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オーガと潜ろう4

お待たせしました。

 舐めるように火炎が舞う。熱と光に炙られて、悲鳴を上げながらゴブ・エイプたちが逃げ惑っていく。

 乱舞する火炎放射、魔法の中では初心者向けかつ使いやすい魔術「火炎放射撃(フレアガン)」。

 魔術によって生成された合成油を着火、高圧で吹き付ける魔術だ。威力はそこそこだが低い練度で扱える上、効果範囲が広いというありがたい代物である。


「あーはっはっははっ! 燃えちゃえ、みぃぃんな燃えちゃえ! あたしを怖がらせるゴブ・エイプなんて消し炭にしてやるっ! イィヒヒヒヒヒッ!」


 炎に顔を照らされながら、やたら高いテンションで喋りまくるメリル。あれ、このねぇちゃん戦闘中はこんななの?


「なんか、うかつに『ちょっとゴブ・エイプ追い払うの手伝って』なんて言うべきじゃなかったかな……」


 引き気味の表情で呟くダイム。また襲ってきた迷宮獣を追い払うの手伝わせたら、こうなってしまった。どうしてこうなった。


「迷宮獣なんてみんな燃やしてやる! 私が隠れてた時に不気味な吠え声でイジメてくる迷宮獣なんてみんな燃やしてやるぅぅうぅうッ!」


 あ、その吠え声はたぶんダイムだ。もうすでに迷宮獣が逃げたのに、メリルの火炎放射は止まらない。……おい、これじゃすぐ魔力尽きるぞ?


「と、とりあえずとめましょうよ先輩。このままじゃまずいですって」


 えー近寄りたくないなあ。


「しゃあねぇな。おーいメリル! もう止めろ!」


「死んじゃえ! 私をイジメるヤツはみぃぃんな死んじゃえええッ! アハハハハッ!」


 ……もうこいつと同行すんのやだなぁ。






「ほんとすいませんでした! もう私一人じゃどうなることかと……」


 ペコペコと頭を下げるメリル、動く度に赤毛が揺れる。ダイムになだめられてようやく落ち着きを取り戻したようだ。……虚ろな目で「ホントに? ホントに私をイジメるヤツはもういないの?」といいだした時は本当にその場に置いていきたくなったぞ。


「あ、ああ、まあほらこういう時は助け合いっていうしさ、そ、そうだよなダイム?」

「え? ま、まあそうですよね先輩。困った時は助け合わないと……」


 やっぱアレだよな。メリルの同行者ってこの前の二人組……めんどくさいことになったなぁ。


「でもあの二人はダイムさんもジムさんも見てないんですよね? 狂暴な迷宮獣に襲われてなければいいんですけど……」


「狂暴という意味では当たって……あ痛!」

 わき腹にこっそり肘を入れて牽制、黙れダイム。


「え、なにか二人のこと知ってるんですか? 途中で会ったとか」


「いやー悪いが全ッ然、心当たり無いわー。悪いねー」


 これ以上めんどくさくなってたまるかボケ。


「……先輩、やっぱり正直にいったほうがいいんじゃ……」


 ダイムがメリルに聞こえないよう小声で耳打ちしてくる。


「……たしかあと一時間ぐらいでアイツらが倒れている地点にコボルトのおっさんたちが見回りにくるから、怪我人回収されるのを待てばゴチャゴチャ面倒くさい説明しなくてすむだろ」


 腕時計で時刻を確認、行って戻ってくる頃には片付けられてんだろ。


 地図を確認、現在十九階。丁度手前に下行きの階段が見えてきた。とっとと荷物届けて帰りたい。


「しかしめんどくさいな。魔王城で管理している非常口(エレベーター)を使えりゃ一発なのに」


 魔王城から地下ダンジョンへは、通常の探索ルートの他に各階層をダイレクトにつなぐ非常口(エレベーター)がある。

 元々はアウトフロントの建造物を基本はそのまま使用しているわけで、現在の管理者の魔王国がそのアウトフロントの移動装置を管理している。

 最も使えるのは魔王軍所属の魔族だけ。一般の冒険者は余程の大金を積まないと使えない。

 デッドラインは店内の非常口のみ通勤目的で使用することを許可されている。

 超最下層の辺りだと、その非常口さえ繋がってないらしいが。


「魔王城の事務所からOK出なかったそうですからねぇ。やはり地道に歩いていくしかないみたいですよ」



 階段に足を踏み入れる。螺旋階段を回りながら、使えない物を期待しても仕方ないと自分に言い聞かせた。

「なんか不公平な気がするんですよねー。私たち冒険者のほとんどは必死に階段上り下りしてダンジョン探索してるのに、魔族はエスカレーターでひとっ飛びなんですよ」


 不満を口にしながらも、ローブの端を踏まぬよう慎重に降りるメリル。それでもバランスを崩しかける。なんか見てらんねぇなこのねぇちゃん。


「基本成功の成果は総取りの自由業の冒険者。給料制だが福利厚生のある魔王軍公務員の魔族。そういう違いなんだろ。あんまり冒険者を客扱いし過ぎてもダンジョン経営しにくいんじゃね」


