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前章その1 混血エルフのアフネス

「…えーん、えーん…パパごめんなさい…えっ、えっ…」


「泣くのはおよし、アフネス。」


「でも…ワタシ、パパの魔法を使えなくしちゃった…えっ、えーん…」


「いいんだよ、アフネス…」


「こんなの…こんなの、ワタシいらない!」


「…アフネス、お前のその魔法が、いつか多くの人の役に立つ時が必ずやってくるよ…」




「……アフネス…アフネス!コラッ、アフネス!!」


「…ん?」


と、「アフネス」との呼び声に気付いた

   黒い全身を覆うマント様の衣装を着て

   黒いフード付ベールを被り

   口元をスカーフで巻いている

人物が突っ伏していた机から顔を上げ、呼び声の主を見上げた。

 呼び声の主は

   黒を基調としたシックな服装だが、胸元

  が、はち切れんばかりに膨らんでいて

   黒いウシャンカ帽を耳が隠れるくらいに

  深く被った

黒い瞳の長身、褐色肌の若い見た目の女性だった。


「何じゃ、リーセロットか…」


 スカーフに隠れた口元から、(しわが)れた老女のような返事が出てきた。


「何じゃ、じゃないわアフネス!あなた、また仕事中なのに居眠りして!!」


「おや…他の研究員らは何処へ行ったのじゃ?」


「人払いをお願いしたわ。今はあなたと私の二人きりよ。」


 アフネスとリーセロットがいる、この部屋は、この世界に五つある大陸の内、最大であるヘルダラ大陸の、およそ半分の広大な地域を版図とする大帝国である、ラウムテ帝国の皇宮内に所在する〈魔導講究處(まどうこうきゅうしょ)〉研究室の一つである。

 皇宮内にある数多(あまた)の建物の中に七つある塔の内、最も高い塔の最上部で、ここには處長(しょちょう)のアフネスと、選ばれた特別な研究員達が日々研究を行なっている。


「じゃあ、この暑いの、とっちゃおーっと。」


 と、今までとは違った若々しい女性の声をアフネスは発した。

 アフネスは、頭から被っていたフード付きベールを取り外し、口元に巻いていたスカーフも取り外した。

 若い見た目の女性の顔が表に現れた。

 黒い瞳孔の金色の瞳が、光を反射してキラリと光る。

 先の尖った長い耳、この世界において〈エルフ〉と呼ばれる種族の特徴を表す耳だ。

 そして、その顔の両側の尖った耳以外にも、黒髪ボブヘアーの髪の頭頂部にも左右対称の、まるで獣のような耳も付いている。

 

「居眠りは、ワタシの中に半分流れている猫人(びょうじん)族の血のせいだから仕方ないって感じー。

 一日15時間寝ないとスッキリしない、みたいなー。」


「15…!?」


「リーセロットちんも帽子とったらー?暑いのに、よくそんなん被ってられるねー。」


 そう話したアフネスの上口唇両端から、牙のような尖った歯が覗いた。


「確かに、夏に被るもんじゃないわね、コレ。」


 リーセロットが、頭に深く被っていたウシャンカ帽を取り外した。

 帽子の中に納めていた長い黒髪が垂れ、そして、先の尖った長い耳、エルフの特徴を表す耳が表に現れた。


 「それで用件は何なん?」


 アフネスがリーセロットに尋ねた。


「明日、皇宮に来られる高位(ハイヤー)エルフ様に、アフネス、あなたも会って貰おうと思うのよ。

 だから、その心積(こころづ)もりで。具体的な時間は、また後で連絡するわ。」


「…えっ、そんだけ?そんだけの用のためにワタシの安眠を妨げたっちゅーの!?」


「そんだけ、じゃないわよ!だから仕事中に居眠りしないように!!

 …後でまた来るから、ちゃんと仕事してなさいよ!」


 リーセロットはそう言い残すと、長い黒髪を頭上に(まと)め上げ、ウシャンカ帽を深く被り直して部屋から出ていった。


「ふー、やれやれ。」


 アフネスもまた、先程被っていたフード付きベールを被り直し、口元にスカーフを巻き直した。


 (せっかく久し振りにパパの夢を見てたのに!

 …パパ…そしてママ…

 あれから何年経つの?220…?いや、230年…?)


             前章その1 終 

拙作

「エルフデカ~定年目前のオッサン刑事が殉職したら、エルフ美少女に生まれ変わってた話~」

の登場人物

   混血(ハーフ)エルフの『アフネス』

を主人公としたスピンオフ短編です。

 話の入りは、エルフデカの第48話部分の前日、翌日にハイヤーエルフのマイカを迎えるに当たって…というところから、アフネスの回想に入ります。

 アフネスの波乱に満ちた数奇な人生の始まりを描いた作品です。

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