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4 ブバブ村の未来

 ブバブ村に帰ってきた頃には、すっかり日が沈んでしまっていた。

 危ない、夜が完全に深まると流石に何が起こるかわかったもんじゃないからな。


 一応俺たちの村の付近は、定期的に冒険者により魔物の間引きがなされている為、そこまで危険はないとされている。ただ夜になれば獣の唸り声なども結構な頻度で聞こえてくるので、無事帰れてとりあえず一安心といったところだろう。



「うぅ、俺の完璧な騎士団出世計画が……」


 ジャムソンがお腹を擦りながらうなだれている。

 ジャムソンは『トイレが近くなる能力』などというなんの取り柄があるのか分からない能力を引き当ててしまったのだ。本当にかわいそうに、同情するよ。



「どうだったー!?」


 村に着くやいなや、一人の女の子が走り寄ってきた。

 彼女は近所に住む女の子、リマ。

 歳は十二歳だが、しっかりしている性格で、将来いいお嫁さんになるだろうなどと大人の間ではもっぱら噂だ。

 十二歳といえど、この狭い村の中では歳は近い方にあたる。


「ただいま。無事能力は貰ってきたよ」


 適当に答えておく。


「へー。で! どんな能力だったの!?」


 リマは興味津々といった様子で尋ねてくる。

 彼女も割とジャムソン器質な性格で、能力を貰えることに比較的夢を見ているタイプの人間だ。


「いや、まぁなんというか、予想通りというか、そうでもないというか」


「……?」


 歯切れの悪い俺の返事に、小首をかしげるリマ。

 俺は彼女に今日のあらましをざっくりと説明した。



「なるほど……それは災難だったね」


 リマはジャムソンの様子を見て、同情の顔を浮かべていた。


「もう俺は終わりなんだ……お腹も壊すし、こんなんでこの先どうやっていけば……」


「だ、大丈夫だよ! そこまで落ち込む必要ないって! ほら、これもこの村にずっといなさいっていう神様からのお達しだよ。冒険なんかに出てたら大怪我してたかもしれないし!」


「そうだぞ。むしろすっぱり諦められて良かったじゃないか」


 適当にリマに乗っかっておく。


「……はぁ。そうなのかな、そうだよな、きっとそうだ」


「とにかく疲れてるでしょ? 今日はもうご飯食べて寝なよ」


 リマの提案にうーんと気の抜けた返事をしながら、トボトボと自分の家の方に歩いていくジャムソン。


「やっぱり元気ないね……」


「ま、ジャムソンのことだ。明日になったらケロッと忘れてまた畑仕事の日々に戻ってるさ」


「それもそっか」


「でもリマもナイスフォローだったぞ。ジャムソンもちょっとは気を取り戻したっぽいし」


「え……? ああ、あんまり上手いことは言えなかったけど……」


 リマは髪をいじりながら照れるように笑った。


「で、でもビコンの能力って結局なんなんだろうね? まだ何もわかんないんでしょ?」


「まぁそうだな。今のところは何も感じないから、たぶんそんなに意味もない能力なんだろうな」


 あまりに何もないので、もうすっかり能力の存在すら忘れかけてた。

 まぁ随分中途半端な感じにはなったが、このまま何もないのが案外一番いいのかもな。変に何かあってもそれはそれで面倒くさい気がするし。今の暮らしに不満もがあるわけでもないしな。

 ……まぁ本当に欲を言えば、ちょっとだけでも村に貢献できるような能力を手に入れれれば良かったんだけど……。


「あ」


 リマが突如声をあげた。

 なんだと思いそちらを見ていると、一台の馬車がこちらの方面に走ってきていた。

 馬車は村の中心から来ている。

 つまり村の外に出ていく方向だ。

 そして俺はその馬車に見覚えがあった。


「今日も来てたの?」


「うん……みたい」


 馬車を引く馬は歩いており、馬車自体はゆっくりと徐行していた。

 そして、その馬車にかじりつくようにして一人の人物が追いかけていた。


「すみません、お願いします! そこをなんとか!」


「うるせねぇな。しつけぇんだよ!」


 ボコ。

 中にいる人間から、馬車を追いかけていた男が殴られる。


「い、いたい!」


「ったく。こっちだって暇じゃねぇんだ。ちゃんと考えとけよー村長さんよー」


 中にいた男は捨て台詞とともに、馬車で去っていった。


「だ、大丈夫ですか?」


 俺とリマは慌てて取り残された男に駆け寄る。

 男はこの村の村長だった。


「すまん、大丈夫だ。いや、みっともない姿を見せてしまったな」


「また貴族の徴収ですか?」


 実は最近この村にはちょくちょくとある貴族が訪れている。

 ヒーリズト伯爵家というらしいのだが、彼らはこの村に別途税収を納めるように勧告してきているというのだ。なんでもこの村の安全が担保されているのは、自分らが囲っている冒険者たちが村近くの魔物を間引いているおかげだということだ。よって税を払うのは当然だという主張らしい。


 俺たちは国から徴収される分の税はちゃんと納めているので、当然、別途納めなければならない謂われはない。


「ああ、全くあいつらはとんでもない奴らだ。こちらの足元を見おってからに。私が現役ならボコボコにしてやったところだ」


 村長は土を払いながらぶつぶつ言っていた。

 ボコボコにって……相手は貴族だぞ。私兵だってたくさんいるだろうし、その他にもどんな手を使ってくるのかわからない。この小さな村の戦力じゃ到底太刀打ちできないだろう。あーあ、これで俺が最強の能力でも引いてればな。貴族相手にも無双できれば話は全部解決なのに。まぁそんな夢物語あるわけないけど。


「村長さん、無茶はしないでね」


「ありがとう、リマ。でも村の代表として、意地を通さなければならないこともある。私が折れては村の者に示しがつかぬからな」


 村長はふっとニヒルに笑った。


「まぁとはいえ村に力が必要なのも事実だ。そういう意味ではお前たちも早く子供を作って村を楽にしてやってくれよ、ガハハ」


 なに言ってんだこのじいさん。

 こちとらまだ十五と十二だぞ。それに結婚なんて夢のまた夢だ。そもそも俺なんかを好きになってくれるような人がいるはずもないしな。一生独身で最後を遂げるんだろうな、たぶん。


「こ、こども……」


 なぜか赤面しているやつもいたが、ともかく村のためにもできることからやっていくしかない。また今まで通りせこせこ働いていきますか。









 その後はいつもと変わらないルーティーンを送り、自室に戻って寝床についた。

 久しぶりの遠出で、案外新鮮な体験だったのかも。

 そう思えば今日という日も悪くなかったのかもな……


 そんな取り留めもないことを考えながら、俺は眠りについた。



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