イノベーション
「納得がいかないわ」
いつもながらの不機嫌な様子で、佐波村主任がアンニュイブレスを虚空に一つ。
ついで、傍らにあった好物のヨーグルッペを一口。それでも尚、気分は晴れないようであった。
僕はといえば──聞えよがしのその言葉に恐々としながら、それでも心の片隅が高揚し始めていた。さあ、始まるぞ。
「一ノ宮君、聞いているのかしら?」
「はい主任。細大漏らさず聞いております。貴女の艶かしい吐息から、足を組み直した際に生じた悩ましい衣擦れまで、余す事なく拝聴しております」
僕の返答を薄気味悪そうに一瞥した後、主任はそのしなやかな指先でキーボードを繰り始めた。
「コレをご覧なさい」
刹那の間をおいて電子の海よりファイルが漂着──それにもまさるスピードで解凍&閲覧。
モニター一杯に映しだされたるは、一台の自動販売機を様々な角度から収めた画像データであった。
「……この自販機が何か?」
「わからないの? ……全く、コレだから俗物はダメね」
再び主任の睥睨。魯鈍な僕を見つめる2つの虹彩、その色はさながら煤けたガラスのよう──嗚呼、たまらない。
今少し針の筵を堪能していたかったが、コレ以上失望させては暇を出されかねない。
改めて画像をよく見返す。その合間も主任の視線がどんどん冷たくなっていく。静けさのなかに刻まれる秒針は爆発までのカウントダウン。
更に隅々まで、舐め回すように見つめる。それでもよく分からない。
いよいよ進退窮まって、いっそ舐め回したら理解できるのではないか……なけなしの思いつきに縋らんと舌を伸ばした矢先、ようやく僕は気付いた。
「あっ」
よくよく見ればこの自販機、電源の類がどこにもない。なんとも奇妙な一品だ。
「気づいたようね。では次はコレを」
続けて送られてきたファイルの中身は、『極秘』と押印された自販機の設計図だった。
当然コレにも、電源らしきものは見当たらない。その名もズバリ、自立型自動販売機──何やら胸のときめく名前じゃあないか。
僕は主任の不機嫌顔も忘れ、設計図と諸元に没頭した。電力消費を極限まで抑える真空断熱構造に、公衆無線、AEDを標準搭載。災害時のフリーベンド(炊き出し)にも対応している。
特筆すべきは、エナジーハーヴェストとバイオマスを併用した自家発電機能だ。これとピークシフトを併用した結果、驚異の独立可動の実現に成功──まさに思いつく限りの技術をこれでもかと、一台の自販機に詰め込んでいた。
「へぇ……コレはちょっと、一本取られましたねぇ」
しかし僕の感心とは裏腹に、主任の表情は晴れない。それどころか、むしろ嫌悪するような眼差しでじっと自らのモニタを眺めながら、苛立たしげに爪を噛んだ。
「一ノ宮、自立と言う言葉の意味を述べなさい」
「自ら立つ……ですよね?」
突然の問にも躊躇なく口が応答を繰り出す。よしよし、さすがにこの程度なら即答できるぞ。
「読んで字の如しの面白みのない、全くもって凡愚の回答ね。……ま、50点としておきましょうか」
むう、それでも50点か。やはりもう少し頭をひねるべきだったかと内省する。
「自立というのは、何者にも頼らず、己の力によってのみ立ち上がる事。それに比してこいつはどう?」
どうもこうも無い。こいつはただ設置され、佇んでいるだけである。……そこでようやく、僕は主任の言わんとする事の尻尾を掴んだ気がした。
「そう! 立ってないのよ! 看板に偽りありなのよ! 納得がいかないわ!」
◆◆◆
「という訳で、我々の手で『自ら立つ自販機』を作るわよ」
「はぁ」
唐突に始まった会議──参加者は主任、それから僕。即ちフルメンバー。
少し淋しい光景だが、俄然やる気になった主任を諌めるすべなど無いし、また元より諌める気もない。
自販機の写真を貼り付けられたホワイトボードを前に靴音高く主任が陣取った。
僕は自分のデスクで女教師然と振る舞う主任の聞き役である。
むしろ放課後課外授業的な展開さえ望める、美味しいシチュエーションにさえ思われた。
「まずはおさらいね。一ノ宮、自動販売機とはどういうものかしら?」
「設置主に変わって商品を展開し、販売を代行する機械です」
「結構。ではこの自動販売機を設置することによって、どのようなメリットがあるのかしら?」
