このろくでもない、しかしやかましい店内1
ヴ オ オ オ オ ――……
暗く、鈍い唸りが霧の街に響く。
それは、闇の街を疾走していた。
黒にきらめく金属の光、片手に持つは血濡れの包丁。
振り乱す髪は長く、そして細く、まるでそれ自体が別の生き物のように蠢いている。
シルエットは細身、顔には防寒用マスク、コートを羽織った女に見えるが、走る速度は常人を遥かに超えた速度と跳躍を見せる。
狭い路地裏の壁を蹴り、ゴミ箱を踏み潰し、ただただ前へ。
その異貌から想像出来ぬほど、それは怯えていた。
この都市の裏側の主たる彼女たちのような傲慢なる存在が、震え上がるほどのイレギュラー。それが今、迫っていた。
「――――どこへいくつもりだ、レディ?」
突如、横側から黒の疾風が抜ける。凶風が一閃。
「がッッ!」
超重量に跳ね飛ばされ、女が宙を舞う。アスファルトの地面にゴロゴロと転がった。
「――――人の面ぁ見るなり逃げることは無いだろ? ダンスパーティーはこれからなんだぜ、レディ、いや……」
地に伏せたまま、恐怖のままに女はそれを見上げた。
それは巨躯。
それは狭い路地裏を埋め尽くすほどの巨体。夜の闇に溶け込むほどの暗黒の軍馬が、その静寂に満ちた野生の眼差しを向けていた。
そしてその若い男の声は、馬上から響く。
「――殺人五件、傷害二件の犯人。通称マウス・トゥ・リッパー、……『口裂け女』さんよ」
女、マウス・トゥ・リッパーの顔にはすでにマスクはついていなかった。傷跡が開いたような、朱く避けた口角。牙を思わせる乱杭歯が覗く。
勢いよく人影が降馬、地に両の足を着けた。
月明かりがイレギュラーを照らす。
まず目に付いたのは輝くような純白のマフラー。まるでマントのように広がる長大なマフラーが、無風の路地裏に生命が宿ったようにたなびき、はためている。
全身は深紅のライダースーツ、膝や胸などの各部には装甲板が張り付いていた。輝かしいその色は、深夜の街にまるで夕日が佇んでいるように見えた。
そしてその顔は――――無い。
無貌、ではない。特徴が無い顔、でもない。顔が削れている、でさえない。
闇を切り裂く紅の魔人には、頭部その物がなかった。マフラーの上には虚無のみがあった。
「――――何者だッ、キサマァァッッ!!」
口裂け女が弾ける。地を蹴り、逆手持ちの包丁をきらめかせ魔人に迫った。
『セット、エクスキューションモード、スタートアップ、レディ』
魔人のベルト、そのバックルから無機質な声が響く。そのバックルは横倒しになったギロチン――断頭台に酷似していた。
「ああ……処刑の時間だ」
疾走する口裂け女めがけ、一歩、軽いステップで踏み込む。
前傾姿勢の女の飛び込む位置にピタリと予測が合う、その刹那。
魔人の体がコンパスのように精密に半回転。軸足接地面から超スピードのよる摩擦で煙が発生。
ゴ ッ
鈍い音と共に、神速の左回し蹴りが女の頭にえぐり込む。眼球の破裂と骨格の破壊される感触が足に伝わっていく。
それは必殺を知らせる奪命の感覚。
『イグニッション!』
なり響くベルトの声。死刑の宣告。ギロチンが右から左へスラッシュ。同時に左脚が閃光を放つ。
吹き荒れる轟音と切り裂く光。僅かな沈黙の後、口裂け女の体が糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
その頭部は、魔人と同じように消え失せていた。
「俺が誰か、か」
すでに誰もいない都市の裏で魔人が呟く。
「――お前らと同じ都市伝説さ。都市伝説を狩る都市伝説という矛盾存在、首無しライダー……いや」
男は上を向いた――――ような動作をした。頭が無いので端から見るとあまりよくわからない。
輝く街からは、星は見えない。街が明る過ぎて、星の光が見えなくなる。
だが、男は不可視の眼球で空の果てを見ていた。
「俺は、仮面ライダー――――デュラハン」
闇を駆け抜ける、仮面の男の闘いが今、始まる。
◇◇◇
「――この番組は魔王国の明日を作る国家機関、魔王城ダンジョン事務所の提供でお送り……」
ぽとり、と手からはしが落下、畳を転々と滑る。狭い休憩室をそこそこ占領するちゃぶ台には、テレビのあまりの内容に思わず食うのを忘れたまかないのコンビニ弁当が置かれている。
「……えぇぇと」
深夜の休憩にうっかりテレビをつけたらなんかすげー番組がやっていた。凄すぎて番組が終わるまで声が出なかった。
だからとりあえず、番組が終わった今のうちに。
「――――仮面してねぇぇぇっ!! ていうか頭自体ないっ!!」
Q、なぜくだらない一発ネタをやたら無駄に力入れて書いてんの? バカなの? 死ぬの?
A、仮面ライダーを出来るだけ、力が尽き果てるまでカッコよく書くのは男の義務だってばっちゃが言ってた。