名を捨て
隈本城。
加藤清正「肥後を秀頼様にお返しする!?」
前田玄以「左様。」
加藤清正「召し上げと言う事でありますか?」
前田玄以「そうでは無い。清正殿の管轄全てを秀頼様の蔵入地とし、その管理を清正殿に委ねる所存である。」
加藤清正「代官と言う事になりますか?」
前田玄以「左様。ただし領内運営に関わる全ての決定権は清正殿にある。今と変わりは無い。変わる事があるとすれば……。」
25万石の大名では無くなる。
前田玄以「と言う事かな?」
加藤清正「……。」
前田玄以「不満か?」
加藤清正「……私の管轄地が秀頼様御自身の物となれば、他家が介入する事は許されない。もしそのような事をすれば……。」
豊臣秀頼に喧嘩売った事になる。
加藤清正「全国の大名小名は秀頼様の御墨付が無ければ生きて行く事は出来ない。……名を捨て実を取る……。」
前田玄以「清正殿は今後、秀頼様直属部隊の長になっていただく予定。そして肥後の領民は皆。」
豊臣秀頼の直臣。
前田玄以「として扱われる事になります。」
加藤清正「運営については?」
前田玄以「先程述べた通り、清正殿に委ねられます。」
加藤清正「もし私が居ない時、隈本に有事が発生した時は?」
前田玄以「秀頼様に弓引く逆賊を討つべく、全国の大名小名が動く事になります。」
加藤清正「……私の考えが、秀頼様のお考えになってしまう恐れもありますが……。」
前田玄以「そのお気持ちが清正殿にあるから、三成も提案する事が出来たのでありましょう。」
加藤清正「同じ事を福島には?」
前田玄以「彼は先のいくさで自家を優先した実績があります。その事は福島本人も自覚しています。大坂に増田が居ますが、彼がやった事は私も見ています。優先するのは自分であります。これは私も同様。」
加藤清正「三成は?」
前田玄以「先のいくさの前。大谷に
『お前は表舞台に立つな!』
と釘を刺されています。大谷は三成の行く末を案じ、三成の肩を持った。彼も秀頼様のために働くとは思います。思いますが如何せん……。」
体調が思わしくない。
加藤清正「消去法で俺が残った。と言う事か?」
前田玄以「いえ、そうではありません。秀頼様に対する清正殿の思いは皆が知っています。その証拠に……。」
家康に会津行きを断れたでしょう。
前田玄以「会津の手前。下野小山で話し合いが持たれたそうな。そこで福島が
『悪いのは秀頼様では無く、三成だ!』
と言った事が、先のいくさに繋がる決定打となったとか。もしあの場面に其方が居たら……。」
加藤清正「……そこまで買っていただけるのでありましたら、お受けします。」