「……人件費の削減、営業の効率化……といったところでしょうか?」
「そうね。『経営に対する合理化』。コレこそが自動販売機の本質よ──……けど、まだ不十分」
「と、言いますと?」
「物を売るという立場にありながら、ただ座して顧客が訪うのを待つ……これでは自立には程遠い。新に自立的たらんとするならば、自ら顧客を開拓する積極性が必要よ」
「なるほど」
主任の仰ることは一々もっとも過ぎて反論の余地がない。僕はひとしきり頷きながら、続きを待った。
「そこで、まずはこう」
「あっ」
それまで主任の手の中でエロティックに弄ばれていたマジックインキが、突如閃いた。自販機の下部、接地面の更に下へまっすぐ伸びた二本の足が書き添えられた。
しかも、美脚だ。太過ぎも細過ぎもせず、たおやかさとしなやかさを併せ持った二本の足によって、自動販売機がしっかりと大地を踏みしめていた。
それにしても主任ときたら、よもやコレほどの絵心までお持ちだとは。いやはや、天は二物も三物も与えることもあるのだなあ。
だがこの時、僕の中にかすかな反感と異議の声が生まれた。恐れ多いとは思いながらも溢れ出る知識欲の前に抑えることは出来なかった。
「あの、主任」
「なにかしら」
「この美しい足を否定するわけではないのですが、率直に申し上げまして自重を支えきれないのではないかと愚考します」
「ふむ……そうね」
虚をつかれたと言わんばかりの表情も刹那のこと、電撃的に舞い降りた直感に従って再びペン先が乱舞した。見るも流麗なその筆使いに、僕はただただ見惚れるばかりである。
「解決したわ」
なるほど、数。そういうのもあるのか。
合計8本に増えた美脚達が互いに互いを縁とし、支えあう姿は健気でさえある。改めて僕は主任の非凡なセンスに跪きたくなった。
「早速図面を起こしましょう」
「まだよ。コレではただ立っただけ。それだけでは自立とは呼べない──……」
主任は細い柳眉をしかめさせ、再び黙考の海に沈む。
ややあって訪れる、三度目の機知の稲妻。
「つまり、こうね」
「おお……!」
自販機の前面、商品ディスプレイを上手に避けて、星の瞬く大きな瞳、更にその下、薔薇のようにふっくらと瑞々しい唇が描かれた。
「主任……これは!?」
「商売の基本……それはコミュニケーションよ。いかに機械と言えども自立を目指す以上、顧客との良好な関係構築を怠ることは許されないわ。そして円滑な対話に必要なもの。それこそが表情なのよ」
素晴らしい発想力。やはり僕の眼に狂いはなかった。彼女こそ真なる天才だ。迸る才気が眩しすぎて、僕はもう主任のどや顔をまともに見ることさえ出来ない。
しかし、しかしここは疑問を挟まざるをえない。例えどれほど敬愛しようとも、疑念があるならば牙を突き立てずにはいられない──悲しい技術者の性が、僕を女神に挑ませる。
「でも……それなら円滑な全体のデザインが在るのではないでしょうか?」
「ふむ……例えば?」
「人型にするというのは如何でしょう?」
「いい提案……と言いたいところだけど、それはただのロボットじゃない? 我々が求めるのは、あくまで『自動販売機』なのよ? それを忘れてはダメ」
なんという事だ。いつもの冷徹一辺倒の叱責ではなく、まるで姉のように優しく窘められてしまった。
言われてみればそのとおり、人型のものを作りたければ、はなからロボットを目指すべきである。
なんとも浅はかな思い違いよ──喝! 自分に喝だ! 僕は己の不明に恥じ入り、改めてこの叡智の化身に頭を垂れるしかなかった。
◆
「さて、自立に相当近づいてきたわけだけれども、まだ致命的に足りないものがあるわね。さて一ノ宮君、それは一体何でしょう」
「は? え? えっと……教えてはくれないのですか?」
「何言ってるの、このプロジェクトは私一人のものではないのよ? 貴方は私のパートナー。……パートナーならそれらしいところを見せてくれなきゃ。そうでしょう?」
真理の宇宙を閉じ込めた主任の瞳が、僕を試すように輝いた──こんな事は今までに無かった。いつも僕は黙ったまま、不出来な弟分として彼女に唯々諾々と従ってきただけだ。
従うのは楽だ。ましてやそれが才媛ともなれば、かしずくという行為そのものに快楽さえ伴う。だがしかし、本当にそれでいいのだろうか?
