運命の番(同性)と婚約者がバチバチにやりあっています
「フレージア様は私と結婚するのー!」
「うるさいうるさい、我が婚約者は絶対に渡さないからなー!」
目の前でバチバチにやりあっているのは、この獣人の国の聖女たるガルデーニア様と王太子であるジーリオ様。
この二人の喧嘩は私が原因だ。
だからどの口が言うという話ではあるが…。
「ガルデーニア様、ジーリオ様…どうか落ち着いてください…」
「フレージア…しかしだな」
「フレージア様、私は絶対に諦めませんからね!」
二人は、どちらが私と結婚するかを巡って争っている。
この混乱を極めた状況を順を追って説明するとなると、まずは運命の番というものを説明せねばならない。
私たちは獣人で、ここは獣人の国。
獣人には運命の番というものがある。
人族にも、遺伝子的に相性がいい相手というのはいるらしい。耳の裏からいい匂いがするように感じる、とかなんとか人族の友達がまことしやかに話していた。
多分、それの強化版みたいなもの。とびきり相性が良くて、だから匂いだけで直感するらしい。そしてそんな相手を私たち獣人は心から愛してしまう。
たとえそれが、どんな運命の悪戯か…同性同士だったとしても。
ちなみに同性同士の運命の番はまあまあの確率であったりする。だからそうなるともうしょうがないよね、愛しちゃったしみたいな雰囲気だ。国も認めてくれるので結婚もできる。
ただ、同性愛に偏見はないけどいざ自分がその状況になるとまあ困るよね。
まして心から愛し愛されている異性の婚約者がいるのならなおさら。
「私たちは運命の番なんだよ!?」
「我らは生まれついての婚約者だ!」
「運命の番が見つかったら破棄できるって条件付きでしょ!」
「だがフレージアはそれを望んでいない!」
「フレージア様なんでー!!!」
恋多き女で申し訳ないが。
私は運命の番に出会ってしまったことで、聖女たるガルデーニア様を愛してしまった。
だが、幼い頃から恋心を育み続けてきた愛おしきジーリオ様のことを心から愛している。
二人の人を、どちらもかけがえなく愛してしまったのだ。
「やはりフレージアは余を選ぶということだな!」
「いやあー!!!フレージア様を奪わないでー!!!」
「先に横恋慕してきたのは貴様だろうが!」
「貴様ってなによ私は聖女様よ!」
「それを言うならば余は王太子だ!」
…今この問題で、国は割と本格的な危機に瀕している。
というのも、この国では王家と教会の力が拮抗している。
そしてあんまり仲良くない。
そこにこの火種なので、拗れるとやばい。
私はこの国の筆頭公爵家の娘なので、王家も教会も喉から手が出るほど欲しいらしい。
そろそろこの二人の喧嘩で済まなくなりそうだ。
…悩んだ末に、本当に本当に長い時間かけて考えた苦肉の策を提案した。
「あの、お二人とも」
「ん?どうした。余の最愛よ」
「フレージア様ぁ…」
涙目のガルデーニア様の頭を撫でつつ言った。
「多重婚を許してくださいませんか」
「え」
「は」
この国では多重婚も許されている。
というのも、私みたいに同性の運命の番が見つかったら子供どうする?という問題が発生する。
さらに…私みたいに同性の運命の番はもちろん愛するが、異性の元々のパートナーへの気持ちも捨てられない人もいる。
ということでそういう特例があったら、多重婚も認められるのだ。
まあ、それを選ぶと…恋多き人、愛多き人とめちゃくちゃ陰口叩かれるけど。
「それだとフレージア様が悪く言われちゃう!」
「余の最愛にそのような屈辱を与えるわけには!」
「でも、ガルデーニア様を愛してしまったんです。そして、ジーリオ様を変わらず真剣に愛しております」
私の言葉に二人は息を飲む。
「だから、私は謗りを受けても二人と一緒になりたい」
「フレージア…」
「フレージア様…」
それに、そうなれば王家と教会の橋渡しになり関係改善に寄与できるかもしれない。
そう言えば二人は俯いた。
そして。
「余の最愛。お前は余が守る。お前に辛い思いはさせないと誓う。どうか、余と…こいつと、結婚してくれ」
「あ、ずるい!…私の愛するフレージア様。私はフレージア様を心からお慕いしています。だから、フレージア様の一番幸せな結婚の形がそれなら喜んで受け入れます!」
「ジーリオ様…ガルデーニア様っ…ありがとうございます…!!!」
こんな恋多き女を変わらず愛してくれて、本当にありがとう。
「第一王子殿下はフレージア様に似て本当に可愛いわぁ」
「第二王子と第一王女は余に似たが、変わらず愛おしいがな」
「もちろんフレージア様の御子なんだからお二人も大好きよ!?私の息子と娘でもあるのだし愛してるわ!」
「まあそれは見ていればわかる。だがあまり将来余の跡を継ぐ第一王子を甘やかしてくれるな」
「ぐぬぬぬぬっ」
結局私は二人と結婚して、二人の息子と一人の娘に恵まれた。
夜の方はまあ…ご想像にお任せする。
お二人は相変わらず私を巡ってバチバチやっているが、お二人とも子供たちをとても愛してくれる。
「ふふ、でもあの子はジーリオ様が厳しくしてくださっていることでしっかりとした子に育っています」
「フレージアの愛情を感じてこそだと思うぞ」
「三人での子育て大成功!ってことね!」
お二人のおかげで王家と教会もだいぶ歩み寄っていて、今のところ国もとても豊かで安定した状況。
次世代を担う子供たちにも恵まれて、全てが満たされている。
国民たちも、恋多き女である私をなんとか受け入れてくれて今では悪く言われることも減った。
「この幸せがずっと続くといいですね」
「もちろんだ、余の最愛。余がこの幸せを守る」
「私もフレージア様たちをこれから、もっともっとたくさん幸せにしますから!」
最初こそ困ったが、二人に愛し愛されて今では私はとても幸福だ。
宗教系の家庭に引き取られて特別視されてる義兄に気を遣ってたら、なんか執着されていました
という連載小説を始めました。よろしければご覧ください!