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「お前、わからないって、これベタ甘な恋愛ものじゃん。」
そういって眉を寄せたままなのは、蒼汰はそういう女の子の物に免疫がないからかもしれない。
私が兄や弟に影響されて男っぽいので、家には女の子要素の物があまりない。
「恋愛ものの小説ってことは分かるよ。
そーじゃなくて……なんだろ」
蒼汰に返された小説の表紙を眺めながら首を傾げる。
「感情移入? 出来ないとか。」
食器をシンクに片付けてくれた翔季さんの言葉に「それ!」と目を見開いて指で指す。
指差した相手が歳上だったと気づいて慌てて手を下ろしたけど。
「それやばくない? 泉大丈夫なの」
話は聞こえていたらしいソファーに座っていた陽が、首をソファーに凭れさせて逆さ向きにこちらを見た。
「何が。」
「女子として。」
陽の言葉に無言でいる。
それは、そうかもしれない。
読んでて"キュン"とも"ドキッ"ともしないのは、私の女子としての観点がどうにかなっちゃってるのかもしれない。
男兄弟に挟まれているからか、小さい頃から女の子らしくないのは自分がよく理解している。
陽の言葉に言い返す事が見つからなかったから黙っていた訳だが、何故か隣で翔季さんが慌てた様子で言う。
「いや、恋愛小説の好みが違うだけって可能性も」
「いや、恋愛に関しては好み以前の問題だな。」
欠伸しながら言う蒼汰の頭を無言のまま叩いた。
夜の9:00を過ぎて、テーブルに突っ伏したままの蒼汰から寝息が聞こえる。
私はテーブルの後ろのシンクで食器を洗っていた。
隣では食器を拭く手伝いをしてくれている翔季さん。バイト疲れの蒼汰はともかく、陽には見習ってほしい。その陽はリビングのソファーでコクコクと首を重そうに眠りかけている。
私達の家は、翌日が休みだとしても就寝時間は変わらず9:30。私も就寝時間が近づくにつれだんだんと眠気で頭がぼーっとし始めている。
「眠そうだね、代わる? 」
食器を受け取った翔季さんが覗き込んできた。
「大丈夫です。」と掌を前に出して制すると声を抑えたクスクスという笑い声。
食器の片付けは翔季さんが手伝ってくれたのでいつもより断然早めに終われた。
「翔季さんは眠くないんですか? 」
タオルで手を拭きながら聞くと首を横に振って見せた。
「俺は普段寝る時間が遅いから、この時間はまだ余裕ー。」