このラボに来てはや二年、僕は僕なりに自力をつけてきた。その筈だ。日を追うごとに空席が増えていくラボの中で、僕だけが生き残った。その意味を考えろ。
頭垂れてる場合じゃない、そう、彼女は待っているのだ。僕が彼女の発想領域にたどり着くのを。あるいは、僕自身の自立をこそ──…待てよ。 自立。自立だって?
「……そうか」
分かったぞ。コレがなければ始まらない、肝心要の部分──天啓というのはまさにこういう事を指すのだろう。
「……意思。これこそが自立の要。真に自立する存在であるなら、己の力で道を切り開けなければならない。……そうですよね、主任?」
会心の手応えに笑みさえ浮かぶ。しかし裏腹に。高なる鼓動は静まらない。長い長い沈黙。生唾がたまり、喉が鳴る音がはっきりと聞こえる中──主任は、ニッコリと微笑んで。
「正解。よく出来たわね、一ノ宮君」
僕の頭をくしゃくしゃにしてから、再び冷徹な声で宣言した。
「では、早速制作にとりかかりなさい」
◆◆◆
かくして企画・佐波村主任、実働部隊・僕という少数精鋭による完全自立起動型自動販売機の設計・制作が始まった。一向に捗らない美脚の設計、AIの開発。悪化する資金繰り。
夢にむかって邁進する僕と主任に数限りない現実の壁が立ちはだかり、何度となく心が折れかけた。
それでも立ち止まることは出来ない。出来ようハズがない。
目指すべき地平があり、そこへたどり着くための地図もある。足りないのは光だった。希望と言う名の灯火。それがなければ何も見えない。何も出来ない。何もかも手探りの中、ただ時だけが無情に過ぎてゆく。
閉塞感に包まれゆくラボの空気に風穴を開けたのは、やはり主任だった。
◆
「じゃ、行ってくるわね」
ある日から、主任はプレゼンと称してどこかへ出かける事が多くなった。そしてどこからか巨額の資金を引き出して来た。
その都度主任の美しい顔には翳りと疲れがいや増していく。そのやつれた様子さええもいわれぬ色気を醸し出しており、僕は目を奪われかけながらも主任を問いつめた。
「…──君が知る必要はないのよ、一ノ宮。貴方は貴方の仕事をなさい」
そんな訳で、今宵も僕はひとりである。
◆
出処不明とはいえ、主任がもたらした黄金の光の効果は絶大だった。資材や備品の発注に躊躇する必要なくなり、僕の作業は捗った。
僕に光をもたらしてくれたあの人は、もう10日も帰ってこない。深夜のラボで、僕は一人思う。
主任は今頃、どこで何をしているんだろうか。あんなコトやこんなコトだろうか──夜の作業は特に捗った。
劣情と情熱を燃やしながら邁進する日々。苦しくもあり、楽しくもあり、そして──。
◆◆◆
…──そして、ついにその日が訪れた。
「グオゴゴゴ」
勇ましい唸り声を上げ、ゆっくりと震える鈍色の巨体──あの日描いた未来予想図。
完全自立型自動販売機改め、TSUKUMOと名付けられた僕と主任の叡智の結晶が、今まさに目覚めの時を迎えようとしていた。
内蔵バッテリーのトルクに合わせて、八本の官能的なラインを描く女性の足が、くねくねとのたうち始めた。それはしばらく空を掻いていたが、一本、また一本と大地を捉え始めた。
リノリウムの冷たい感触に慄きながらも、自らが何を為さねばならぬのかを悟り、懸命に足掻く。
「……頑張って!」
主任が常になく切迫した声で叫ぶ。祈りのために組まれた両手が震えている。
