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このやかましい、しかしろくでもない店内9《ラスト》

「おー、飛んでった飛んでった……なぁ、店員さん、あのねぇちゃんあのまんまでいいのか? なんか動かねーよ?」


「ほっといて下さい、気絶してるだけです。気がつきゃ勝手にどっかいきますよ」


 外を覗きこむ勇者を尻目に、床に落ちたある物を拾い上げる。柳葉状のナイフ、細い両刃の、東方独特の投げ用短剣。吹っ飛んだフェンが落としていった得物だ。


「あいつは拳技より暗器などの武器のほうが得意でしてね。どうせ体中に仕込んであるんでしょう、それが防具代わりになってるから、大してダメージにはなってないっスよ」


 それでもあえて拳できたって事は、アイツなりに加減したってことか。


「え、武術士って基本素手じゃないんだ?」


「武術士は流派によりますが、素手の戦闘から武器術、針灸などの治療術までひっくるめて一つの技術大系です。

俺が拳技のみなのは、そっちが得意だってだけですよ」


「え、あたしてっきり武器使えるほど器用じゃないからとか思ってたわ」


「私はてっきりそういう縛りプレイ好きの人達かと……」


 ……魔術士さん、魔王さん、あんた今まで俺をどういう目で見てたんだ?

 まあ武器を持って徘徊するのが常識の冒険者を、素手で圧倒するヤツは珍しいというのはわかるけどよ。……東方に行けば俺ぐらいの使い手はそれなりにいるんだけどなぁ。



「おーい、店員。ゴタゴタ終わったなら早く会計してくれ、腕疲れてかなわん」


「そーだそーだ早くやれ。……それから女関係のことは早めに片付けておかんと、後々ロクなことにならんよ? 俺の経験からいって」


 催促すんなオッサンズ、……あんた、昔女関係でなんかあったのか?

 と、その前に。


「ああ、はいはイ、只今会計いたしまス、お客さ……」


「店長、こっち」


 店長の肩を掴み、従業員口の方へ向ける。よろけながらこちらへ後ろを向ける店長。


「あン、……もう、ジム君たらこんな所で始めるんですカ? お客様が見てるの二……でもそれもいいかモ……」


「何を始めるんだよ! そんな格好で店先うろちょろしないで奥引っ込んで寝てろ!」


 あームカつくな、こいつ! もじもじするな!


「いやー、でもお客様待ってますシ……」


「やかましいからとっとと行け! 行かないなら無理やり連れていくぞ!」


 無理やり背中を押す。なんでもいい、とりあえずこいつをこの場から排除する!





「んー、『愛する店長を衆目の好奇の視線に晒したくない』とジム君が思ってくれたのは嬉しいんですガ」


「都合のいい寝言は寝てから言えよこのアマ!」


 店内からドア一枚隔てた休憩室。どうにか押してきた店長を今度は仮眠室に強制的に叩き込まねば安心して働けない。


「……ところでジム君、あのフェンさんという方とはどういうご関係デ?」


 声のトーンが変わる、今までのふざけた調子が消えた。おい、なんだよ急に?


「……別に、昔の同門ですよ」


「そのわりには結構昔色々あったみたいですけド?」


「……昔の話ですよ、今更それが何か?」


 腰に手を当て、身を乗り出す店長。仮面の目のガラス部分に、俺の顔が映る。何か妙に嗅いでくるが、いちいち語るつもりはない。


「人の恥話に興味がそそられるのはわかりますけどね、私事を話す気はありませんよ?」


「私としてモ、よほど深刻な時でなければ特に深く詮索するつもりはありませんヨ、恋人の過去の恋愛は気にしない主義ですのデ!」


「なんの話だ!」


「むしろあったらあったで、それはそれでいいかなト、私NTR属性ですかラ!」


「N……T……? なんすかそりゃ?」


 電話会社かなんかか?


「寝取られって意味ですネ! ジム君が他の女性にいいようにされているのも……それはそれデ……ハァハァ」


「なんだその性癖は!? もう黙れよお前!」


 だめだ、こいつと話してもロクな方向に進まん、ていうか息荒くすんな!

「まあ、正直ジム君が他の女性と仲良くしているのモ、見ている私としては色々……」


「……色々?」


 なにが、と聞きかけたあたりで、キツネ面がこちらに迫る。

 ――んな、

 とっさに、後ろへ引くも、不覚にも後ろがドアであることを失念。すぐにぶつかり動きが止まる。

 ――ちょ、

 気がついた時には、ひたりと唇が重ねられている。店長が近づいたことで、普段つけている柑橘系の薄い香水の香りと、女の甘ったるい匂いが鼻孔を埋め尽くす。

 ――おい、こら!

 引き離そうとする瞬間、ヌルリと唇を割って何かが侵入。

 それが舌だと認識するより早く、口内で動く。口の中で、艶めかしく他人の舌が這う。

 やがてそれが俺の舌に触れようとする間際、

 ――こ、の!


「――あン、」


 とっさに店長の肩を押して口を離すことに成功。……危なかった! 今のは本当に色々危なかった!

「――な、ななななにすんだよ、このアホ!!」


 口元を袖で拭う、くそ、この妖怪、相変わらず動きが読めねぇ!


「えー、ちょっとしただけですけどネー それに二度めなんですから今更恥ずかがられてモ」


「ちょっとどころじゃねぇだろ! それに一度めは不可抗力だ!」


「ほら、色々と疼くんですヨ、所有欲とか、ネ?」


「誰が所有物だ!」


 毎度のことながら、今回の店長は流石に度が過ぎている。いい加減この逆セクハラ紛いの行為を止めさせるために、本格的に動くべきだろうか。……魔王国の法律で逆セクハラって訴えられんのか?


「まー、おやすみのキスはいただきましたかラ、私は仮眠の続きをしますかネ。……よく働いてくれる部下もいますかラ」


「そのまま二度と目覚めんな!」


 店内へのドアへ手を伸ばす。とっとと今の経験を忘れたい。


「ああ、ジム君?」


「なんスか!」


「……唇二、私の口紅がついてますかラ、お客様に見つからないうちに落としておくことをオススメしまス」


「……うるさい!」



試験的次回予告


「ハァーイ、皆さんこんにちわ! 『店員&店長』の

『オラオラ! オラだよキン肉マンさん! サンシャインと試合をすることが決まっちまったんだ! 大至急オラの口座に百万友情パワー振り込んでくれ!』

という通称『オラオラ詐欺』を考えている方、店長でス!」


「謝れ! 根性で人間から超人になった男へ手をついて謝れ!」


「ジム君、ジェロニモのファンだったんですか!?

えー次回のダンジョンコンビニ デッドラインは『He talked as if he were the manager of Hansin Tigers(彼は阪神タイガースの監督のような口ぶりだった!)』でス! シーユーネクストタイム!」


「……つまり野村サチヨみたいな口調ってことですか?」


「そっちの方は監督ではありませン!」



※次回予告と次回内容に一切の関係はないって何度もいってるでしょう!

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