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アイノカタチ

作者: みあ

愛には決まりきったカタチなんてきっとない。


なんの光も見えない、予備校と家を行ったり来たりする生活のただなかで、あたしは生きる意味なんか見い出せずにいた。食事を食べるのも億劫でパソコンの前でただ時間が過ぎるのを待っていた。

そんな矢先に彼に出会った。

無気力なあたしを心配した友人が、紹介してくれた人だった。

今まで関わったことの無いタイプの人間で、最初は話すのさえ怖かった。人との間に意識的にも無意識的にも壁を築く自分の癖が、彼が自分が今まで会ってきたどの人とも違う人間だということを教えてくれていた。

人生経験の少ないあたしにもなんとなくわかっていた。

彼にとってはあたしはただの暇つぶし。つなぎでしかない。もっとかわいいタイプの女の子が現れるまでのちょっとした遊び。彼よりも4つも年下で、高校を卒業したばかりの、世間知らずのガキ。身体の関係だけでも十分な存在だっただろう。

それでもあたしはいいと思った。たとえ身体だけでも必要とされていればかまわないと思った。自分も相手を好きにならなければいい話だと。


初めて彼の家に行ったのと初めてキスをしたのと、初めて肉体関係を持ったのはすべて同じ日だった。「好きだよ」なんていう彼の心ここにあらずなその場限りの愛の囁きが、そのときの自分の全てだった。

何もなかった生活の中に、突然現れた刺激に徐々にあたしは心奪われていった。この人に嫌われたくない、捨てられたくないという気持ちは、いつしか恋に発展していた。

好きになったら負け。誰が言ったのか知らないがそんな言葉があたしの脳裏をよぎった。

この言葉が本当ならあたしはここで負けたのだろう。彼との恋愛という名のゲームに。


彼はいつもあたしの知らない世界に住んでいた。

交友関係も広く、友人も多い分、女癖の悪さも相当なものだった。

彼がことあるごとに他の女の子の話をするたびに、あたしの心の中はぐちゃぐちゃだった。

愛情と嫌悪と自分への不甲斐なさ。いろいろな感情がぶつかりあっては泣き出していつも彼に不思議がられていた。

「なんで泣いてるの?」そう問う彼に、理解してほしいという憤りと心配そうな顔を見てまだ捨てられないんだという安心感を覚えて、また泣いてしまう。

彼と出会ってあたしはそれまでよりもずっと泣き虫になった。

言い出せない感情を全部涙にして押し出せば、あたしの心の中は彼への愛で満たされる。

そんなことでも思っていたんだろうか。


彼が風俗に行った話を聞いても、元カノの話を聞いても、女の子と飲んだ話を聞いても、あたしはいつも笑っていた。今にも泣き出しそうな気持ちを抑えながら電話口で精いっぱいの空元気を装っていた。常によかったね、お疲れ様って言ってあげられる子でいたかった。重いとかガキだとか思われたくなくて、頑張って背伸びをして。でも電話を切ったら抑えていた感情が涙と一緒にあふれてきて、泣き疲れて寝てしまうまで泣きじゃくり続けた。風俗に行ったのを初めて聞いたときは、自分の気持ちが整理できなくて、頭ではわかっていても心がその事実をなかなか受け止めようとしなかった。ひたすら嫌悪感と愛情の狭間で浮き沈みを繰り返して、受け入れたくない現実を涙で押し返していた。気持ち悪くて食事が喉を通らない日々が続いた。それでもあたしは笑っていた。嫌われたくない一心で。

そんなあたしの努力なんて知るはずもなく彼の女癖の悪さも、風俗通いも改善されることはなかった。あたしに見せる優しさをほかの女の子にも見せていると思うと、切なくて悲しくてどうしようもなかったけど、あたしにそれを制限する権利なんてないと思っていた。


