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LAST WITCH  作者: 海森 真珠
蒼炎の残り香
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Episode3.1 魔法使い


 移動が完了した直後、左耳の耳飾りが粉々に弾け飛んだ。転移の魔法を使用して普段使える魔力の限界を超えたことが原因だ。


 途端、ソルティアの体から抑えていた魔力が漏れ出る。青白い光が空気のように、流れる水のように辺りに漂う。


「はあ、くそっ……………………ああっ!?」


 そんな現状に毒づいたのもつかの間、もっと悲惨な状況に気づいて悲鳴をあげる。


 ソルティア自身から漏れ出た魔力によって、部屋中に置いていた魔力に敏感な薬草たちが今まさにみるみる萎れていっているから。あと半日、月の光を浴びせれば完成したはずのグァリムの実の傷薬も、視力を回復させる効能のある貴重なミザの葉も、使い物にならなくなった。


「明日、売りに行くはずだったのに……」


 茫然としたソルティアの呟きは、誰もいない部屋の暗闇に消えていった。


 テルーナ王国の東に位置する鬱蒼とした不可侵の森。その湖畔に佇む趣のある一軒家にひっそりと住むソルティアは、薬草学の知識を生かして薬師として生計を立てている。いくら人間と交わらないように生活しようと試みても、ある程度の文化的な生活には金が必要だ。そのために、定期的に街へ行き薬などを売っている。


 それなのに、その薬たちが今目の前でダメになった。


「ああっ! もう! 首飾りも持って帰れなかったし散々な目にあった!」


 そもそもここ数年まともな戦闘など行っていなかったのに、偶然にも、魔狩りの中でもよく動ける人間にあたってしまった。ソルティア自身、街中ということもあって完全に油断していたから、魔力の配分も間違えた。その結果が、これだ。


「……もうやだ。寝よう」


 全てを投げ出したソルティアはそう呟くと、ふらふらと階段を上る。歩くたび、足元では水面が揺れるが如く青白い魔力が広がる。きらきらとした光の粒が揺らめき躍る。

 いつの間にか外は真っ暗になっており、家の中も明かりを灯していないため暗闇。だが、明かりをつけるという作業すら面倒なソルティアはそのまま勝手知ったる廊下を進み、寝室へと入った。


 そのまま、ベッドへと倒れ込む。

 安眠効果のあるエザーフートの花の爽やかで優しい香りが体を包んだ。


「あの白黒野郎、絶対殺してやる……」


 物騒なことを呟いて、ソルティアは深い眠りについた。







 世界動植物保護協会サンクチュアリ、テルーナ王国中央支部。

 研究班から分析結果が出たという報告を受け、一週間まだかまだかと待っていた第二部隊副隊長のプラトンはさっそく会議を開いた。


「トス、分析結果は?」

 

 招集したメンバーが揃ってすぐ、プラトンは副官であるトスに説明を促した。会議室に集められたアリサー、ネル、フェナンドを見回した後、トスが研究班からの分析結果を告げる。


「首飾りの魔法陣の刻印に使われた魔力と、アリサー隊員と衝突した魔法使いの魔力が一致しました」

「よし! こんなに早く魔法陣の知識を有する魔法使いを見つけられるとは思わなかったな」


 机を強く叩いて、プラトンはしたり顔をした。これでリンゼの時計台を真っ二つにした責めに対する、国王からの取引に何とか応じられるかもしれない。しかし、問題も山積みだ。


「彼女、女性というにはまだ幼い気がしたのは自分だけでしょうかぁ~」

「くすんだ藍色掛かった灰色の長髪、銀色の瞳、小柄な女性、という特徴以外に何か目ぼしいものはあったんでしょうか?」


 ネルの呟きを聞いて、別任務で闇オークション会場にはいなかったフェナンドがプラトンに質問をした。


 同期だけでなく隊員全体を見ても、アリサーの戦闘力と魔力耐性はずば抜けている。そのアリサーが取り逃がした魔法使いということで、支部内ではその話題で持ち切り。フェナンドとしても興味深いところだ。


「戦闘時間も短かったし何とも言えんが、戦闘自体に慣れてる感じは見受けられたな。明らかに動きが違った。どうだ、トス」

「そうですね。あの魔法使いにとっても会場での戦闘は予想外だったと考えられます。それでもアリサー隊員相手に戦えていましたから、今までの魔法使いとは少し違う気がします」


 トスの冷静な分析に、プラトンは軽く頷いた。


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