05
「そうそう。大体毎年、夏休みの最初らへんにやってる祭りでね。ここから歩いて行けるから俺らも友達と毎回行ってるし」
そうか、あと少しで夏休みなんだ。
もう一学期が終わるのか。
陽が言った夏祭りは、私も毎年友達の里穂と那央と一緒に行っていた。陽はしょー先輩か他の友達と一緒に。蒼兄はバイトで行けないことが多くて、バイトがなくても家で留守番をしている。
今年はバイト休みだったら蒼兄も連れ出してみようか。
「おまつり……いったことない」
ボソっと隣から聞こえ、洗濯を畳み終えた私は優希ちゃんの顔を覗き込む。眉を下げて肩を落としているけど、声のトーンはもう、祭りに行くことを期待しているような弾んだ声。
……これは、行きたいということか?
「行っちゃえばいいんじゃん?」
いいこと思いついた、みたいな顔をして陽が言ったことに私が目を見開いた。
「! ……あ、でも時間による」
お祭りは夕方の5時半から始まって9時半過ぎくらいまでやっている。さっちゃんが優希ちゃんを迎えにくるのが7時だから、それを待って許可もらってからなら行けるかもしれない。
けど、さっちゃんがいない時に優希ちゃんは連れ出せない。
「じゃあ皐月が来た時に聞いてみよう。 一緒に祭り行くかー? って」
こちらも行く気満々で口角が上がっている。立ち上がると廊下に行き、二階に戻って行った。
「にいちゃんも、皆で行ける?!」
胸の前で手を握り目を輝かせる優希ちゃんの頭を撫でて、私は首を傾げる。けど私も優希ちゃんや、さっちゃんとお祭りに行きたいので無意識に明るい声になった。
「まだ分からないけど、行きたいね 」
____
陽が二階に行ったあと、私も課題があったので二階の自室へ戻った。勿論、優希ちゃんも一緒に。
部屋で課題をやっている間は優希ちゃんには紙とクレヨンを渡してお絵描きさせていた。チラッと見ると右手左手、それぞれに違う色のクレヨンを握り黙り込むくらい集中して描いていた。
その時に隣の部屋のドアの開閉音がして、それに続いて何やら盛り上がっている男子三人の声も聞こえた。一番弾んでいた声は陽のものだった。
……最近ふわふわしてるのは知ってたけど、翔季さんに話すって言ってた話の内容と関係あるんだろうか。
「いずみちゃーん」
自分の机で課題をしていた私は床でお絵描きしていた優希ちゃんを振り向く。私の名前を呼んだ本人はニコニコと笑っている。
「優希ちゃんどうしたの?」
ソワソワと何か言いたそうに見え、待ってみるが笑顔のまま首を横に振って「なんでもない」と言う。
本当に呼んだだけなのか、首を傾げて机に向きなおろうとした。その時に私の目が捉えたのは優希ちゃんの描いた絵。気になって立ち上がると、床にしゃがみ込んで優希ちゃんの描いた絵をジッと見た。
「優希ちゃん、これって」
「だれだかわかる?」
手で口を隠し。所謂奥様の笑う時のポーズをしては茶目っ気たっぷりにニコニコと笑う優希ちゃん。
ジッと目を見開いて絵に顔を近づける。
絵の顔では誰だか分からないものの……その絵の中の人物が着ている服と、ツンツンとした黒髪の短髪に見覚えがあった。
「……蒼汰? 」
恐る恐る声を出したのは自信があまりなかったからで。絵が描かれている紙からゆっくりと優希ちゃんへ視線を移すと焦ったように目をパチクリさせた。
ゆっくり何かを飲み込むようにコクンと頷いて、眉を下げてえへへと笑った。
多分この笑顔を見たら、蒼汰や陽なら何か勘付いていたんだろうなと思う。私はそのことに疎いらしいから。