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LAST WITCH  作者: 海森 真珠
蒼炎の残り香
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Episode2.2


 伸びてぴくりとも動かなくなった競売人を無視して、床に転がったネックレスを拾う。あとはこの場を去るだけだ、と観客たちの方を振り向いたその直後。


 会場の二つの扉が外から吹っ飛んだ。


「おおぉぉぉぉおい!? 切り刻む程度にやれって言っただろうがぁッ!?」

「アリサー隊員、相変わらず大胆ですぅ~!」


 扉の外から現れたのは、世界動植物保護協会・サンクチュアリの制服を着た人間三名。そのうち二人は首まで覆われた真っ黒の制服を着ている。


 彼らの登場により状況を一瞬で理解したソルティアの機嫌は急降下した。そして不覚にも若干の焦りを覚える。


「ちっ! 魔狩りっ……!」

 

 指にはめていた移動の魔法陣が刻まれた指輪に魔力を込めようとしたその瞬間、視界の端で黒い影が走った。


 一秒と経たず、目の前に白いお面を被った魔狩りが現れる。


「はやッッ!」


 視界に映った魔狩りはすでにソルティアに向かって剣を振りかざそうとしている。咄嗟に魔力を込めるのをやめ、思わず加減を忘れた魔力塊を相手に叩きつけた。


 ソルティアと魔狩りの間で爆発が起こる。

 衝撃で会場が揺れた。


「きゃあああ! アリサー隊員、生きてますぅ!?」


 扉近くまで吹っ飛んだらしい仲間に驚く薄桃色の髪の女性隊員が悲鳴をあげた。どことなくふざけているようにも聞こえる声色はデフォルトなのか。


「何が起こったんだ!? あっ、トス! ここの人間、一匹たりとも逃がすんじゃねえぞ!」

「わかってますよ、プラトン副隊長」


 紺色の制服を着た壮年の保護官が、同じく紺色の制服を着た若い保護官にそう指示した。



 会場内は逃げ惑うオークション参加者たちで大混乱に陥っていた。しかし逃げる場所など扉しかない。よくわからない戦闘に巻き込まれて死ぬか、サンクチュアリの人間に捕まるか、どちらがマシかを反射で判断した参加者たちは次々に扉を抜けたところでサンクチュアリの人間に捕まっていく。


「いっ……たぁ~~~~!」


 自ら起こした爆発の衝撃に、ソルティアの瞳には涙が浮かんだ。ソルティアはソルティアで舞台の壁に叩きつけられて、後頭部と背中を強打していた。


「あ……」


 やけに視界が開けたと思ったら、顔を隠していた仮面が粉々に砕け散っていた。大きく舌打ちをして素早く適当な布で顔半分を覆う。目元が見えているが、素顔を全て晒すよりはマシだ。


「剣で受け流せばいいものを、わざわざ切り裂こうなんて考えるからこんなことに……ってあれ!?」


 爆発の原因に対して不満を言っていると、ふとソルティアの手からネックレスが消えていることに気づいた。焦って爆発のせいでぼこぼこになった舞台の上を見回すと、お目当てのモノを見つけた。


 それも、ひどく縮こまる奴隷少年の目の前で。


「げ」


 気が動転しているらしい奴隷少年はあろうことか、ネックレスに手を伸ばす。しかも最悪なことに、彼の反対の手には魔法陣発動の着火剤となる魔晶石が握られていた。


「まっ――!」


 制止も虚しく、突風が会場を襲った。

 剣のように鋭い刃の風が椅子、机、カーテン、壁、あらゆるものを切り裂いていく。


「ひぇええええ!?」

「伏せろッ!」


 さすがサンクチュアリの戦闘職である保護官たちはその風をかわしつつ、自らを守っている。だが、ソルティアにはそんなこと微塵もどうでもいい。というか、刃の風にあたって死んでしまえばいいと思っていたりするのが本音だ。


 ソルティアの視線の先には制御を失ったネックレスを持つ奴隷少年。ネックレスをご丁寧にしっかり包み込み、苦しそうに床に伏せていた。


「ああっ、もう!」


 その姿を見たソルティアは少年に向かって走り出す。

 向かってくる突風に、深く被っていたフードがとれた。


「っ!」


 藍色掛かったくすんだ灰色の長髪が突風に舞う。緩く三つ編みをしてまとめていたはずだが、刃の風のせいで紐がとれてしまったようだ。突風のせいで目を開けているのも難しい。


 少年に手を伸ばそうとした直後、不明瞭な視界の端に黒い影を捉えた。

 途端、真横から現れる白いお面の魔狩り。


「邪魔ッ!」


 先ほどと同じように魔力塊を叩きつけるが、するりと軽やかにかわされてしまった。


 加減を忘れた魔力塊を叩きつけても、ピンピンとしているこの魔狩りは相当な手練れだ。だからそう簡単にあしらうことができない。さらに久しぶりの戦闘ということも相まって、ソルティアの動きは鈍い。


「ッ!?」


 突風に視界を奪われたその一瞬で、魔狩りの姿が消えた。

 しまった!と思ったときにはもう遅い。

 趣味悪く喉元目がけて剣が走る。


「やっ、ば……ッ!」


 ソルティアと魔狩りの間で眩いほどの光が散った。


 誰もが魔狩りの勝利を確信しただろう。

 しかし、その予想は外れる。


「アリサー隊員!」


 魔狩りのアリサーが、瞬時に後ろへ飛んで退避した。状況が掴めず、他の隊員たちは舞台の上を凝視する。すると、先ほどまでアリサーがいた場所には冷え冷えとした鋭い巨大な氷柱が床から生えていた。


 旋風の魔法の威力が弱まったのか、しんと静まり返った会場内が冷気で包まれる。


「ま、魔法ですかぁ? あれ……」

「おいおい、どこにあんな魔法使い隠れてやがったんだよ」


 薄桃色頭の魔狩りのなんとも緊張感のない言葉に反して、プラトンは顔を引きつらせた。距離をとったアリサーはその巨大氷柱とその傍で荒い呼吸を繰り返す無傷のソルティアをじっと見つめる。


「はあッ、はあッ、はあッ……」


 水分を失った枯れ木のような感覚に、ソルティアはこれ以上は無理だと悟る。ただでさえ自身に科した禁制のせいで自由のきかない魔力が、爆発的な使用の今の一瞬で底をついた。耳元で揺れる魔力を抑える魔封じの耳飾りがわずかに欠けたのに対して、苦虫を噛み潰した表情を浮かべる。何より、()()


 最悪な気分のソルティアが、ゆっくりと顔を上げると、


「き、綺麗……」


 女性の魔狩りが呆けたように、そう呟いた。

 灰色だったソルティアの瞳は、夜空に輝く星たちを集めたかのように銀色に輝いている。


 とても単純な話だ。

 魔法使いが魔法を使えば、瞳の色に変化が起こる。ただ、それだけの話。



「ネル! ぼうっと突っ立ってねぇでアリサーと戦え……って、おい、アリサー?」


 呆けていたネルを引っ叩いたプラトンが、アリサーの様子の変化に気づいた。一度だって戦闘中に動揺する姿など見たことない保護官最強と言われるアリサーの様子がどうもおかしい。固まって動かなくなったアリサーの視線の先を辿ると、そこには銀色に輝く瞳の魔法使いがいる。


「おい、どうし」

「ぎゃっ! まずいかもですぅっ!」


 アリサーに気を取られたプラトンがネルの悲鳴にはっとした時には、遅かった。ぐったりとしていた銀色の瞳の魔法使いが魔法でその場からあっという間に消えてしまった。


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