プロローグ
〜序章 少女の瞳の奥底へ〜
それは、あまりにも美しかった。
何が美しいのか?
その明確な答えを俺は持っていない。
ただ、一つ言えることがある。
『彼女』の全てが美しかったのだ。
ポニーテールに束ねられている綺麗な黒髪。
汗で艶やかに光る白い肌。
レイピアを握るか細い手。
身体全体で感じ取れる雰囲気。
それら全てがこの世のものとは思えないほどの美しさを解き放っていた。
実はこれは夢か何かで現実世界には存在していないんです、と言われた方がまだ現実味がある。
それ程までに、『彼女』は暴力的で魅力的で美しかった。
そんな『彼女』だったからだろうか。
それとも『彼女』がそうだったからか。
これもまた、明確な答えを持ち合わせていないが、これだけは確かに思ってしまったのだ。
(なんて悲しい眼をしているんだろう………)
『彼女』の黒い瞳の中には、表情からでは決して伺えない寂しさが見えた気がした。
何かに絶望しているわけでもない。
何かに打ち砕かれたわけでもない。
ただ、何もない。
『彼女』の瞳からは感情と呼べるものがなに一つ感じられなかった。
だからなのか。余計に『彼女』が寂しく思えてくるのは。
俺は勝手にそう思い込むことによって、いつの間にか、自分でも気づかないうちに『彼女』の事が気になっていたのかもしれない。
「………」
ふと、『彼女』がこちら側を向く。
俺と『彼女』の視線が交わる。
寂しい瞳が俺を捉え、俺を見据え、その瞳に俺を反射し、俺はそれを自分の眼で見て、そして感じた。
俺はまるで吸い込まれたかのように、『彼女』の瞳から目を離せなかった。
これが、俺と『彼女』………天才少女との出会いだった。