勇者と聖女は別れた
魔王退治が終わる前。
勇者と聖女の仲睦まじさは有名であった。
「魔王を倒すことが出来たならその時は結婚をするつもりだ」
「だから皆様は盛大に祝ってください」
何分魔王に支配された恐ろしい時代。
来るかもわからない明るい未来。
それでも、民達は二人の結婚の祝福を約束した。
「未来を夢想すること。それこそが希望です」
聖女の笑顔に人々もまた希望を見出したのだ。
――そして、魔王は倒された。
しかし、戻ってきた二人は信じられないほど互いに関心をなくしていた。
「結婚? するわけないだろ」
「ええ。私たちはあくまでビジネスパートナー。戦いが終われば付き合うことはないです」
困惑する民にそう言うと二人はそれぞれの人生を歩き出した。
二度と交わることのない人生を。
*
誰にも語られない魔王戦。
魔王の圧倒的な力に敗北を確信した時、勇者と聖女は共に最後の手段として残していた切り札を用いた。
「……愛しております。勇者様」
「俺もだ。使ってくれ」
聖女は頷くと魔王に一つの魔法をかけた。
直後、圧倒的だった魔王の動きが一瞬鈍る。
そして、その隙は勇者が使命を果たすのには十分すぎるほどの時間だった。
聖女の使った最後の魔法。
それは自分自身と他者の好意を入れ替える魔法。
以来、聖女は勇者を殺すべき相手として憎み続けている。
聖女故に勇者を殺すことはなかったが。
――憎まれている相手に二度と近づかなかった勇者の行動。
それが果たして正しいものであったのか否か。
それは誰にもわからない。




