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勇者と聖女は別れた

作者: 小雨川蛙
掲載日:2026/10/04

 

 魔王退治が終わる前。

 勇者と聖女の仲睦まじさは有名であった。


「魔王を倒すことが出来たならその時は結婚をするつもりだ」

「だから皆様は盛大に祝ってください」


 何分魔王に支配された恐ろしい時代。

 来るかもわからない明るい未来。

 それでも、民達は二人の結婚の祝福を約束した。


「未来を夢想すること。それこそが希望です」


 聖女の笑顔に人々もまた希望を見出したのだ。


 ――そして、魔王は倒された。

 しかし、戻ってきた二人は信じられないほど互いに関心をなくしていた。


「結婚? するわけないだろ」

「ええ。私たちはあくまでビジネスパートナー。戦いが終われば付き合うことはないです」


 困惑する民にそう言うと二人はそれぞれの人生を歩き出した。

 二度と交わることのない人生を。



 *



 誰にも語られない魔王戦。

 魔王の圧倒的な力に敗北を確信した時、勇者と聖女は共に最後の手段として残していた切り札を用いた。


「……愛しております。勇者様」

「俺もだ。使ってくれ」


 聖女は頷くと魔王に一つの魔法をかけた。

 直後、圧倒的だった魔王の動きが一瞬鈍る。

 そして、その隙は勇者が使命を果たすのには十分すぎるほどの時間だった。


 聖女の使った最後の魔法。

 それは自分自身と他者の好意を入れ替える魔法。


 以来、聖女は勇者を殺すべき相手として憎み続けている。

 聖女故に勇者を殺すことはなかったが。


 ――憎まれている相手に二度と近づかなかった勇者の行動。

 それが果たして正しいものであったのか否か。

 それは誰にもわからない。

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