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贖罪への階段 第20話

グロテスクな表現や残酷な描写が

ありますのでご注意ください。


 桐原は屋上へと辿りついた。

普段は人が立ち入り禁止なのだろう分厚い鋼鉄の扉がひしゃげている。

注意深くその隙間から周囲を伺う。


吹き込む風は冷たく、そして強かった。


 灰色のコンクリートと空の青さが対照的だと桐原は感じていた。

慎重に屋上へ侵入する。


森川は屋上の中心に佇んでいた。


 その顔は空を仰いでいた。

何かに勝利したかのような表情で何かを呟いていた。


風が強く聞き取れない。


 周りには異形はいない。桐原はこの機を逃す訳にはいかなかった。

森川は既に高等種に肉体を支配されている。高等種と人間が対等に戦えるはず

もなかった。一気に畳み込まなければ桐原に勝機は無い。


桐原は残った術具を全て取り出す。数は4本……


森川に向け全力で投げつけ走り出す。

ナイフは大気を切り裂きながら目標へ殺到する。


 ナイフが桐原の発動で形を変える。

術具が到達する直前、森川は片手を体の前に突き出す。

それは捕まえた獲物を見せるようなしぐさだった。


刹那、その手には異形が現れた。

術具は森川ではなくその手に掴んでいる異形へと突き刺さる。


桐原はそれに構わず突進する。術具が防がれるのは予想していたからだ。

突き刺さった剣へ拳を叩きこむ。


 剣に拳が衝突したと同時に魔力も開放する。

異形に突き刺さった剣はナイフが桐原の術式で大きさを変えたものだ。

ナイフには柄はない。強化した拳と衝撃の魔力で術具は異形を突き抜ける。


術具が突き抜け、その衝撃で森川が盾にした異形の首がもげる。


 血を吹き出しながら転がる異形とその頭部を掴む森川手に力が籠る。

それは森川の腹部に深々とささる剣がもたらす痛みからだった。


雄叫びを上げ、握っていた頭部を粉砕する。


 後ずさりする森川に向けて桐原は第二撃を打ち込む。

左手に力を込め精一杯脚を踏ん張る。森川の右わき腹へむけて拳が放たれた。


肋骨が粉砕される感触を合図に衝撃を発動させる。


 衝突事故のような音が屋上に響く。肋骨は粉砕され内臓は破裂したと

桐原は確信した。森川の体は衝撃に抗う事ができず転がっていく。

通常の人間であれば即死のはずである。


森川はまだ動いていた。


桐原は間髪をいれず跳躍をする。頭部を破壊する為に狙いを定める。

右手に魔力を集め、拳を握る。


ふりかぶった瞬間、森川は左手を裏拳のように振り上げた。


 咄嗟に腕を十字にし防御をとる。

森川の腕は桐原を体ごと数メートル飛ばした。

転倒した体は止まることがなくコンクリートの上を滑って行く。


 衝撃で呼吸が不自然になる。

立ち上がろうとした桐原は自分の左腕に違和感を覚えた。

左腕は糸の切れた人形のように揺れている。


骨が折れたのだろうか激しい吐き気が襲ってくる。


 森川は腹部からの出血を気にも留めず立ち上がろうとしていた。

口からは血の泡が吹き出していた。それを拭いながら笑みを浮かべている。


 桐原も左腕を抑えながら立ちあがった。

異形の恐ろしさを改めて感じる。即死の状況を再生能力でカバーしているのだろう。

頭部を破壊しても果して絶命するか疑問に感じていた。


桐原は右手をかざして術式を詠唱する。


目を閉じ魔力が高まるのを待つ。

高まった魔力を解放するように目を開ける。


右手から轟音と青い稲妻がコンクリートの破片を上げ森川へと疾走する。


その稲妻は森川の咆哮でかき消された。

電気が弾ける音と舞い上がった破片が落下する。


 異形種には生まれながら魔術や神秘を防ぐ結界が存在する。

それは異形としての階級に比例して強大になっていくことは桐原もしっていた。

その為、桐原は肉体その物に魔力を叩きこむ術を磨いてきたのだった。


「……効く訳ないよな……」苦笑いがでる。


 先程は隙をついての連撃が成功したが、今度はそうもいかないだろうと思っていた。

既に森川は反撃の準備を整えており、素手でも当たれば桐原の骨など軽く粉砕する。

右手一本で攻撃しなければならい。状況は絶望的だった。



森川の目の前に異形が召喚される。


 ぼろ布を纏い、手には毒々しい形の短剣を握っている。

顔は腐り、四つん這いのままこちらを窺っている。


桐原は残された魔力をすべて肉体の強化へと回す。



 異形を倒してる余裕はない。すばやく異形をかわし、森川の頭部を破壊する。

それが桐原に残された手段だった。魔力が行き渡るまでの時間が惜しかった。



雄叫びを上げる異形は蛙のように身を屈め、跳躍の準備を開始する。




――異形は跳躍しなかった――


 

