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迷い迷って辿り着いたのは……あなたの隣でした  作者: あさぎ
一章 情熱色の真っ赤なワイン
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6.なんだか上の空

 


 あれから、私とサイラスは順調に逢瀬を重ねていった。


 今じゃもう彼の屋敷、それも彼の自室だって普通に入れるようになって……最近は二人でソファにでも腰掛けてのんびりすることが多かった。




 向こうの屋敷の従者達にも私の顔はだいぶ覚えてもらえてるみたいで……前にハルに言った結婚の話はほとんど妄想のつもりだったけど、今じゃもうだいぶ現実味を帯びてきていた。


 強いて言えばご両親への挨拶がまだだけど……それもきっと、この感じだともうすぐのはず。




 今まで一度も喧嘩もなく、何の問題もなく。

 毎日のようにお互い愛を確認しあって、順風満帆の日々を送っていた。







 今日はいつも通り彼の部屋にいる。


 彼の好きなタイトで短めのワンピース。

 足がスースーして最初はなんだか落ち着かなかったけど、最近はもう慣れた。


 身につける色はいつもピンクか赤。それも極力明るくて鮮やかなもの。

 私は淡い色とか落ち着いた色が好きだけど、彼が好きだから。


 でも、香水とかはほとんどつけない。

 彼がひどく嫌がるから。


 理由は知らないけど。




 ソファに腰掛けて、彼の腕にもたれかかるように寄り添う。


 時おり鼻を掠める甘い香り。

 何かつけてるのか、彼はいつもいい香りがする。


「それでね、ローラがね……」


 ローラ、それは私の昔からの親友の名前だ。


 私も彼女も喋りたがりなもんだから、しょっちゅうお互いの屋敷に呼び合っては、お喋り大会するような仲。




 そんな彼女の屋敷にちょうど昨日遊びに行って……私はネタを仕入れてきたのだ。

 手を叩いて涙浮かべながら爆笑しちゃうほどのすごく面白い話を。


 だから、それをサイラスにも教えてあげようと思って。


 一体どんな顔するんだろう。

 いつも落ち着いている男性の、心からの大爆笑。


 きっと彼だって、さすがに笑いの力には耐えきれないだろうから……もうなんか、顔をくしゃくしゃに潰して思いっきり吹き出しちゃうんだろうな。


(でも、そのくしゃくしゃがきっと可愛いんだろうなぁ)


『彼の可愛い一面を見てみたい』、それが私の今日の企みだった。




(そう、それで!ここからが面白い話なのよ……!)


 別に演説してる訳じゃないけど、なんとなく喋り方にも無意識に熱が入っていく。


「でね!で、それで!その時、いきなり……!」


 身振り手振りまで加わって、さぁ話のクライマックスだ!なんて思っていたら。




(あれ?)


 ふと彼を見ると、いつの間にか窓の外を向いていた。


 さっきまでこっちを向いてニコニコと話を聞いていたのに。


 気づくなり、勢いを失う私の口。

 忙しなく動き回っていた腕は、するすると下がっていく。


「サイラス?」




「……ん?」


 少し間を置いて返事が返ってきた。

 間と言っても、ほんのたった数秒だったけど。


「ああ、聞いてるよ」


 でも、そう言って振り向いた彼はいつもの笑顔。


(聞いてるって……喋ってる間くらいは、こっち向いてくれてもいいのに)




 最近、そういうのがやけに気になるようになった。


 彼はぼんやりと遠くを見つめている事が多くなった。


 それが……こういう話をしている時もあれば、一緒に食事している時にも。割と頻繁に。


 以前からたまにそうやってぼーっとしてた事もあったけど、でもそれにしては最近なんだか特に多くなった気がして。


 なんだか最近、どこか上の空な気がして……


(……)




「どうしたの、アンナちゃん」


 サイラスは座ったままゆっくりと私の方に体を向けた。


 その動作の途中で、一瞬キラッと銀色に光る何かが見えた気がして……次に言おうとしていた私の言葉はするすると喉から引っ込んでしまった。


(別にあれはただのファッションだから。お洒落してるだけだから。サイラスだって、『まだ』だってはっきり言ってたし)


 今はそう思い込むのに必死で、言葉を発せられるほどの容量が頭に残っていなかった。




 彼がいつも左手の薬指にはめている、指輪(あれ)


 指輪と言っても婚約指輪とかではなくて、ただのなんの飾りもないシルバーの太いリングだ。


 つけている場所が場所だけに、一度慌てて尋ねた事があるけど……そういうファッションだと言っていたし。

 まさか彼がそういう人だなんて思えなくて(思いたくなくて)、それ以上深くは聞けずにいた。



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