浦島太郎Ⅱ(もうひとつの昔話56)
竜宮城に行った浦島太郎は、そこで乙姫の手厚いもてなしを受けました。
朝に夕にと、ごちそうにお酒、タイやヒラメの舞い踊り。そこはまるで夢の世界にいるようでした。
ですが月日がたつにつれ、太郎は村にいる年老いた母親のことが心配になってきました。
そんなある日。
太郎は乙姫に申し出ました。
「村に帰りたいのだが」
「残念ですわ。太郎さん、ずっとここにいてくれると思っていましたのに」
乙姫が悲しそうな目をします。
「村に残したオフクロのことが気になってな。たいそうごちそうになって申しわけないのだが」
「とんでもありませんわ。太郎さんが来てくれて、私も楽しい時間を過ごせましたもの」
乙姫はポロポロと涙をこぼしました。
竜宮城を発つ日。
「太郎さん、別れがとてもつろうございます。私も一緒に連れていっていただけないでしょうか?」
乙姫が太郎の手を取って言いました。
太郎はもうびっくりです。
「まことか?」
「はい、ずっと太郎さんのそばにいたいのです」
「それでは……」
「嫁にしていただきたいのです」
独り身の太郎、この乙姫が女房ならなんの不満もありません。
「もちろんだ」
「うれしゅうございます。では地上に旅立つ準備をしますので」
まもなくして……。
乙姫は美しい箱を手にもどってきました。それから錦の紐をといてふたを開けました。
「この玉手箱は海と地上をつなぐものです。私はこの中に入りますので、太郎さんは地上に持って帰ってください」
「こんな小さな箱に入れるとはのう」
太郎はおどろくことばかりです。
「私は小指ほどに小さくなれるのです」
「それで元に戻れるのか?」
「箱を出れば今の私にもどれます。それで地上に着いたら、太郎さんがふたを開けてほしいのです」
「ああ、すぐに開けてやる」
「そのとき白い煙が出ますが、その煙には決して近づかないないように。煙に包まれると、年をとってお爺さんになってしまいます」
「ああ、しっかり気をつけよう。乙姫と一緒になるのに、爺さんになりたくはないからな」
「では、私はこれから箱に入ります」
乙姫がそう言ったとき、乙姫の体はもう小指ほどに小さくなっていました。
太郎は乙姫の入った箱を小脇に抱え、亀の背中に乗って竜宮城を出発しました。
太郎は砂浜に着くと、すぐさま玉手箱のふたを開けました。
乙姫の話していたとおり、箱の中から白い煙がもくもくと出てきました。
浦島太郎は急いで煙から離れました。
「太郎さん!」
乙姫の声がします。
白い煙の中で、乙姫の影が少しずつ大きくなっているのがわかりました。
煙が消えると……。
そこにはお婆さんの乙姫が立っていたのでした。