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これは実在の電話ボックスをモチーフに書いたフィクションです。
風の電話 というものがある。
震災直後に、Sさんというガーデンデザイナーが「亡くなった人と話せる場があったら」と不用品の電話ボックスを譲り受けて、被災地の高台に設置した。
中には、懐かしい黒電話が1台置いてある。もちろん、電話線は繋がっていない。
震災から10年。
多くの人たちがここを訪れ、想いをノートに書きつけていった。何度も来る常連さんもいた。
そんな常連さんの中に、家族や友人を何人も津波に奪われ、自身もガンを患っているというKさんもいた。
受話器を頬にあて、静かに話すKさんを、Sさんはいつも遠目に見ていた。そんなKさんの姿を、Sさんが見かけなくなって3年ほどが経つ。
10年目の節目の今日、風の電話には多くの人が訪れたが、やはりその中にKさんの顔はなかった。
最後の訪問者が去り、西の空にわずかに茜の名残りが残っている頃、Sさんは自分で黒電話の受話器を取った。
「Kさん。今どうしていますか? ご家族やご友人には会えましたか?」
節目の日が終わって、日付が変わろうとする頃、
電話が鳴った。




