこそ作りたかったのかもしれない。

「それなら人生で1番楽しいバレンタインになりそうだな」 
「えっ……?」
「ほら、まずは手動かして片付ける」
「お、おう」 

 話すのをやめ、僕たちは片付けを再開する。







「これいる?」
「いらない」
「これは?」
「いらない」
「これも?」
「いらない」

 片付けの定番である捨てるものといるものの分別作業をしている。

「逆にいるものはどれ?」
「バレンタインチョコ」
「ほい」

 柊人がラッピングされているチョコを放り投げて来た。

「何これ」
「俺が貰ったやつ。多分本命だからやるよ」
「は? お前が貰ったならお前が食えよ。僕が欲しいのは僕宛ての手作りチョコだ」

 柊人にチョコを投げ返す。

「何て言って渡されたか知ってるか? 『2番目の女でもいいのであなたを食べさせてください』って不気味に笑いながら言ってきたんだぞ。そんなの何が入ってるかわからないし俺は食えん」

 身体を震えさせながら喋っている。

「なおさら僕も食えないわ」
「わかったよ。勿体無いし、姉ちゃんにでも渡すか」
「全てが酷い」
「そうか? ……ってやべぇ、とりあえず物を全部お前の部屋に持っていくぞ」

 時計を見た柊人が焦りだし立ち上がった。
 時刻は17時45分である。

「急にどうしたんだよ」
「いいから、はやくしろ」

 柊人の言う通りに急いで広がっている物を僕の部屋と押し込んだ。

「これでいいのか?」

 ほうきでゴミを集めながら問う。

「椅子は4つある、服はまぁまぁちゃんとしてる、台所は綺麗にした、表彰状は飾った、ゴミは今取ってる。よし! 完璧だ」

 1つずつ指を指しながら確認していく。

「なら、これから何が起こるのか説明してくれよ」
「まぁそう急ぐなって。もうすぐでアイツらが、――って言ってたら来たな。ほら、出てこいよ」

 喋っていると家のチャイムが鳴った。
 状況が理解できず柊人の方を一度見ると、彼はニコッと笑って頷いた。
 恐る恐ると自分の家のドアを僕は開けた。


 ………………………………

 現実と絶望しかなかった僕のバレンタインデーの先には、夢と希望そして女子高生が立っていた。


「千冬ちゃんと雪ちゃん……?」
「突然お邪魔してごめんなさい。ほら雪、話があるんでしょ」

 後ろに隠れていた雪を千冬が前へと行かせる。

「えっと………あの……私の作ったご飯を食べてください!」

 緊張していたのか目を瞑りながら声をあげた。

「はい、というわけで寒いだろうから、どうぞ中へ入って」

 なぜか、その様子を見た柊人が中に入れさせる。

「お、お邪魔します」
「好きに使っていいから」 

 またも柊人がすぐに答える。

「僕は夕飯を作ってもらえるってことでいいのかな?」
「うん、そういうこと。食材も買ってきたし、雪の料理は美味しいから期待しててね」

 僕の疑問に靴を脱ぎながら千冬が答えてくれた。

「美味しくなかったらごめんなさい。で、でも頑張るので食べてくれると……嬉しいです」
「うん、ありがとう。柊人の言ったように、何もないけどあるものは好きに使っていいから」

 雪とは柊人と千冬が付き合い始めてから何度か話したことがあるが、まともな会話というものはしたことがない。いつも千冬の後ろに隠れているイメージがある。

「はい。台所お借りします」

 持っていたスーパーの袋を台所へと雪が持っていき準備を始めてくれている。

「それでこのサプライズはどうだ? 俺に感謝してくれ」
「どうだの前に何が起こってるのか説明してくれよ」

 僕たちは、なぜか4つある椅子へと座る。

「どこから説明すればいいのかな。雪は中華料理屋の娘で、今日は麻婆豆腐を作るよ」
「あー麻婆豆腐か、美味そっ……じゃなくて、何で料理を作ってもらう流れになってるか知りたい」
「楓季くんが1番望んでるのは手作り料理を食べることだって柊人が言ったからやってみちゃった」

 千冬はニコッと笑うが、僕には意味がわからなかった。

「ん? 手作り料理じゃ駄目だったか?」
「作ってくれたものを食べるなんて母さんが死んで以来なかったし嬉しいに決まってるけど、状況を全く把握できない」
「喜んでんなら良かったわ。雪ちゃんが頑張ってるのに俺が原因で失敗したら、合わせる顔がなくなっちゃうからね。それから、状況については、飯食いながら雪ちゃんから直接聞いてよ」

