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想定外の遭遇

 

 週末に入り、フォルトはようやくひと心地つくことが出来る。一度制服から着替えるために別邸へ戻り、服を着替えるとすぐに伯爵邸の敷地を出た。向かう先は、王都外。フォルトが主に活動している街、ルーリンだ。馬屋で預けていた馬を引き取ると、いつものようにフードで顔を隠し足早に王都の門へと向かう。すると、門の前には列が出来ていた。どうやら衛兵による検問が敷かれているらしい。


「面倒だな」


 何か犯罪でも起きたのだろう。そういう場合でもない限り、検問が敷かれることはない。厄介なことをしてくれたものだと思いつつ、フォルトは身分証を胸元から取り出す。

 己の番になり衛兵に身分証明書を見せれば、蔑んだ視線を向けられた。フォルトが見せているのは、クラン所属のカード。王都にはクラン自体がない。それはクランという存在を下にみているからだ。民間組織と、国家組織。どちらが上と言うわけでもないのだが、軍に所属している者は、クランの存在を良く思っていない連中が多かった。


「チッ、通れ」

「ありがとうございます」


 舌打ちしつつも、証明書を出されれば通さないわけにはいかないということだ。フォルトは深々とフードを被ったまま、王都から出る。馬に跨ると、そのまま街へ向けて走りだした。

 街に到着し、クランへと顔を出したフォルトは、現在出されている依頼書を確認する。フォルトが受ける依頼は魔石関連か討伐だ。討伐を単独で行うことについて、あまりいい顏はされない。特に受付であるカレンと、クランのリーダである彼には。


「あーフォルトくん、また一人でいくつもりなんでしょ?」

「……」


 案の定というか、依頼書を見ているところへカレンがやってきた。受付の業務はいいのだろうかと、カウンターを見れば別の人が入っているのが見える。交代か押し付けてきたのか。恐らくは後者だろう。


「返事くらいしなさい」

「どうも」

「全く……らしいと言えばそうだけど。それで、そろそろ誰かと一緒にとか考えないの?」

「俺の体質を知られるのは面倒だし、他人と群れるのは得意じゃない」


 そもそも誰かと組んだことなどない。一人である方が色々と楽だ。フォルトの瞳の事を知っても変わらない態度で接してくれる人間など、稀だ。その一人がカレンなのだが、そのようなこと滅多にあるわけがないのだから。


「またそういうことを言って。怪我でもしたら帰ってこれないかもしれないのに」

「その時は俺が弱かっただけの話だから」

「はぁ……」


 カレンは呆れたように首を横に振りながら肩を竦める。納得させるのが難しいというのは、長い付き合いでわかっているのだろう。それ以上は何かをいう事もなく、フォルトが持ってきた依頼書を見て受付作業を済ませてくれた。


「フォルトくん」


 早速向かおうとするフォルトの背に向かってカレンが声を掛けて来る。顏だけを向ければ、そこには真剣な眼差しでフォルトを見つめるカレンの姿があった。


「ソロでダンジョンに潜る際は一つの負傷が命取りになる。引き際を誤れば、それは命にもかかわる。忘れないで」

「……わかっている」

「ちゃんと帰ってくること、いいわね」


 念押しされた言葉には答えず、フォルトはそのままクランを出た。向かうべき場所は先日と同じダンジョンだ。階層は更に下ではあるが、行ったことがない場所というわけではない。


「帰ってくる、か……俺に、どこに帰れっていうんだ」


 カレンにとっては善意。そして本当にフォルトを案じてくれているのだということはわかる。それでも素直に受け取ることが出来ないのは、フォルトがひねくれているからなのだろう。カレンはフォルトの事情を知らない。どのような状況に置かれているのかも。フォルトが立ち入らせないようにしているのだから当然だ。

 ふと、立ち止まり空を仰ぐ。そこあるのは、昼間だというのにどんよりとした灰色の雲。最近は特に、太陽の光がさしている時間が短くなっているように感じる。これが何を意味しているのか。フォルトにはわからない。ただ、討伐依頼が増えてきていることから、魔物の数も増えていることだけは確かだ。そこに因果関係があるとすれば……。


「まっ、俺には関係ないか」


 増えようと増えまいと、今のフォルトにはどうでもいいこと。やるべきことは変わらないのだから。




 そうして潜ったダンジョン。階層が十を超えたところで違和感を抱く。魔物の数はひとまず置いとくとして、周囲が纏う空気が違うのだ。ほんの一週間前に潜った時にはなかった空気。まるで、身体に纏わりつくような湿った感覚。


「ちっ」


 右手で剣を振りぬくと、魔物の血が飛び散った。いつもならそれで絶命している。だが、魔物は口元に弧を描きながらもそのまま鋭い爪をフォルトへと向けた。咄嗟に、腰の後ろに隠し持っていた小太刀を左手で抜き、爪を目前で防ぐ。