ある夏の夜のことだった。

うだるような暑さもすこし納まり、秋の風が吹いていた。そんな中、彼は突然あたしに別れ話を切り出した。俺と一緒にいてもお前は幸せになれないから、別れよう。そんな言葉を聞いて納得できるわけもなくあたしはただ涙を流していた。俺と一緒にいたいの?という言葉に思わず頷くと、俺が浮気してても?と追い打ちをかけられた。どうすればいいかわからなくなってあたしはとりあえず落ち着こうと一人お風呂に入った。風呂からあがると、あなたはいつもどおり静かに寝息をたてていた。その寝顔を複雑な気持ちで眺めながら、夜風にあたろうとベッドから立ち上がると、彼の携帯電話が鳴っていた。着信を見ると女の子の名前。こんな時間になんだろうと思いながらも、とりあえず出るわけにもいかず携帯を見つめていた。鳴り終わると少しほっとして、傍を離れた。内心気にならないわけではなかったけど、携帯はできるだけ見たくなかった。きっとあたしの心が壊れてしまうくらいつらいことがたくさん入っているだろうから。


少し微睡んでいると、ふたたび電話が鳴った。先ほどの電話と同じ女の子からだった。1分近くコールが鳴ると、また携帯は静かになった。携帯を開いてみると不在着信が3件。どうやら入浴中にも1度着信があったらしい。あたしは相手のことが気になる気持ちが抑えられず、静かにメールフォルダを開いた。

「このあいだは誕生日一緒にお祝いしてくれてありがとう!忘れられない夜になったよ!」とまあこんな内容だっただろうか。笑いとともに涙が溢れた。あたしは何を信じていたんだろうか。長い夜の帳に包まれながら自分に呆れ返っていた。期待はしていなかった。僅かな希望さえも抱いていなかった。しかしなんだろうこの胸が締め付けられるような痛みは。あたしは恋をしないと、彼を愛さないと誓ったのではなかったか。


明くる朝、腫れぼったい目をこすり、となりを見ると彼はそこにいた。目が覚めたらいなくなっているのではないかという危惧から解放されるとすぐに、昨夜のショックが蘇ってきた。彼を揺り起こしてすべてを問いただしたかった。あの女の子は誰?誕生日の夜に何があったの?しかしあたしはそれをしなかった。真実を彼の口から聞くのが怖かった。全てを打ち明けられて、自分を否定されるのが怖かった。

彼は目を覚ますと、あたしの気持ちを尋ねた。あたしはただ一緒にいたいと告げた。一番目とか二番目とか関係なくただ傍にいたいと。そうしたら優しい声で彼は言った。「お前はほんと馬鹿だな。」わかっていた。自分が馬鹿なことくらい重々わかっていた。もっと楽しいもっと楽な恋愛がたくさんあるのに、あたしは自分から棘の道を選ぼうとしているのだから。彼はあたしを抱きしめると囁いた。「お前は俺のペットだから。俺の傍を離れるなよ。」今思えば彼はあたしが誰か違う人のもとに行ってしまうことを恐れていたのかもしれない。その時のあたしにはそんなことを考える間もなく、ただただ頷くことしかできなかったけれど。


その日を境にあたしは彼のためにできることをすべてやり始めた。メイクもファッションもできるかぎり彼の好みに近づけ、食べたいといわれた料理はすべて作った。そして一切その女の子の件には触れようとしなかった。聞きたくもなかったし、聞いてもどうなるものでもなかったから。

次第に彼は、あたしに心を許していった。献身的に馬鹿みたいに自分のために尽くす姿を見て心が動いたのだろうか。

「俺、お前に会えてほんとよかったよ。俺のこと変えたの、お前だからな?」

愛情の形なんて人それぞれで、傍から見れば馬鹿にしか見えないこともある。それでも自分の気持ちを貫けば、どんな人でも変わってくれるのかもしれない。好きになったら負けなんて言葉もあるけど、負けてしまったら相手も自分を好きにさせればドローじゃない?

稚拙な文章をお読みいただきありがとうございました。

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