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私は、私の物語を選ぶ

投稿画面を開いたまま、

私はしばらく指を動かせずにいた。


タイトル。

あらすじ。

ジャンル。


全部、埋められるのに、

最後の「投稿する」だけが押せない。


(誰にも読まれなかったら?)

(下手だと思われたら?)

(そもそも、これって物語?)


心臓の音が、

やけに大きく聞こえる。


今まで私は、

評価される前に退くことで、

自分を守ってきた。


「まだ準備中」

「もう少し考えてから」

「今じゃない」


そうやって、

可能性ごと棚に上げてきた。


でも、

ここまで書いてきて、

一つだけ分かったことがある。


私はもう、書いてしまった。


迷いも、

不安も、

自己嫌悪も。


全部、物語の中に置いてきた。


「うまく書けてなくても、

それは“今のあなた”です」


その言葉が、

静かに背中を押す。


完璧な一話なんて、

最初から存在しない。


あるのは、

未完成なまま出ていく勇気だけ。


私は深呼吸して、

画面をもう一度見つめる。


タイトル欄には、

こう書いてあった。


――私はまだ、何者でもない


その言葉を、

少し前の私は

弱さだと思っていた。


でも今は違う。


これは、

「これから決める」という宣言だ。


あらすじの最後に、

私は一文を足した。


――これは、

自分を見失い続けた一人の女性が、

言葉を武器に

自分の人生を選び直す物語。


投稿ボタンの上で、

指が止まる。


ほんの一瞬、

怖くなる。


でも同時に、

胸の奥が静かだった。


不思議なくらい、

逃げたい気持ちがない。


「読まれなくてもいい」

「評価されなくてもいい」


それでも、

私はここに在ると

言葉で残した。


カチリ。


軽い音と一緒に、

画面が切り替わる。


投稿完了。


世界は、何も変わらない。

誰かから通知が来るわけでもない。


それでも私は、

確かに一つの選択をした。


書かない自分ではなく、

書く自分を選んだ。


「何者かになりたい」

そう思っていたけれど、

本当は違った。


私は、

自分であろうとしたかっただけだ。


ベッドに倒れ込み、

天井を見る。


不安は、まだある。

自信も、正直ない。


でも、

言葉だけは手放さない。


だってこれは、

私が私でいるための方法だから。


スマホを置く前に、

私は心の中で小さく言った。


「……続きは、また書けばいい」


物語は終わった。

でも、

私の物語は⋯


――完

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