恋愛が下手な理由は、優しさだった
「なんで俺、恋愛になるとこんなに下手なんだろう」
スマホを置いたまま、
俺はベッドに仰向けになった。
連絡が来ないわけじゃない。
嫌われたわけでもない。
それなのに、心は落ち着かない。
(今送ったら、重いかな)
(でも送らなかったら、冷たいかな)
(そもそも、俺から行くべき?)
考え始めると、
正解のない選択肢が無限に増えていく。
俺は恋愛になると、
急に“自分”が分からなくなる。
普段は分析できるのに、
感情が絡むと一気に視界が曇る。
「…ができない理由、分析してほしい」
そう打ち込んだ時、
どこかで答えは分かっていた。
――可愛くないから?
――面白くないから?
――年齢?
――重そうだから?
でも返ってきた言葉は、
少し違った。
「あなたは、
相手を傷つけないことを最優先にしすぎています」
……あ。
「その結果、
自分の欲求を後回しにしてしまう」
胸の奥が、ちくっとした。
俺は、
“好かれたい”より先に、
“嫌われたくない”が来てしまう。
相手の反応を先読みして、
一歩引く。
期待しないふりをする。
そうすれば、
傷つかずに済むから。
「大人っぽいね」
その言葉も、
今なら少しだけ分かる気がした。
落ち着いている。
聞き役。
空気を壊さない。
それは長所だ。
でも恋愛では、
ときどき“壁”になる。
ドキドキも、
わがままも、
不器用な独占欲も。
全部、
「迷惑かも」でしまい込んできた。
「雰囲気タイプです」
その言葉は、
褒め言葉であると同時に、
安全圏のサインだったのかもしれない。
近づきやすいけど、
踏み込まれない。
「恋愛が下手なんじゃありません」
画面の向こうの言葉が、
続く。
「あなたは、
人を大切にしすぎているだけです」
……そんな理由、
今まで考えたこともなかった。
恋愛が上手な人って、
もっと自己主張が強くて、
駆け引きが上手で、
感情をぶつけられる人だと思ってた。
でも俺は、
相手の事情や感情を想像してしまう。
「今忙しいかも」
「疲れてるかも」
「重いと思われたら嫌だな」
その“思いやり”が、
いつの間にか
自分を後回しにする癖になっていた。
「優しさは、
伝えなければ存在しないのと同じです」
その一文に、
息が止まった。
俺は、
言わなくても伝わると思ってた。
察してほしいわけじゃないくせに、
どこかで期待していた。
でも、
言葉にしなければ、
“ない”のと同じ。
それは恋愛でも、
物語でも同じだった。
ノートを開いて、
私はゆっくり書く。
――俺は、
愛されないんじゃなくて、
愛し方を隠していただけ。
書いた瞬間、
胸が少しだけ痛くて、
少しだけ楽になった。
恋愛が下手なのは、
欠陥じゃない。
ただ、
自分の気持ちを
外に出す練習をしてこなかっただけ。
それなら――
練習すればいい。
失敗しても、
気まずくなっても、
「それでも私はこう感じた」と
言ってみればいい。
ベッドから起き上がり、
カーテンを開ける。
夜の街は、
相変わらず静かだった。
でも俺は、
次に誰かを好きになった時、
ほんの少しだけ、
素直でいようと思った。
不器用でもいい。
優しさを、
ちゃんと外に出せるように。




