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異世界チート主夫と六人の妻  作者: 茅葺
マーガレット・リンドブルムと二本の魔剣
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リンドブルム家の魔剣

「盗まれたのは確かなのです。武器庫のほかにも手早く換金できる貴金属類がぽつりぽつりと消えておりまして。半年ほど前に雇ったという警備員が、どうも盗賊団の手先だったのではないかというのが、家令殿の見立てでした」

 マルメーが帽子をかぶり直しながらそう言った。


「家令……ヒューバートか。あれは切れる男だが、情に脆いのが欠点だ。事前におかしな者は撥ねてくれればいいものを」

「ええ、ご本人もそういって悔やんでおられました」


「で、私なら探し出せるかも知れない、というのはどういうことなんだ?」

 マーガレットの言葉が、先ほどマルメーが引用した伯爵のセリフとはやや違うことに、気が付いてもらえるだろうか。


 これが彼女なのだ。ポジティブな言葉と態度でぼくをいつも勇気づけてくれるが、半面、情勢を分析する頭はひどくシビアだった。


「『スケイル』は、自ら主を選び、意に沿わぬものの手からはすり抜けるように消え失せる、という性質を持った魔剣なのです」


 マルメーは不意に腰をかがめ、マーガレットの前にひざまずいた。


「『国母』ララ様はちょうどお嬢さまのような武人でありながら、並み居る候補者の中から先王の妃に選ばれ、現国王陛下幼少のみぎりには摂政まで務められたお方でした……伯爵さまは、マーガレット様ならララ様のように、スケイルに主として選ばれるであろう、と」


 マーガレットは肩を落とし、乳兄弟から顔をそむけた。

「買いかぶりもいいところだ。私は大叔母上のような英傑とは違う。父上は私を通じて叔母の面影を見ているのだろうが……それに『剣に選ばれる』などというのはどうにも気に食わんな。だがまあ、話は分かった。ところでマルメー、お前ここへは一人で来たのか? まさかな。帰りはどうするつもりだ」


「はい、馬車の警護に騎兵を六人ほど帯同してまいりました。いまロッツェルの東門近くに待たせております。私の分の馬も」

「解った、では急ぎ戻って父上にはこう伝えてくれ。『馬車はかたじけなく頂戴いたします、いずれ孫を見せにこの馬車で参上いたす所存』とな」


 ぼくは心中密かに苦笑いするしかなかった。こいつを特大の空手形で終わらせないためには、現行のローテーションを解体して集中的にマーガレットを構わねばならない。だがそれが現状難しいことは明らかだ。


「スケイルのことは、何と?」

 立ち上がって一礼した後、町のほうへ向かうそぶりを見せながらマルメーが懇願めいた口調で訊いた。


「『盗まれた、お前が適任だから探せ』と言われても、手がかりも何もなしではどうしようもないのだが……まあいい、機会があれば調べてみる。そちらも何かあれば知らせてくれ」

「分かりました」


 マルメーはゆっくりとした歩調で遠ざかっていく。マーガレットが彼とその随員を屋敷にとどめる判断をしなかったのはありがたかった。何せ今ここには一種のまがい物とはいえ、黒竜王に類するものがいるのだから。


「何だかわけのわからない話を持ち込まれたなあ。スケイルってのはそもそもどういう剣なんだ?」


「効能については私も詳しくは知らんが、単に武器としても随分強力なものらしい。巨竜の(スケイル)をやすやすと断ち割った、という伝説がある。名前もそれが由来だとか。建国王マンスフェルが部下に与える褒章の黄金を量るのに、竿秤(スケイル)に使った、という異説もあるがな」


「それだけじゃないわけだね」


「ああ。実は子供のころ、地下に忍び込んで知らずに手を触れたことがあるんだ。こっぴどく叱られた――ふさわしい主の元に行くまでは因果律を操って災いと混乱を引き起こす、という話でな。マルメーはこのことは知らんようだったが」


「また何ともはた迷惑な……」

 二人の持っていた情報を総合するに、なかなか面倒な剣のようだ。


 できそこないの黒竜王コピーに降ってわいたダンジョン、かてて加えてトラブルを引き寄せる魔剣。どうにも不安な雲行きになってきた。単なる偶然とは思えない。


「父上は、もしかしたら私のところへ自ずと剣が流れつく、とでも思っているのではないか……」

「もしかしたら今起きてるいろんなことも、その剣のせいかもしれないな。それはそうとしてだ。早く館に帰ろうか」


 とりあえず、ヘルツォーク氏に館のどの部屋をあてがうか、そして何か家の中での役割を分担してもらうかどうか、が当座の問題なのだ。


 馬車もどうすべきか迷う。ヘルツォーク氏以外はみんな馬に乗って移動したから、それらの馬をくびきにつければ館のある丘の上まで馬車を持って上がることは可能だ。

 だが、街まで下すのが一苦労。重量のあるこの馬車に、元いた地球の自動車のような制動装置(ブレーキ)はない――


 考えは数秒でまとまった。

「よし、みんな集まって。ああ、ニューコメン男爵もこちらへ」


 皆がぞろぞろと僕の周りに集まってくる。クレアムは僕の馬にそのまま乗って、馬に何やらぼくの知らない言葉で命令を与えていた――なんだよ、一人で乗れるのかよ。


「シワス殿、どうなされました」


「まあ、見てのとおりですよ。馬車が転がり込んできた。坂があるからうちの屋敷にはおけない。お分かりですよね」


「なるほど」


 ぼくは妻たちを見まわした。結局、彼女らを指揮してこれから起こりうる色々な事態に対処しなければならないらしい。何年たってもぼくらは勇者パーティーであることを卒業できない。


「ニューコメンさんの依頼に応えて、来週から岬の灯台へ出向くことにしよう。最寄りの村にでも拠点を置いて状況に対応する。少し生活が不便になるけど、できるだけ早く終わらせるから」


 妻たちが少し表情を陰らせて互いに顔を見合わせる。人間族としては最年長のメリッサが前に出て、ぼくの手を取った。

「仕方ないわね。シワスが決めたことなら、私達は従うわ」


 皆も無言でうなずいた。


「毎日ピクニックなのじゃー」

 クレアムが馬の上で嬉しそうに飛び跳ねる。


「というわけで、この馬車、ロッツェルの衛兵隊詰所に置かせてください。うちの一家の足としてだけでなく、今後やってくる冒険者(フィールドワーカー)たちの、救急搬送用にも使います」


 途中まで顔を輝かせていたニューコメン男爵が、最後に「むむ」と一声唸った。

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