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このろくでもない、しかしやかましい店内3

『――滑らかな全身可動、凝縮されたギミック、今君の手に究極のダークヒーローが降臨する…… 1/10スケールモデル、MGフィギュア魂、仮面ライダーデュラハン、好評発売中!』


 テレビの画面では、オモチャ会社のCMが派手に放送されていた。やたら作り込まれたデュラハンのフィギュアがバシバシポーズを決めている。

……フィギュアまで発売されてんのかよ、デュラハン。


「じゃ俺は店出ますから、店長はとっとと寝てて……」


「ン」


 気のない返事、と思いきや様子が違う。手を前に組みながら、唇を前へ傾ける。口づけを乞う体勢。仮面でよくわからないがひょっとして目は閉じているのだろうか。


「……あの、店長?」


「だからおやすみの前に、ン」


 なんとなく、意図はわかった。


「……わかりました、恥ずかしいんで目は閉じておいてもらえますか」


 店長の形のいい輪郭に、そっと優しく左手を添えた。上気した肌の温かさが伝わる。

 耳元へ顔を近づけ、息づかいを聞いた。


「じゃ、いきますよ」


 そう囁くと俺は、伸ばした右手でちゃぶ台の上の調味料の一つ、タバスコ(レベル:無間地獄)のビンをつかみ、片手でふたを開け……た所で店長の左手に掴まれた。

 ギリギリとタバスコという愛の液体をせめぎ合いながら、それでもなお優しく言葉を交わす。


「……やだなぁ、恥ずかしいから目閉じててっていったじゃないですか、店長」


「お願イ! 止めテ! 私ソフト目に痛いのとか罵られるのは大丈夫なんですけド、辛いのだけはダメ! 本当にダメなノ! 助けテ!」


 だったら最初から大人しく寝てくれ。





「ふう、さてと……」


 店長を速やかに仮眠室へ叩きこみ、やっと店に出れた。いくら客の少ない深夜とて、あまり長い時間店員不在はまずい。

 店内を見渡す、今の所客はゼロ。ただいきなり客が押し寄せるのはよくあることなのでそのうち誰かくるだろう。


「……ん?」


 窓ガラスの外に注目。薄暗いダンジョン内の向こう側で複数の人影の動きが見える。更に発光、明らかに魔術使用の痕跡。


「戦闘か?」


 店の一番近い側では二つの岩塊……いや、巨体を誇る単眼巨人種(サイクロプス)の魔族と、先日のロリ好きな戦士――後で聞いたがアンバーというらしい――が鍔迫り合いを続行中。

 互いに得物は巨斧、ガリガリと異音を響かせながら、どちらがより偉大な剛力かを競っている。

 その向こうでは同じく巨体のオーガ種の戦士が立ち尽くす。直立不動の体勢の隣では、カップラーメンマニアの盗賊――たしか名前はロンバート――が両腕を交差した体勢のまま、脂汗を流していた。


――……ありゃ、鋼糸か?


 盗賊とオーガの間に、時折キラキラと光の線がきらめく。おそらく極細ワイヤーで動きを止めたはいいが、所詮は盗賊職の腕力、オーガの力を抑えこむので手一杯なのだろう。

 そして、さらにその奥側。震える空気を従え、美貌の魔人がそびえる。


「消、え、ろぉぉッ!」


 叫びと共に腕を振るう、細く長い右腕より解き放たれる超高位魔術。青輝なる炎、超高温の魔炎が壁のように展開、広い幅と高さを保持したまま、目標へ突き進む。


「こ、ん、ち、く、しょぉぉッッ!!」


 気合いと共に防御魔術を展開、魔炎の壁を必死に防ぐ赤外套の魔術師――この人はたしかイーリー――。展開されている魔術は防御陣魔術を二重張り、さらに高度冷却魔術もつけるという念の入れよう。 

 それはそれだけ魔術師イーリーの魔術の腕、さらにはそれと組む仲間の実力の高さ、そしてそこまでせねばならない魔人――というか魔王さんの解き放つ魔術の威力を表していた。

 コンビニではどれだけバカ騒ぎをしようと、彼らがトップランカーに限りなく近い冒険者であることには変わりはないのだ。


「……ここでぇぇ!」


 防御陣ごと引き裂き、光閃が突き抜ける。

 大剣を振りかぶりながら、一陣の風が疾走。

 必死に袋閉じの中身を探ろうとしていた青年、勇者――アルド、というらしい。いやべつに正直どうでもいいが――の体には光がまとわれる。魔術による身体能力の超強化だ。


「ふっ!」

 再び魔王さんの腕が振るわれる。迎撃のための火球、その数三発。

 しかし勇者には停止も回避もない。魔王さんへの最短コースを維持したまま、大剣を神速で薙ぐ。袈裟斬りで一発目、逆袈裟で二発目、打ち下ろしで三発目を瞬く間に切り払っていった。