僕もまたそれに倣う。息をするのも忘れていたその光景を見入っていた。
張り詰めゆく空気の中、ツクモは懸命に己の自重と戦っていた。僕は今にも手を差し伸べたい気持ちでいっぱいだった。しかしそれは叶わない。何故ならツクモは自立自販機で、己の意思で、力で立つ事を宿命付けられているのだから。介入を許してしまえば、ツクモはツクモとして作られた意味がなくなってしまう。故に願う。強く信じる。
──頼む。立て、立ってくれ。立って証明してくれ。僕達が見た夢は間違っちゃいないと。お前こそがイノベーションなのだと。
一体どれほどの時間、そうしていたのだろうか。ツクモは何度も何度も立ち上がり、その度に膝をついた。ぱっちりお目目が苦痛に歪み、ふっくらしたバラのような唇からしきりに息む声が上がった。美脚の関節はきしみ、ヒラメ筋が痙攣していた。どう見ても限界──やはり美脚では無理なのか。萎れゆく期待感。僕のみならず、主任でさえそう悟ったであろうその時だった。
「あば……ヴァー!」
あどけない声とともに、傷ついた美脚達が蠢いた──満身の力と意志を込めて、乾坤一擲。
奇跡というものを目撃するとき、人間の主観時間は限りなく引き伸ばされるという事実を初めて味わった。永遠と瞬間が同時に過ぎ去る。今視界にあるものが、にわかに信じがたかった。
…──ツクモが、立っていた。八本の足でしっかりと大地を踏みしめ、己の力だけで立ち上がり、ラボの風景を不思議そうに見回していた。あちこち見回す度にゆらゆらと揺れる様が、まだ少し頼りないけれど。
「立った……! 立ちましたよ、主任!」
「ええ……! ええ! 素晴らしいわ! 一ノ宮!」
奇跡の成就に、年甲斐もなく飛び跳ねて喜う僕ら。互いに互いの肩を抱きあい、おめでとう、ありがとう、を繰り返す。
このままキスの一つでもしてやりたい気分──いやいや、さすがにそれは調子に乗り過ぎか。しかしそんな浅ましい欲望を吹き飛ばす、真に喜ぶべき福音はこの後にこそあった。
それまで己の身体を揺すりながら、初めて体感する世界を楽しんでいたツクモの目が、僕と主任を捉えた。
いかにも興味津々、無垢すぎる天使の眼差し。こっちが微笑みたくなるくらい愛らしい──そう思っていたら、ツクモの方こそ微笑んで、満面の笑みで僕達をこう呼んだのだ。
「パパ……ママ……」
Jesus! これほどまでに胸打つ言葉が他にあるだろうか? ……否。断じて否。よもや自分がそう呼ばれる日が来るなんて、想像だにしていなかった。
主任もまた驚きの表情で固まっていた。目があった。互いの意志が絡み合う──『まるで夢のよう』。
機動の前、何が起きても決して泣くまいと誓った僕なのに、後から後から涙が零れて仕方がなかった。
例え血は繋がっていなくとも、ママと子作りしていなくても──その瞬間、僕達3人はたしかに親子になったのだ。
「ああツクモ……なんて賢い子なの!」
「そう、そうだよ。僕がパパだ! おいでツクモ! 抱きしめてあげよう!」
「パパー!」
感涙で視界が滲む僕に向かって、ツクモがいよいよ歩み出した。
「いいぞツクモ! パパはここだ! 頑張れ! アンヨが上手!」
励ます度、ツクモは心底嬉しそうに笑う。
そうしてまた一歩踏み出す。そびえる巨躯にはたおやかすぎる足を、交互に、巧みに動かしながら。
だが──なんという事だろう。何故気付かなかったのだろう。
