02
「皐月、久しぶりだな! てか制服でどうしたんだよ、土曜だろ」
スリッパを履いて私と同じように玄関に下りてきては、久しぶりに会ういとこに嬉しそうに笑う蒼汰。
さっちゃん、皐月の方が蒼汰より一つ歳上だから、蒼汰からしたら仲のいい兄みたいなものなのかもしれない。私もだけど。
「あー……頼みがあって来たんだよ」
そう言ってさっちゃんは、私が開けたままのドアの後ろに目を向けた。
「優希〜」
私からは死角になっていた、ドアの後ろの隙間を蒼汰と私で覗き込む。すると、そこにちょこんとしゃがみこんでいたのは、長い栗色の髪をした小さな女の子。
「俺の妹の優希。俺、今から塾に行かないといけないんだけどさ、保育園休みで……」
蒼汰は女の子からさっちゃんに目を向けて話を聞いている。私は女の子とじーっと見合っていた。今まで一人っ子だったさっちゃんの歳の離れた妹。
目はさっちゃんとは違ってぱっちり二重だが、栗色の髪といい、やわらかい雰囲気がさっちゃんと似ていた。小さい妹が出来たことは知っていたが、こうして会うのは初めてだった。
「保育園が休みでも、親が家にいたり、親の親戚とか実家に預けたりしてたんだけど。今日、親二人とも家にいなくてさ、家で1人で留守番させられないから……」
大学受験を目指しているさっちゃんが塾に行っている間面倒見てて欲しい、ということらしい。
「できるもん、るすばん」
ボソッと聞こえた女の子の声にさっちゃんは苦笑して、蒼汰を見る。
話を聞くと、うちが今、家に両親がいない状態のことは親から聞いてたそうだ。さっちゃんのお母さんが私の母さんのお姉さん。
「いいぞ。土曜で用事はないし、家に俺らいるし。塾は何時までだ?」
「7時までかな。で、終わり次第迎えに来るから。……頼んでいいか?」
受験生だから、家で妹の面倒を見ながら勉強をしているんだろう。高校受験でも大変だったもの……大学受験ってもっと大変だよね。
「全然いいぞ!」
「全然いいよ! 」
二人の声が揃い、私と蒼汰がお互いを振り向くとさっちゃんは声をだして笑った。
「じゃあ、お願いします!優希、また後でな」
さっちゃんがドアの後ろの妹に手を振ると、その子も小さく手を振り返した。泣きそうな訳でもなく、膨れっ面してるわけでもなく。
落ち着いているような様子にホッとした。