10・11
=電話が鳴った 10 =
電話が鳴った。
取った受話器から聞きなれぬ声が聞こえた。
「わしじゃ、わしじゃ。わしじゃよ。わし、わし。
実は保険証をなくしてしまってな。入院するのに、すぐ現金が要るんじゃ。
困っとるんじゃ。悪いがすぐに現金を持って来てくれんか。
まさか、おまえがわしを見放すわけはないよな? おまえは・・・」
わしが話している途中なのに、聞きなれぬ声の「孫」を名乗る相手は最初の一言以外何も言わず、電話はブツっと切れた。
=電話が鳴った 11 =
電話が鳴った。
今しも1人の死刑が執行されようとしている刑場の、普段は決して鳴ることのない電話が。
大臣からの一時中止の緊急連絡だった。
「大臣が代わってほしいとおっしゃっています。」
そう言って、係官が受話器を死刑囚に差し出す。
死刑囚がおずおずと電話に出ると、大臣が話し始めた。
「あなたにとっては、かえって酷いことかもしれませんが、聞いてください。私が参加している詩歌サークルの友人から、昨日メールで1編の詩が送られてきました。私は、それに深く感動したのですが、今朝ようやく気付いたのです。それが、昨日私が執行書にサインしたあなたの作品であることに。
人は、こうまで変わりうるものか。このような詩を生み出せる境地にまで至った精神を、過去の罪と共に葬り去っていいものか? 深く悩んだ末、私はこの電話をすることにしたのです。
かえって酷いことになるだけなのかもしれませんが、私はこの詩を持ってご遺族のところに行ってこようと思います。結局は2度執行されるような苦痛を味わわせてしまうことになるかもしれません。あなたには申し訳なく思います。それでも私は、この詩を生み出した精神の高みを、一片の書類のサインだけで消し去ることに抵抗を感じてしまったのです・・・」
「大臣。そこまで言っていただけるだけで十分です。私は実際に罪を犯したのです。私が命を奪った人は、二度と帰ってはこないのですから・・・。」
刑場の床に、受話器を持った囚人の涙の跡が、ぽた、ぽた、と増えていった。
後日、被害者遺族の希望で、犠牲者と死刑囚の共作という形で、小さな詩集がひっそりと出版された。
今どき、詩集を買うような読者も少ないというのに。
今読んでみると、これらの短編群のいくつかは「キレが悪いなぁ」と思います。
この長さなら、もっとキレないとダメですねぇ。。




