転生したら無職で追放されたけど、実はチートだったので、とりあえず、魔王というやつをこの目で確めて来ます
短編【過去編 】転生したら無職で追放されたけど、実はチートだったので、とりあえず、魔王というやつをこの目で確めて来ます
【ヨグ=ソートス封印戦:数千年前の終焉】
巨大なヨグ=ソートスは、クリスタルから放たれる『秩序』の光を嘲笑うかのように、周囲のゲートから人形サイズの分身を次々と出現させた。その数は瞬く間に数百に膨れ上がる。
「増えていますね、先手必勝です。これ以上増えないうちに叩きますよ!」
アステリオが叫ぶ。彼は神から授かった細身の魔剣を構えた。その特徴は「神速」。瞬き一つの間に数百の刺突を繰り出す、未来視の剣士だ。
リーダーを務めるのは、古き
日本の装束を纏った少女、賀茂葛葉。女人禁制の陰陽道の家系において、跡継ぎとして「男」で居続けることを強られた彼女は、誰よりも鋭い眼差しで戦場を射抜く。
「雑魚が何匹増えようと、雑魚でしかない。……案ずるな、私がすべて焼き払ってやる」
数千年前の終焉。空の裂け目から、異次元の軍勢「人形」が濁流のように溢れ出した。
「迎撃開始! 塵も残さず焼き払え!」
魔導師ゼノスが賢者の杖を突き出す。瞬時に展開されたのは、現代の魔導師数千人がかりでも不可能な極大魔法――『古代魔法:劫火の咆哮』。
太陽の表面のごとき熱線が戦場をなめ尽くし、すべてを蒸発させる……はずだった。
「……なっ!? 魔法が……吸い込まれた!?」
ゼノスが愕然とする。放たれた極大魔法は、ヨグの皮膚に触れた瞬間に黒い渦に飲み込まれ、霧散した。傷一つついていない。
神の領域に、小手先の術(魔力)は届かない。
「なら、こいつの出番アル! 魔法ごと殴り飛ばすネ!」
格闘家リオが、重低音を響かせる巨大なガントレットを構えた。
「神造兵装、出力全開! 『ドラゴニック・パルス』!!」
ドゴォォォォン!!
放たれた一撃は、ヨグの次元防壁を物理的に「粉砕」した。神の武具だけが、この理不尽な防御を貫ける唯一の鍵なのだ。
「……視えた。神の肉体、その隙間!」
アステリオが光の尾を引いて突進する。神速の剣。未来視によって「敵が防げない未来」をあらかじめ斬り裂くその刃は、実体を持たないはずのヨグの触手を次々と寸断していく。
その最前線で、鋼鉄の巨躯が火花を散らす。フェリクスだ。
「全重力兵装、解放。ボクの装甲を盾ニ、突撃シテ下サイ!」
彼のガトリングが空間そのものを削り取り、強引に道を切り拓く。
そして、戦場を統べる賀茂葛葉が扇を翻した。
「不吉な影め……。我らが偽像に惑い、果てよ!」
彼女が撒いた紙形が、炎のマジックのように爆ぜる。次の瞬間、戦場には数十人のアステリオとリオが出現した。
「残念だったな、そっちは人形だ。本物は、お前の頭上だぞ?」
惑う敵の頭上から、葛葉が印を組んで急降下する。
「急急如律令――『五行圧殺』!!」
彼女が虚空を押し下げると、数トンの重圧がヨグを直撃した。
巨大なヨグの肉体が、まるで蛙がペチャンコに潰されるかのように、グシャリと大地に平たく叩きつけられた。
――凄まじい反撃。神造兵装の力。
勝機が見えたかと思ったその時、ヨグの肉体がヘドロのように波打ち、潰された一点から、さらに数千、数万の「人形」がボコボコと湧き出してきた。
ゲートが広がる。空が、敵の姿で真っ黒に塗りつぶされていく。
「……っ。キリがない……! いくら斬っても、一秒後には倍になってやがる!」