 剣速には、大剣の重さなど微塵も感じさせない。

 魔王さんの顔に驚愕が浮かぶ。



――ありゃ魔王さん、詰んだな。


 本来、後衛役の魔王さんには壁役の前衛が必須だ。レベルの低い相手ならまだしも、アルド一行は新参ながらトップ近くの冒険者。イーリーとアルドで二体一に追い込まれた時点でかなりまずい。


「ちいっ!」


 急激な踏み込み、一瞬で距離を詰めるアルド。横薙ぎの一撃に、魔王さんの周囲の多重防御結界が高速発動。


 ギ ャ リ リ リ リ ッ !


 鋭い破壊音、同時に高速移動魔術により地面に磁場を形成、反発によりスケートのように滑る魔王さん。とっさに後方へ避けるが、幾重の防御陣の内、役四割がアルドの斬撃で破壊されていた。どうやらあの大剣、対魔術にかなり効果のある代物らしい。

 高速移動する魔王さんをさらにアルドが追撃、強化された脚力は、魔王さんの動きに易々と追いつく。


「……ッ!」


 だが、次の瞬間、アルドの動きがピタリと停止。魔王さんの向こう側、というかこちら側に視線が固定されている。


――……あれ?


 再び行動を開始、しかしその背は魔王さんへ、その眼は以前、こちら側へ。


――……あー、またか。


 なんとなくいやな予感。やはり勇者は一直線にこちら、デッドラインへ。


「お、ま、え、はぁぁぁっ!」


 魔王さんの怒鳴り声と共に、刹那の内に火球が五発出現。走る勇者の背中へ殺到。

 だが勇者はそれさえ一瞥もせず、剣を後ろへ構える。火球が着弾するタイミングで跳躍、空中でロウリング。

 群れなす火球を見ずに切り払っていく。さすがは腐ってても勇者職、剣技は超越しているな。いや、ほんと無駄なレベルに。


 戦場より失踪、いや疾走する勇者はそのまま店の入り口へ。その表情には深刻な、何かを必死に追い求めている感情が見える。


 ピコーン


「あ、いらっしゃぁせぇー」


 開く入り口。入店アラームと共に、両膝をつかせて滑りこむ勇者。やがて、レジ前で停止。

 床に両膝をつき、上半身と頭を天井に向かせた体勢のまま、息も絶え絶えに全てを捨てて駆けつけた男、勇者は問う。


「……ンプは、――ジャンプは、入荷していますよねッ! 読みにきましたッ!」


「前の週は合併号だったので、今週はありませんよ」


「……――ンンンンノオェォォォオッ!」


 悶える勇者。ノーじゃねぇよ、買えよ。


 ピコーン


「あ、いらっしゃぁ……」


 続けざまに鳴る入店アラーム。しかし挨拶よりも早く眼前に紫色の長髪が踊る。


「貴、様、というやつはぁぁぁっ!」


 長く、美しい肢体が流れる。だらりとだらしなく座る勇者へ、走ってきたスピードのままの魔王さんの閃光魔術師蹴り《シャイニングウィザード》が派手に炸裂。


「ウゴっ!?」


 呻く勇者。しかしここはコンビニデッドライン、攻撃力は皆無になるので互いにノーダメージのままゴロゴロと床を転がる二人。――頼むから大人しく客やってくんねえかな?


「なぜだ! なぜお前は大人しく真面目にやらん! アホか? 言葉がわからんアホなのかお前はっ!」


 勇者の胸ぐらをつかみ説教開始する魔王さん。いやそいつアホなの見りゃ一発でわかるじゃないスか?


「……俺は、俺たちは冒険者だ。いつ死ぬかわからぬから、悔いなく今を生きる人種なんだよ、冒険者ってのはさ。……たとえそれがジャンプの漫画でも、それを見ずに死ねないと思うなら、それをしないにはいられないのさ。どうしても、見たい漫画があるんだよ、俺には!」


 吠えるアルド。その眼には決意の光。


「な、なんだ? そこまでしてお前が見たいジャンプの漫画とは……?」


 勇者の決意に、揺らぐ魔王さん。……いや、魔王さん、そのアホのいうこといちいち間に受けないほうがいいっスよ?


「あいにく題名は忘れちまったが……たしか内容は、

『人気が落ちてくるとキャラクター沢山だして武道会始める』

といった感じのストーリーだ」


「……お前、それほとんどのジャンプ漫画に当てはまるだろうがっ!」


 いや魔王さん最近は意外とちょっと違うらしいですよ?



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