 そう言うと、柊人が台所の方を指さした。

「雪はスイッチが入ると周りが見えなくなっちゃうんだよね」

 千冬の言う通り、食材以外見えていないようで完全にスイッチが入っている様子だった。

「恥ずかしやり屋で、人見知りで、誰かと関わるのが苦手なあの子が、やっと一歩踏み出せた。楓季くん、ありがとうね」
「う、うん。感謝するのは僕の方だけど」

 自分のわからない所で、わからない話が進んでいっていることに僕は追いつけない。

「感謝って言葉を当たり前のように、楓季が言ってることが俺は感動させよ」
「それはどういうこと」
「捨てたはずの感情を気づいたら取り戻してたなぁって」
「捨てたんじゃなくて封印な」
「中二病か? お前の中2なんてなかったようなもんだから、今から中二病になっても何も言わないであげる」

 人の中2をなかったことにする柊人という人間に改めて驚きを感じる。

「楓季くんの昔の話は私も知りたい」
「雪ちゃん来たらな」
「そうだった。雪が頑張ってんのに楓季くんの話で盛り上がるわけにはいかないよね。私たちは静かに麻婆豆腐を待ちましょ」

 よくわからないが、千冬の発言に従い静かに過ごした。









「おー美味そう」

 雪が作ってくれた麻婆豆腐が4人の前へと並んでいる。

「口に合わなかったら本当に本当にごめんなさい。すぐにコンビニへ走っていってきます」

 とても美味しそうな料理を作ってくれた、雪は今にも泣きそうな声である。

「そんなに心配しないで大丈夫だよ」
「あ、ありがとうございます」

 とりあえず声をかけたが、泣きそうな声だ。

「不味かったときは、不味かったときに考える。ってわけでいただきます」
「私もいただきます」
「いただきます」
「い、いただきます」

 いただきますの挨拶をすると、麻婆豆腐を口へと運んだ。

 こ、これはめちゃくちゃ美味しい。

「どうですか?」
「今まで食べたものの中で1番美味しいよ。作ってくれてありがとうね」
「ほ、本当ですか? 」

 泣きそうな声を超え、ほとんど泣いている声だった。

「私、小さい頃から千冬ちゃんしか友達いなくて、そんな千冬ちゃんに彼氏ができたって聞いて、どんな人なんだろうと柊人くんを追ってたんだけど気づいたら楓季くんを追うようになってて、楓季くんを追えば追うほど楓季ことが好きになって惹かれていったんです。だ、だから楓季くんに『美味しい』って言ってもらって私、もう何も……」

 ついに泣き出してしまった。
 シミュレーションしていたことが何も起こらず、終わったと思っていたバレンタインデー。
 しかし、シミュレーションしていなかったことが起こり、新たなるバデーが始まったような気がした。

「あーもう、大丈夫? これティシュね」

 隣に座っていた千冬が泣いている雪にティシュを渡し、背中を揺する。

「また、こうやって作りに来てもいいですか?」
「うん、ぜひ」
「あ、ありがとうございます」

 まだ泣き止んでいなかったが、僕と目を合わせて最高の笑顔を見せてくれた。


 その後は、柊人が僕の中学のときの話をふざけて話したり、雪のことも千冬が話したりしている間に時間が過ぎていった。

「今日は突然すみませんでした。次は連絡してから来ます」
「麻婆豆腐ありがとう。美味しかったよ。またよろしくね」

 雪が頭を下げ謝ったっきたため、お礼を言い笑って返した。

「雪と楓季くんが仲良さそうで良かった。また明日、学校で」
「気をつけて帰れよ」

 千冬には柊人が言葉を返し、彼女たちは帰っていった。

「人生で1番楽しいバレンタインにできたか?」
「できたよ。こんなにバレンタインデーが楽しいと思ったのは初めてだ」 
「なら良かった」
「柊人も色々やってくれただろうし、ありがとうな」
「千冬とのことで、お世話になってますんで」

 最終的に今年のバレンタインデーもチョコは0個であった。
 しかし、チョコよりも大切で嬉しいものを僕は大量に手に入れることができたと僕は思う。

 とても小さい、でも大事で大きな一歩を踏んだことによって、僕らの恋ははじまったのだ。



評価や感想は作者の原動力となります。
読了後の評価にご協力をお願いします。 ⇒評価システムについて

文法・文章評価


物語(ストーリー)評価
※評価するにはログインしてください。
感想を書く場合はログインしてください。
お薦めレビューを書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