アステリオが、肩で息をしながら魔剣を握り直す。
「ちょっと、数が多すぎるって!」
彼の絶叫が、戦場に響いた。
神の武具をもってしても、この無限の増殖には追いつかない。
「……嘘……でしょ……」
葛葉の強気な仮面が、一瞬だけ剥がれ落ちた。震える手で扇を握りしめる。
葛葉は冷静に分析する。だが、敵の数は減るどころか、ゲートから無限に湧き出してくる。
「ガガッ……防衛線、限界デス。これ以上は、ボクの装甲が持ちまセン!」
フェリクスが警告を発する。彼は古代技術の粋を集めた自律型ロボットだ。腕部をガトリングやブレードに変形させ、人形ヨグを文字通りシュレッダーのように切り刻んでいたが、その鋼鉄の体には無数の亀裂が入っていた。
「葛葉、……視えた。ダメだ、このままだとあと十分で……俺たちは全員、この時空の塵になる」
アステリオが神速の剣を振りながら、絶望的な未来を告げた。
「嘘……でしょ……」
葛葉の強気な仮面が、一瞬だけ剥がれ落ちた。震える手で扇を握りしめる。
女であるにも関わらず、陰陽道を子供の頃学んでいたお陰で、なんとか、ここにたっている彼女が、ここで奴を討ち果たせなければ、自分の存在価値すら消えてしまう。
「私は……私は、負けるわけには……っ」
しかし、目の前でフェリクスの回路が火花を散らし、リオのガントレットの光が弱まっていく。
「……っ。皆……すまない。私の力不足だ……」
葛葉の唇から、弱々しい、震える女の子の声が漏れた。
自分が「男」として、完璧なリーダーとして振る舞えれば、こんなことにはならなかったのではないか。自分の存在価値が、崩れ落ちていく。
しかし、目の前でリオが叫んだ。
「泣き言はあとアル! 葛葉、お前が諦めたら、誰が俺たちを導くネ!」
その言葉に、葛葉の瞳に再び火が灯る。震える手で、しかし力強く扇を握り直した。
「……あれしかない。私にできるか、いや、やるしかないんだ。皆さん。これより、全霊をもって奴を『封印』する! 命を繋ぐぞ……、生きて、この門を閉じるんだ!」
「……感謝する。皆、私の札の位置に走れ! 一番遠くは最速のアステリオ! 次はリオ、と私だ! 手前は守りの要、フェリクスとゼノス!」
葛葉は五芒星の結界位置に、己の命を削った楔を打ち込む。
アステリオは光の筋となって最果ての点へ。リオはガントレットから魔力を噴射し加速。フェリクスは全出力を推進力に変え、ゼノスが賢者の杖で空間を固定する。
全員が点に到達した瞬間、大地に巨大な五芒星が浮かび上がった。
「今だ! 神々の武器を掲げろ!」
五人の神造兵装が共鳴し、強烈な光の鎖がヨグ=ソートスを縛り上げた。
「ぐ、ぐぅぅぅぅっ!! 動けぬ。何をした。我は我なり、何をしようとも無駄なのだ」
葛葉は全霊を込め、涙を拭って扇を振り下ろす。本来なら六つ目の点が必要な儀式。だが今は、自分たちの魂を楔にするしかなかった。
「急急如律令……! 門よ、深淵に眠れ……ッ!!」
凄まじい光と共に、ヨグ=ソートスは異次元の奥底へと引きずり込まれていった。
◇◇◇◇
嵐が去った後の静寂。葛葉は膝をつき、男のふりをすることも忘れ、肩を震わせていた。
「……封印したところで、いつか夢は覚める。アザートスも、ヨグも……」
彼女は最果ての地を見つめ、静かに呟いた。
「この国の最果てに知識の森を、そして私の技を継ぐ場所を作らねば。次に目覚めるとき……誰かがその『鍵』を握っていることを信じて」