 現在のダンジョンに資源採掘場所としての価値は並程度だ。レアな素材は手に入るが量が少なく、鉄の原料の鉄鉱石、アルミの原料のボーキサイトなど工業を支える採掘資源は他の鉱山から大量に取れる。

 冒険者や魔族の成績をポイント制にして酒場などで国営の賭け場であるトトカルチョ、「ダンジョンアンドデイ」通称D&Dを開催。なかなか大きな収益を上げている。

 このため上位の冒険者は街ではなかなかの人気者だ。


「そりゃそうですけど、それでも納得いかないっていうか…… はぁ、憧れの上位冒険者(ハイランカー)なってみたいなぁ」


 若いのだから夢を持つのは結構だが、まずはあの半狂乱で魔術を連射する癖を治したほうがいいと思う。いやマジで。


「それにしてまずいぶん長いなこの階段。普通より五、六倍はあるぞ」


 正直ダンジョンはそれほど深く潜った経験は無い。二十階に行くのも今回が初めてだ。


「あー、私も無いんですよ。今まで十五階あたりでウロウロしてたんで」


「僕は昔父さんに連れられて二十階までいった事あるんですけど」


 ダイムがしみじみと昔を振り返っていた。


「なんか二十階ってやたら天井高いんですよね。二十五メートルくらいあるんですよ」


「なんでそんな高いんだよ?」


「それがよくわからないんですよ。建造物の構造体が異常増殖してるもんですから、急に造りが小さかったり大きかったりするなんてよくあることですし」


 コツリコツリと足音が狭い空間に響く。下のほうに明かりが見えてきた、そろそろ階段も終わりらしい。




 到達した二十階はまたしても壁が乱立する場所だった。半ば迷路になりかけているが一応は階層の中心を目指して突き進む。


「しっかしどこに居やがるんだサイトーって?」


「冒険者か魔族のどっちかなはずなんですけど、さっきから全然誰とも会わないですね先輩」


「私早く終わらせて帰りたいです……」


 杖をプラプラと振りながら気怠げに呟くメリル。おい、こいつだんだん態度デカくなってきたぞ。


「そういえば思い出したんですけど……」


「なんだダイム?」


「迷宮獣がやたら気が立ってるって話ししたじゃないですか、それでその原因をたしか前に本で読んでたんですよ」


「今さらそんなん聞いてもなあ」


 壁を曲がると更にそびえる壁、壁、壁。気が滅入ってくる。ダイムは俺のぼやきを無視して話を続けた。


「大体は原因は一つなんですよ。下級迷宮獣にとっての脅威がその階層、または近くに現れた場合。下級迷宮獣はそのために逃避や警戒を強めているんです」


 オオオォォォォ……


 何か、呼吸音のような音が遠くから聞こえてくる気がする。


「……その脅威ってのは、例えばなにになるんだ?」


「そうですね、例えば……」


「あ、なんか大きい広場に出れましたよ! でもやっぱりだれもいない……あ」


 先行していたメリル、壁を曲がった途端に言葉が消えた。

 なにか嫌な予感がしつつも俺も壁を曲がる。

 急に開けた、高い天井の目立つ空間にそれはいた。


 朝焼けのような色の外皮は火山岩を常食することにより、重金属を含む強固な鎧と化す。

 その頭部は、鋭い三角錐のシルエットを持つ。突き出た乱杭の牙と後ろへ長く伸びる二対の角は、凶暴さと攻撃性を強く見る者に植え付けた。

 背中に生えるコウモリのような羽は、今は畳まれて慎ましく見えるが、広げれば体格の三、四倍の面積に匹敵するだろう。

 強靭かつ太ましい四肢には、鋭く長い爪が並ぶ。

 そして最も特筆すべきはその巨大さ。尾から頭までは三十メートルを超える。恐らく立てば二十メートル近くまでいくだろう。

 それは迷宮の王。理不尽なほどの力の代表者。あらゆる冒険者が恐れ、崇め、憧れる存在。


「……おい、例えば、なんだって?」


 メリルと同じように言葉が途切れたダイムへもう一度話かける。それでも彼の視線はそれに繋げられたまま動かない。代わりに、まるで熱病にうなされるように唇が動く。


「……体長をリッケンベル竜成長測定年齢換算方で当てはめると千年期(ミレニアム)級、竜種は恐らくレッドドラゴン……」

 ごくりと唾を呑み込んだ。


通称火神竜(スルト)と呼ばれるタイプ。年齢的にも超最下級にいるべき最上位迷宮獣です……」


 さー、給料に合わない仕事になってきたぞぉ。

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