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 僕は工藤と学校でもよく話す様になった。


 工藤は僕が思っていたよりもずっと知的な奴だった。少なくとも僕にはそう思えた。僕は工藤の話が好きだった。


「おい斉藤、イギリスにあった神判って知ってるか?」

「審判?」

「違う、神判だ。裁判制度のことさ。こいつが変わっててさ、人が有罪か無罪かを決めて、もしも、それが有罪なら水の上を歩かせたり、手足を縛って水の中に落としたり、そういう事をやってその裁判が神の御心にかなうかをやったりするのさ」

「不思議な制度だな」

「だろ? 昔のイギリス人って変な奴等だぜ、お前以上にな」


 工藤が選ぶ話題ってやつはおおよそ中学生がチョイスするような話ではなかった。だからこそ僕も面白かった。でも工藤は僕に一言言った。


「謝った方がいいと思うぜ」

「井上にか?」

「そうだ。井上に対して謝るし、あるいはそれが皆にあやまることになるのさ」

「どうして?」


 工藤がいうには男も女も売れるモノだったらしい。別に変態的な意味では無い。太古の昔から男は力仕事やらそういう感じで売られ、女は性的な意味や、家周りの仕事で売られたらしい。


「男も女もいつも誰かの売り物だったのさ、たぶん長い歴史の間のほとんどでな。でもその時代の人々は不幸だっただろうな」と、僕にいった。


 僕は工藤の言わんとしてることが分かった。つまり工藤がいうには、奴隷というものは時代に彼方に消えてしまったもので、その言葉を使うこと自体が憚られるというのだ。僕はそういう意味で使った事などなかったが、そのかわり工藤が言った。


「今度、誰かとヤリたいな、と思ったら。あなたに魅力を感じる、とか言っとけ。ん~それじゃ失敗するかもしれないが、大体同じ意味だろ? どっちも気持ち悪い台詞かもしれないが、敬意が違うのさ。人は物じゃあねぇ。そこだけはお前が悪い」


 僕は妙に納得してしまった。



 僕は翌日井上浅香の前までいくと「性奴隷という言葉を使って本当にすみませんでした」と謝った。そのあとすぐに言った。


「君に魅力を感じる」


 僕はその台詞のあと、本当に周りの女子から色んな事を言われた。本当に酷い言葉も混じっていた。



 だが、それでよかった。


「かっこよかったぞ。まさかアレを真に受けるとは思わなかったけどな」と工藤が笑った。僕もそう思った。井上は僕がストーカーであると先生に言い、僕はまた先生の説教を受けた。


 それが僕の青春だった。

 今、思い返すと、本当に僕はすごいことを言ったんだな、と思う。


 僕は25歳になろうとしていた。今でも工藤とは仲が良い。思い返すと、一体井上の何をそんなに魅力的に感じたのか分からなかった。アルバムで見ると、目は細いし、極端に角ばった顎をしていた。


 青春とは不思議なものだと思った。


 僕はなんとなく笑ってみた。


 そして、あの時、あの言葉を謝れて本当に良かった、と思った。


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