 正確にいうのなれば出来なかったのだ。

飛ぼうとした異形の頭部には森川の術具が突き刺さってた。


体を痙攣させながら前のめりに倒れる。


 

 森川は腹部を抑え膝まづく。

出血は止まらず、吐きだす血は量を増していた。


「……早く……こ……殺せ……」血の泡を出しながら静かに叫んでいた。


「森川……意識を取り戻したのか?」


「……一時……的に抑えている……だけ……」最後まで言葉は出ず血を吐きだす。


「この痛みが……きっかけ……だ……」

森川はそう言って体を貫通している剣を指差す。


「今のうち……再生不可能な破壊をすれば……」桐原へ嘆願をする。


 桐原は静かに頷くと森川へと近づいた。

森川は痛みで奪われそうになる意識を繋ぎとめていた。


 時より自分の手で刺さった剣を動かす。

そのたびに森川からは出血と叫びがあがっていた。


「同情はしない……」桐原は右腕を打ち込む準備をする。


 桐原は森川の過去に同情していた。だがそれを口に出すのは憚れた。

肉親を失った悲しみは当人にしかわからない。同じ状況に置かれても

それは同じ感情ではなく、あくまで似た感情なのだ。失った人間が違うように……



「――待って! 殺さないで!」


 二人は声の方向を向く。

そこにはブロンドの髪を振り乱して駆け寄るミランダがいた。


「――殺せ!」短く強く森川は叫ぶ。


桐原は構え直す。


次の瞬間、ミランダの術具が桐原に向けて風を切る。


 桐原は後方へ跳躍する。

ミランダは術具を発動させ杭が無数の針へと変わる。

桐原は体をひねりそれをかわす、コートに何本かが刺さり突き抜ける。着地し、体勢を整える。


「この人は殺させない……」決意に満ちた目をしていた。


「ミランダ……森川はもう助からない」


「二人で逃げましょう。もう一度二人で……」

ミランダは甘える様に森川に話しかけていた。


 桐原は森川が助からない事を知っている。

森川に与えた傷は常人ならば即死である。現在、森川が生きているのは

体内の異形が治癒したからだ。完全にではないまだ途中のはずだ。

このまま森川が意識を保っていれば異形は治癒できない。死を迎えれば異形が完全に体を支配する。

治癒できない今しか異形を殺す方法は存在しない。



「……ど……け」森川はミランダを見ずに手で払いのける。


「――嫌よ!一緒に……」ミランダは涙声になっていた。


 ミランダも森川に助かる方法がないのを知っていた。

だが深い愛情がある故、認めることができないのであった。


森川は叫び声を上げ立ち上がる。


 血液は溢れだし、脚は震えている。

ミランダを避ける様に後ずさりをする。

一歩一歩踏みしめ、血だまりを増やしていく。


「待って……お願い……だから」ミランダは立ち上がれず手だけを伸ばす。


森川は屋上の端まできていた。その先には踏みしめる物はない。


「魔術士よ……神はいると思うか?」森川は質問する。


「……いるだろうよ。ろくなもんじゃないと思うがね」桐原は笑みを浮かべる。


森川も笑っていた。


「――貴方の事を……愛してます」ミランダは泣きながら森川に伝える。


涙は灰色のコンクリートを黒く変色させる。しっかりと森川を見つめていた。



 


 森川は大きな叫びを上げ、腹部に刺さった剣を抜いた。

大量の血液をまき散らす。剣を桐原の方へ投げ、そのまま宙へ飛び出した。




































































ここまで読んで下さってありがとうございます。


これで第一部は完結とさせて頂きます。



誤字脱字、文法など突っ込み所が満載でしょう。

ですが生暖かい目で見てやってください。


ちなみにプロローグ→1〜20→プロローグとなりますのでご注意くださいね。


ご要望が寄せられたら第二部へと進む予定です。


読んで頂いた方には感謝しかありません。

改めてお礼申し上げます。

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