確かにきちんと掃き清めたはずのラボの床に、キラリ光るものがあった。目を凝らす。画鋲だ。 なんで画鋲!? 何故こんな処に? 僕の疑念を嘲笑うかのように、ぎらり光る真鍮の荊棘。
主任は歓びに目が眩み、気づいていない。当然ツクモもだ。とめられるのは僕しかいない──我が子を守るため、叫ぶ。
「スタァーップツクモ! そこで止まるんだッ! 」
愛娘は賢かった。父の言葉をすぐ様理解し、必死で立ち止まろうとした。しかし悲しいかな、慣性という凶器はいたいけなツクモにも容赦がなかった。
こらえる暇もあらばこそ──胴体長1m85cm、全長2m75cmの黒鉄が、ゆっくりと傾ぐ。
或いはそれは一瞬だったのかもしれない。しかし僕にははっきりと見えていた。
画鋲を踏み抜いた一本の左足。それが、飛び上がらんばかりの苦痛に強張った。反面、一刻も早く両親にたどり着きたいと気が逸る我が子の表情。咬み合わない心と体。もつれ合う美脚達。
最後の表情は微笑んだまま──ラボいっぱいに響き渡る、破滅の音。
「ああっ!?」
「ツクモォォォーッ!!」
──ツクモは死んだ。何一つ物を売ることもなく。
◆◆◆
ツクモの弔いが終わった後、主任は唐突にラボを去る事になった。
「何故です、主任!? まだイノベーションは実現しちゃいない! こんなとこで僕らは終わっちゃいけない! そうでしょう!?」
「……上の意向よ。私の企画は、カネを食い過ぎる。それに、ね──……」
常に真っすぐモノを見据えていた主任の視線が、つうっと斜めにそれた。上を見ているのならばいい、よりにもよって彼女は俯いた。
らしくない。全くもってらしくない。僕は初めて彼女に憤りを覚えた。不遜で、高慢で、いつだって前か上ばかり向いていて。 そんな貴女だったからこそ、僕は恋焦がれ、ずっと背中を追い続けてきたというのに──。
ショックのあまり言葉を失う僕の目を覚ましたのは、さらなる衝撃であった。
ふと視線を送ったその先、きらり輝くもの。主任の左手に宿された約束の証。
「それは……?」
「ツクモの資金繰りに協力してくれた人がね、その──…とても良い人で……」
まるきり乙女の恥じらいをみせて、主任は自らのやわらかな腹をなで擦る。
嗚呼──そうか。既にイノベーションは起こっていたのだ。主任自身に。正しくは、彼女のお腹の中にこそ──。
イノベーションは、時として価値観を破壊する。
もはや僕と主任の価値観は、決定的にズレていた。
◆◆◆
主任の寿退職の後、僕が新たな主任としてラボを預かることになった。
意外なことに、寂しさはあまり感じない。むしろ頼れる存在がいなくなったことで、これまで思いもよらなかったようなアイデアが次から次に湧き出るようにさえなった。
既にいくつかのプランを発案し、軌道に乗せることに成功した。
これからも僕は上り詰めていくだろう。世界を塗り替える現代の魔術師として。
一人きりになってしまったラボの中で、僕は考える。
失敗、挫折、慢心、そして失恋──全ては僕自身の自立に必要なことだった。
アレがあったからこそ、こうして孤独の中でも幸福を感じることが出来る。それこそがツクモが生まれた意味。ツクモが僕に残してくれたイノベーション。
それでも時々、僕は思うのだ。
あの時、ツクモに靴を履かせていれば。
今とは違った未来があったのかもしれないと──。