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1 出発のとき

「おーい、ビコン! 早く行くぞー!」


 家の外から親友の声が聞こえる。

 どうやら俺を迎えに来てくれたようだ。

 あれ、もうそんな時間だっけ?

 俺は昨日のうちに準備しておいた荷物を持って、急いで玄関へと向かった。


「ごめん、待たせちゃった?」


「いや、ぜんぜん。だってまだ時間になってないだろ? つい気が逸って早く来ちまったんだよ。お前ならわかるよな!?」


「はは、流石はジャムソンだな」


 そう、今目の前でハニカムように笑っているやつこそ、ジャムソン、俺の親友だ。


 俺たちはここブバブ村の出身で、ジャムソンとは生まれたときからの馴染みだ。歳もたまたま同じで、今年で十五歳となる。若い年代が少ないこのブバブ村の中では、俺にとって唯一無二の貴重な存在というわけだ。


「昨日は夜も眠れなかったんだぜ。今日があの日と知っててスヤスヤ寝れる奴がこの世にいるかよ」


「まぁそうだよね。今日は待ちに待った『神の信託』の日だもんね」


 そう、今日という日は俺たちの人生とって非常に特別な日となる予定なのだ。

 というのもこの世に生まれし者は、十五歳になると神により『能力』と呼ばれるものを一つだけ賜ることができる。その能力の種類によっては、より生活を豊かに彩らせることができるかもしれないのだ。


「いやー、どんな能力が貰えるかなぁ。なぁビコン、俺は昨日寝るとき考えて来たんだけどさ、発表させて貰ってもいいか?」


「一応聞くよ。でも考えて決まるようなものじゃないでしょ?」


 そう、能力の授与は完全に神の気まぐれ。天にいるとされる神が、前世の行いに応じてランダムに振り分けるとされている。いち人間にはその瞬間まで予知することはできないというのが通説だ。


「バカやろう! 願っとくんだよ! それだけでもぜんぜん違うかもしれないだろ? 因みに俺は、最強の剣術を手に入れる能力にしたぜ! これがあれば騎士団にも入れて大活躍間違いなしだ!」


「それ王国騎士団の団長様の能力でしょ? そんな都合よく手に入るとは思えないけど……」


「なんだよ夢のないやつだな! じゃあビコンはなんの能力を考えてきたんだよ」


「いや、だから俺は考えても無駄だから考えてないというか、そもそも期待していないというか……」


 神の信託は本当に神の気まぐれのため、どんな能力を引き当てるのかは全く分からない。

 そのため、世の中にいる人の殆どが私生活において全く無関係な能力を貰うことになる。そもそも能力と言っても本当に千差万別で、使える能力と使えない能力との差もものすごく激しい。


 例えば、さっきジャムソンが言ってたみたいに王国騎士団の団長は『剣術【極】』という超最強能力を持っているという噂だし、俺のお父さんに関しては『袋詰めマスター』とかいうなんの役に立つのか分からないような能力を引き当ててしまっている。まぁ本人も笑い話にはよくしているが、実際のところそんなものだ。生活に関係ない能力どころか、そもそもが全く役に立たないようないわゆる雑魚能力を手にしてしまう人が大半なのだ。

 まぁだからこそ期待しても無駄だというわけで、俺は一切幻想など抱いていない。

 どうせパッとしないような俺のことだ、いくら期待したところで大した能力は引けないであろうことは目に見えているからな。


「なんだよ冷めるやつだな。まぁそういうヘタレなところもビコンの持ち味だよな」


「誰がヘタレだよ。現実主義なんだよこっちは」


「そんなことで人生楽しいのか? まぁいいけど、そんなことじゃビコンは雑魚能力しか貰えないと思うけど、そうなってもこの俺の最強の能力でキャリーしてやるから安心しろよな!」


 ジャムソンはドヤ顔でそんなことを言ってのける。一体どこからそんな自信が湧いてくるのか。頭を割って調べてみたいくらいだ。



「おーい、お前らぁ! 出発するぞー!」



 そうこう話している内に、遠くから俺たちを呼ぶ声が聞こえる。

 今日俺たちを近くの街まで送っていってくれるガゾキンおじさんだ。

 そう、神の信託は特定の場所でのみ受けることができ、それは大抵街などの主要な場所にある。当然この村にはないので、俺たちは最寄りの街まで出向かなければならないというわけだ。まぁ最寄りと言っても馬車で六時間くらいはかかるような位置だけどな。


「よっしゃあああ! いよいよ出発だぁあ! いくぞビコン!」


 そうして連れて行って貰う予定だった俺たち二人はおじさんの馬車に乗り込み、街を目指すのだった。




「おーい、ビコン。いつまで寝てんだよ。ついたぞ」


「……え?」


 場所の中で寝こけていた俺は、ジャムソンの声で目を覚ます。


「おい見てみろよ、すっげー! やっぱ街はすげえな!」


 未だ走っている馬車の窓から外を見ながらジャムソンがはしゃいでいる。

 やばい、完全に寝てしまってた……。まさかジャムソンに遅れをとるとは、我ながらちょっぴり恥ずかしい。


 つられるようにして俺も外を見てみる。

 すると立派な街の城壁がすぐ近くまで見えてきていた。

 なるほど、いつのまにか着いてたんだな。

 てか街なんて過去にも何度か来たことがあるだろうに……まぁ、いっか。


 こうして俺たちは人生のメインイベント、神の信託の時を迎えることとなる。



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