贖罪への階段 第1話
グロテスクな表現や残酷な描写が
ある場合がありますのでご注意ください。
オフィス街で起きた残忍な事件。
その現場に一人の男がいた。その男の目的とは?
夜が明けようとしていた。
空から暗闇は押し出され、徐々にその範囲を減少させて行く。
闇の中で、墓標のように見えるビルが並ぶ一角も墓標から
生気溢れる生活の場へと変わっていく。
生ある者が暮らし、太陽の光が差し込む一角。
そこに相応しくない『物』が置き去りにされていた。
ビルの片隅にあるゴミ集積場。
黒いカラスが餌の所在を鳴き声で知らせる。普段の生ごみではなく新鮮な肉をついばむ。
飛び交う蠅は、子孫を残す為に産卵に適した場所を吟味していた。
コンクリートの壁には、赤い液体で大きな円が描かれていた。
円の中にさらに小さな円が在り、その隙間に太古の文字が規則正しく記されている。
その幾何学模様の中心には、人間が張り付けにされている。
体は損壊され、糸の切れた人形のように力なく垂れ下っている。
悲しくもこの惨劇の現場を発見したのは、このビルに勤める女性だった。
悲鳴が朝を迎えたビルの谷間に響き渡っていく。
現場には黄色いビニールテープが張られ、辺りは騒然としていた。
野次馬は身を乗り出し、起きた事を知ろうとする。
それを制止する警官の怒号がより野次馬を興奮させていた。
「――こりゃぁ……酷いな……」
第一報により駆けつけた警察官達もその惨状には息を呑んだ。
新任の鑑識や刑事に限らず、場数を踏んできた猛者達でさえ言葉を呑む。
通報者は毛布を掛けられ、放心状態であった。
刑事達も事情聴取より医療機関への移送を優先させる。
救急車に両脇を支えられ乗せられていく。
野次馬の中にダウンジャケットを着た人物がいる。
身長は170程度だろう。成人男性にしては小柄な部類にはいるが
鍛え上げられた筋肉は、成人男性を平均を軽く上回るはずである。
男は野次馬をかき分け地下鉄のホームへと向かった。
改札をくぐり、混雑がない下りのホームへと向かう。
売店でコーヒーを買い列車が到着するまでベンチへと腰を下ろす。
男の目的は達成された。缶のプルタブを起こし口へと運んだ。
呑んだ液体が、食道を冷やし胃袋に到着した事を告げる。
同時にホームへ列車が滑り込んできた。
目の前を流れる列車の窓に男の姿が映る。肌には年齢を感じさせる年輪が刻まれていた。
色は浅黒く、顎には無精ひげが生えている。
列車によって乱された髪の毛を直す。ドアが開き、人が流れ出てくる。
男は座席に座り、目を閉じた。
「まずは一人……」心の中で呟いた。
列車は街の外へと向かっていく。
読んで頂きありがとうございます。
8月20日 追記
修正しました。うまく表現ができませんね……
アドバイスを頂けたらうれしいです。