クラスの美少女アイドルが唯一手に入れられないもの
自分で言うのもあれだけど私の人生ってすごく恵まれていると思う。
親は有名なモデルだったので家庭は裕福。それにその影響もあって、昔から顔立ちが整っている。
もちろん美に気を遣っているというのもあるけどね。
家庭環境は悪くない。親はとても優しいし娘思い。両親には本当に感謝してる。
欲しい物は昔から何でも手に入れられた。
勉強だけは......まあ辛かったけど努力の才もあったのかテストでは1位をキープしてる。
運動神経もまあまあいいし、部活ではキャプテン候補。
周りの評判は良い方だと思う。美少女アイドルなんて呼ばれたりもしてる。
妬みとかはあるけど、人間誰しも良心ばかり持っているわけじゃないから仕方ないね。
顔が良いので結構な頻度で男の子から告白される。
私自身は何もしていないのに、だ。
「俺と付き合ってください!」
「ごめんね、あなたのことまだ何も知らないから......でも同級生なんだし、これから仲良くしよ?」
断るのはこちらも心が痛くなる。だって相手は必死の思いで告白してきているわけだしね。
だから私も誠心誠意キッパリと断る。
私には彼氏がいない。でも気になっている......いや、好きな人はいる。
それは隣の席の東雲 康治くん。
メガネをかけていて髪は少しぼさっとしている。
性格も失礼に当たるかもしれないけど陽キャラというより陰キャラに近い。
いつも休み時間は教室で本を読んでいて、昼休みだけは図書室で本を読んでいる。
何でそんな子を好きになったかって?
理由は康治くんの性格に惹かれたから。
とにかく康治くんはピュアで他人思い。
康治くんを好きになったきっかけは2、3ヶ月くらい前のことかな。
それまで私は康治くんのことを気にも留めていなかったかな。
単なる同じクラスメイトってだけ。接点がなかったわけだし。
その日、私は先生から頼まれた宿題とかの紙の束を抱えて階段を登っていたの。
そしたら何とびっくり階段から足を滑らせたわけ。
それで両手が塞がってるから手すりを掴もうにも掴めなかった。
結構命の危機を感じたの。
でもそんな時に康治くんが後ろから支えてくれて......持っていた物はバラけて落ちちゃったけど、命は助かった。
「大園さん、大丈夫!?」
「あ、ありがとう......康治くん、だっけ?」
それでそこからも散らばった紙を拾って半分持っててくれてさ。
そこから距離が近くなってたまに話すようになったの。
康治くんもっと自信持って、髪型とか身なりに気をつけたら絶対モテると思うんだけどな。
でもそれをやられて女子にモテられてしまっては私が嫉妬する。
今でも嫉妬してるっていうのに。
私は康治くんが隣のクラスの篠崎 有栖さんと話しているのを横目に廊下を通る。
最近よく話してるなあ。
有栖さんは私と違う系統の美人。
私が清楚キャラなら有栖さんはちょっとギャルっぽい。髪型はショートで可愛らしい髪留めをつけていた。
康治くん、ああいう子好きなのかな。
はあ、と私はため息をこぼす。
ただでさえ、私は今康治くんに話しかけられない状況だっていうのに。
話しかけられないのは私の勇気の問題。でも康治くんを前にすると心拍数が上がって落ち着けない。
だから結局距離が縮まりきらない。
私が唯一手に入れられないこと。
くでーっと私は机に倒れ込んだ。
その様子を見た友人が心配の声をかけた。
「ゆずっち大丈夫?」
「うん......恋のお悩み」
「えっゆずっちが!?」
驚いたように友人は目をパチパチとさせた。ああ、そういえば言ってなかったっけ。
「えー誰々誰?」
「教えない、でもなかなか距離が縮まらないの、どうしよう」
「ゆずっちが色仕掛けしたらイチコロでしょ」
「そんな勇気ないし、そんなことで惚れてほしくないというか、いやまあ惚れて欲しいけど......」
「んー、じゃあ相手の趣味に合わせてみたら? 結構距離縮まるよ?」
相手の趣味......本かな。あっそうだ、図書館に言って康治くんが読んでそうな本読んでみよ。
「確かにいいかも! ありがとう、みやっち」
「ためになるかはわからないけど、どういたしまして」
その日の昼休み、私は図書室へ行って、文字とご対面していた。
しかしやはり難しい。これは練習あるのみかもしれない。
昔から読書はあまりしてこなかったせいだ。
「うーん、この本は難しい、違う本読もう」
私は元あったところに本を置き、目に留まった本を手にとった。
すると、横から声がかかってきた。
「こんにちは、大園さん、珍しいね、図書館に来るなんて」
声の正体は康治くんだった。
準備していなかったので胸がドキリとしてしまう。
「う、うん、ちょっと読みたい本があったから」
「あっそれ!」
突然、康治くんが私の手に持っていた本を指差した。
「湊さんの作品だよね!? それ読んだけどめっちゃ面白いよ、冒頭からまず......ってネタバレしちゃダメだね、とにかくデビュー作とは思えないほどの作品で......ってごめん、早口になってた」
正直これにはかなり驚いた。
ここまで楽しそうに話す康治くんを見たことがなかったから。
みやっちの作戦は正解だったのかもしれない。
