贖罪への階段 第8話
グロテスクな表現や
残酷な描写があることがあります。
ご注意ください。今回はないけど
森川は川沿いに街へと向かう
先程の襲撃は辛うじて退けただが、予想よりも早い軍部の介入に
予定日程を繰り上げる必要性を感じていた。
先ずは街で情報を集めなければならい。
それは標的の行動予定である。幸いこの国は一部機関を除いて情報管理に疎い。
ある程度金銭を積めば政府高官の予定など半日も経たない間に集めることができる。
街の明かりが多くなってきた辺りで運河沿いから
比較的狭い道路を選んで街の裏路地へと向かう。
裏路地は売春婦やそれを管理する外側の人間達の
テリトリーである。女の目は虚ろで誰もが虚無を見つめている。
それを品定めする男達は見下すような視線で商売品を舐める様に見まわる。
森川はそんな廃退した路地を歩きながら考えた。
ここは異形の住む向こうの世界と大差ないのではないかと思っていた。
目的のバーはその吐き溜めの中にあった。
階段を下り、ネズミを蹴飛ばすドアの前の電飾は消えている。構わずドアを開ける。
薄暗い店内にはこの辺りでは珍しい良いスーツを着た客と顔に傷のあるマスターだけだ。
カウンターの端へと腰を降ろす。
マスターは注文を聞き酒を注ぎ始めた。森川がグラスに口を付ける。
するとスーツの男は、カウンターに勘定を置き店を後にする。
森川はその客が店を出るのを確認してから
マスターに金を渡す。紙幣は輪ゴムで止めてあり遠目にみても数十万はあると思えた。
マスターはなにも言わず紙幣を胸のポッケにしまうとカウンターの下から2枚の封筒を森川に渡す。
森川は片方の封筒を開け中を確認する。そしてもう一枚も同じように確認し、マスターに声を掛けた。
「随分と早かったな。今日2人共わかるとは」
森川はさらに続ける。
「しかし金は一人分しか払っていないが?」
そう森川が渡した紙幣はあれでも一人分なのである
「近頃は情報が早くなって値段も下げましたよ」
マスターはそう理由を説明した。
「金はまた今度持ってくる付けにしといてくれ」
森川はマスターに礼を言い店を後にする
マスターは軽く返事をしてグラスを磨く。森川は今後の予定を変える為、第二の拠点へ向かう
ここに来る時よりもさらに慎重に別のルートで戻る事にした。
森川はダウンジャケットのフードを被りながら考えていた。
これは不自然である。そう森川の脳が警報を鳴らす粗方、故意にリークされた情報であろう。
だが、森川に選択の余地はない。
向こうが餌を吊るすのであれば針ごと呑みこむまでだそう言い聞かせ足を速める。
桐原は森川と同じネオン街にいた。
もし森川が情報や物資を集めるにはこの街にではここしかあり得ない。
ネオンが光りその陰にはゴミが散らばる。
ここではゴミを片付けるのではなくその暗がりへ押しこむだけだ。
何件かの裏事情通に聞いて回ったが足取りは掴めなかった。
最後の一件を回り、後は立ち寄りそうな廃墟を調べるつもりだった。
桐原の前から男が歩いてくる。
このネオン街に似合わない軍の制服姿であった。礼帽を深めに被り、桐原へ真っすぐ向かってくる。
人が通れば、声を掛ける呼子達も制服姿の場違いさに視線を送るだけだった。
異様なのは場違いな制服だけではない。
顔は平穏だが、触れれば傷を負うカミソリのような雰囲気だからかもしれない。
桐原は路上の中央へ移動し男を見据える。桐原に男が近寄る頃には周囲から皆が消えていた。
「桐原さんですね。私は安曇吉昭と申します」
男は丁寧に挨拶をして、礼帽を脱ぎ髪を直す
「ご覧の通り軍人です。階級は准将です」
桐原に握手を求めてくる。
桐原は安曇と名乗る男の差し出した手を握る。目は相手から逸らさない。
安曇の歳は30後半だろう。精悍な顔立ちで体格も良い。
その若さで准将であればかなりの切れ者だろう。
「それで、安曇准将がどのようなご用件で私に?」
軍の情報網は伊達ではない。国家予算を使いさらに裏の予算も惜しげもなく使う。
力技もいとわない。相手にしたくない連中だ。
「そうですね 歩きながらお話しましょう」
安曇は礼帽をかぶり直すと大道り方面へ歩き出す。
桐原は一瞬迷ったが軍と事を構えても得にはならないと判断し、相手の誘いに乗ることにする。
相手が桐原の力を使うのであれば、こちらも利用するまでだ。
二人は大道りに出る。交通量は少なく、人道りはネオン街より少ない。
「単刀直入に述べます。そちらがお探しの森川なる人物の情報です」
安曇は前を向いたまま話す。
「近々、森川は我々の撒いた餌に食いつくでしょう」
「ですからその時、貴方に森川を処理して頂きたいと言う訳です」
その安曇の提案は桐原にとっては悪い話ではない。
「森川一人に随分と贅沢な事ですね。そちらで森川を処理してはいかがですか?」
桐原は軍が情報を持って居ながら森川を処理しない理由が分からなかった。
「そうしても良いのですがね。それでは協会との関係がこじれます」
「軍としては協会と良好な関係を保って行きたいのですよ。桐原さん」
安曇はあくまで協会のメンツの為だと言い切る。
「戦闘に際して我々は、関与しません。誘いこむ餌は提供しますけどね」
「民間人の避難、誘導等は此方で手配します。不測の事態の事もご心配なく」
笑顔で安曇は桐原が死んでも問題はないという旨を伝える。
「わかりました。連絡を待っていますよ 安曇准将」
桐原は安曇の真意がわからなかった。
「日時が決まりましたらご連絡します。それと貴方の協会からの増援は来ません」
「これは軍と協会との決定事項です。ご了承ください」
安曇は丁寧な口調で桐原一人で戦えと言っているのだ。
桐原は動じない。元より増援なぞ期待もしていなかった。
軍の狙いはわからない。ただ利益を得ようとしているのではないだろうと感じた
それは軍の行動理念とは異なる。だがこの安曇という男が利益以外の何かを企んでいる事は
感じ取れた。
安曇の前に高級車が止まる。
運転手が足早に後部座席のドアを開ける。
安曇は乗り込む際、一言付け加えた。
「桐原さん 決行日は私も現場には行きますよ」
安曇は窓から敬礼をし去っていった。
桐原は当日まで無駄に探す手間が省けた事を素直に喜んだ。
後はただ闘いの準備をするだけだからだ。
軍は森川の居場所さえ掴んでいるだろう。安曇という男は不可解だった。だからこそ
今は流れに乗るしかない。考えられる限りのケースを想定し、最悪の場合は軍を敵に回す
事にもなるだろうと桐原は覚悟を決めた。
ここまでお読み頂きありがとうございます
最低でも一日1話は更新したいものです。
読んでいる人いるのかな?と思ったり。