「これでっ!」


 再び右手に持った剣で腕を斬り落とすと、そのまま頭を目掛けて突きを繰り出した。パリンと音と立てて、魔物が消滅するのを確認して、安堵の息を漏らす。乱れた息を整えて、周囲を改めて見回した。魔物の気配はない。剣を納めると、フォルトは更に下を目指すため歩き出す。

 そうして歩いていくと、戦闘音が聞こえてきた。前方で誰かが戦っているようだ。それも一人ではなく、複数。


(面倒だな……)


 誰かはわからないが、鉢合わせすると余計なことに巻き込まれそうだ。目立たなくなってきているとはいえ、フォルトが片目を眼帯で覆っていることは見ればわかる。ここにいるということは貴族ではないだろうが、それでも片目を隠していることは忌避されること。変な言いがかりでもつけられては面倒だ。


「仕方ない別の道を行くか」


 少し戻れば分かれ道がある。遠回りにはなってしまうが、誰かと顔を合わせるよりはマシだ。


「はぁ……」


 そう、思っていたのだが結局無駄足だったらしい。数十分後、フォルトは別の道で魔物と遭遇。そのまま戦闘をしていたところへ複数の足音が近づいてきた。魔物は四体。注意を逸らすことは、そのまま命取りになる。足音を気にしているほどの余裕はなかった。

 ビュン。


「っ」


 鋭い爪が眼前に迫ってきている。誰が来たかはともかくとして、フォルトが相対しているのは魔物だ。フォルトは魔物へと意識を集中させる。速く仕留めなければならない。神経を研ぎ澄ませて、フォルトは剣を振るう。


「まずは一匹だ」


 首から下へと力を込めて斬り臥せれば、魔物が消滅した。そのまま次の魔物へと身体を向けたその時。フォルトの目の前に大きな壁が現れる。


「へっ、ヒョロイ坊やにはきついだろ?」

「……」


 余計な世話だと声に出しかけたところで止めた。周りを見れば、一緒に来たらしい連中も魔物と戦闘に入っている。あちらの方が人数が多いのだから、口を出したところで無駄だ。どうやら引き返すのが正解だったらしい。

 既に加勢をしてくれている状況では、不満をいう事はできない。まずは目の前の魔物を倒すのが優先される。フォルトは、剣を握る手に力を入れた。壁となってくれていた男を避けて、魔物へと剣を向ける。相手が一匹になったことで、周囲に向けていた意識を全て向けることが出来た。これならば負けることはない。


「坊主、上っ」


 魔物にとどめを刺そうと懐へ入り腸を抉った。血しぶきが飛ぶが、そのようなこと気にしてはいられない。魔物が絶命すると同時に、頭上から斧が落ちてきた。その場から飛びのいて躱す瞬間、それはフォルトの頬を掠めた。

 距離を取り、上方を確認する。先ほど落ちてきた斧は、魔物が持っていた武器らしい。勢いつけて天井へと突き刺さっていたものが、落ちたということらしい。いつのものかはわからないが、周囲の状況確認を怠ったフォルトが悪いのだろう。


「大丈夫?」

「おい、坊主怪我は?」


 加勢してくれた冒険者らがフォルトの傍へと近寄ってくるが、フォルトは気にせず魔物の気配を確認した。どうやら気配は完全になくなったらしい。剣を鞘に納める。


「……加勢、感謝します」

「お、おぉ」


 改めて彼らの正面に向き直り、頭を下げた。一人で対処できなかったとは思わない。だが、加勢してくれたことでより有利な状況で勝つことができたことは確かだ。


「それで、貴方の怪我は?」

「かすり傷ですから、問題ありません」


 一人の女性が気づかわし気な様子でフォルトへと手を伸ばしてくる。それを片手で払いのければ、彼女は驚いたような顔をした。


「おい、せっかく――」

「いいのよ。私も馴れ馴れしいことをしようとしたのが悪いの」

「けど折角ナナが優しくしてやってるってのによ」

「おい、落ち着けって」


 女性に対するフォルトの態度に腹を立てる男たち。それに呆れていると、その中でも年長者らしい男性がフォルトの前に立つ。


「……君はソロ、なのか?」

「そうですけど」

「その年齢でソロでここにくるなんて、君は死にたいのか?」

「貴方には関係ないでしょう。加勢は助かりましたが、慣れあうつもりはありません。では失礼します」


 一緒にいる理由もない。フォルトは頭を下げると、更に奥へ進むため彼らに背を向けて歩き出した。




 一方、フォルトが去った後。


「ガイアス、あの子もしかして」

「……片目を隠していたところを見るに、そういうことだろう。大分訳ありなようだが」

「少し調べてみる?」

「あぁ」


 



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