「あっ全然いいよ、むしろもっときかせて欲しいな、あっそうだ、おすすめの本ある?」
「おすすめはね......よいしょっと」
そう言い、1番上の棚から同じ作家の違う本を取り出した。
そうして私に手渡す。
「面白いからこれもよかったら借りてみてよ」
ニコッと笑う康治くん。ズキュンと私のハートは射抜かれた。
「あ、ありがと」
「どういたしまして」
***
僕には好きな人であり、初恋の人がいる。それは隣の席の大園 柚衣さん。
柚衣さんはクラスのアイドル的存在でみんなから男女問わず好かれている。告白される数も多い。
でもどういうわけか全ての告白を断っているらしい。
彼氏がいるとか好きな人がいるとかの噂が立っているが真偽は定かではない。
でもこれだけは言える。僕とはとても程遠い存在。
柚衣さんは陰キャの僕にも話しかけてくれた。こんな僕を気にかけてくれた。
だから彼女に好意を持ったのかもしれない。
でも柚衣さんが僕に好意を持つなんてあり得ない話だ。
根本的にキャラが違うし、そもそも優しくしてくれたのは彼女の性格上のことで僕のことなど眼中にないはずだ。
柚衣さんは可愛い。姿も、性格も。
僕の叶わぬ恋なのだ。
はあ、と俺はため息をつく。
「どうしたん? 顔に悩みって書いてあるよ」
廊下を歩いていると、有栖が話しかけてきた。
有栖は僕の読者仲間であり、僕の唯一の友達である。
有栖は僕の唯一の友達であり、読書友達でもある。
とても女の子っぽく見えるが、実は男の子である。
今日はヘアピンをつけているのでより一層女の子感が増している。
他クラスの男子からたまに勘違い告白が起きるせいで非常に困っているらしい。
有栖には普通に彼女がいる。
たまに惚気話を聞かされるので、僕も柚衣さんとむずばれたらな、なんていう儚い妄想をしておく。
「恋のお悩みです......」
「えっ、康治が!?」
目をパチパチとさせて驚いた。
「えっちなみに相手は......?」
「今、通り過ぎってった人」
「......ああ、それは重大な悩みだね、高嶺の花に恋しちゃったわけか」
「うん、半分諦めてる」
「それは諦めたほいがいいね、次の恋探そ」
「う、ひどいっ!」
「嘘嘘、冗談」
そして指をピンと立てて有栖は言った。
「まずイメチェン、メガネからコンタクトにして、髪は整える、背筋はピシッと、とりあえず身なりを整えてみたら?」
「うーん、そうなんだけど、結局これが落ち着いちゃうっていうか、あとそういうの疎いし」
「じゃあうちがやってあげるよ、週末家来れる?」
「......なんか悪い」
「ばっきゃろい、男が遠慮してどうすんだ、そこは了承しとくもんなの」
べしっと僕は頭を叩かれた。
やってくれるのはありがたいがなんか申し訳ないのだ。
「そんな奥手だから柚衣に近づけないんだよ、もっと自信持ってみたら?」
「......自信か、うん、そうだよね、ちょっと頑張ってみるよ」
「うん、その意気、頑張りー」
その日の昼休み、僕はとりあえず恋愛について勉強しようと思い、図書室で本を漁っていた。
すると、そこには彼女がいた。
いつも通りの彼女。珍しいこともあるものだ。柚衣さんが図書室へ来るなんて。
......話しかけると迷惑かな。
と奥手の思考になってしまう。しかしその時、有栖から言われたことを思い出した。
そうだよね、自信だよね。
すう、と僕は息を吸い、彼女に話しかけた。
内心はめちゃくちゃ緊張していた。
でも上手く喋れたのではないだろうか。
一歩前進できたかな。
***
お風呂上がり、私は着替えた後、ベッドに思いっきりダイブしてクマの人形を抱き抱えた。
「あー、今日は康治くんといっぱい話せたー! 一歩前進かな」
ゴロゴロと私がベッドに転がる。
心なしか今日の康治くんは前よりかっこよく見えた。
私にとってはいつもかっこいいけど、今日は特にである。
日に日に、康治くんへの想いは強くなっていく。
私は康治くんからおすすめされた本を開き、数ページ読んだ。
しかし内容は難しい。こんな本を毎日のように読んでいるのだからすごい。
小説文の問題は解けても読書は苦手だ。
私は本を置き、またゴロゴロとベッドで転がる。
消えることのない恋のお悩み。よし、明日はもっと康治くんと話そう。
私から話しかけちゃおう!
......でもそれで距離縮められるかな、そもそも話しかけれるのかな。
康治くんはどんな人がタイプなんだろ。
恋するって難しいや。
私はドキドキが収まらない胸を他所に電気を消して眠りについた。
***
「今日はちゃんと話せたよね」
僕はベッドで本を読んでいるが、内容は全く頭に入ってこない。
やっぱり柚衣さんと話すの楽しいや。
そろそろ僕も変わらなければならない。本気で柚衣さんに近づきたいと思うなら。
僕はベッドから起き上がり鏡を見て髪型をセットしてみる。
しかしやはり上手くいかない。
はあ、週末有栖にやってもらおう。
僕と柚衣さんの距離はまだまだ遠い。
それなのに日に日にます柚衣さんへの好意。
柚衣さんはどんな人が好きなんだろう。
それはきっと僕じゃないだろうし、他の人だ。
恋するって大変だ。
電気を消して、僕は眠りについた。