表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/21

贖罪への階段 第17話

この物語はグロテスクな表現や

残酷な描写がある場合がありますのでご注意ください

 森川を載せたエレベーターが上昇していく。

目線を上げ階数を確認する。数字のランプが数を増やしていく。


森川の降りた階にもロビーの騒乱は伝播していた。


 警備のSP達が森川と入れ替わりにエレベーターへと乗り込む。

手にはサブマシンガンを持ち異形種が上の階へと侵入するのを食い止めるつもり

なのだろう。会場の入り口では残ったSP達が退避ルートの確保に向かう所だった。


歩きながら詠唱を開始する。


 赤い絨毯に黒い穴が開く、そこから人型の獣が姿を現した。

体長は2メートルを超え、この世界で狼男と分類される異形種である。

穴から這い出たと同時に2体の異形はSPめがけ突進する。


地響きを立て、ただ殺戮をする為に廊下を走り抜ける。


異変に気がついたSPが異形めがけ短機関銃を発射する。


乾いた発射音と兆弾に紛れて異形の腕が唸りを上げる。


 丸太で叩かれたように頭部を破壊されたSPが壁に衝突する。

残されたSPも一方的に引き裂かれていった。

死後痙攣を起こしている死体を貪る異形を見下ろしながら森川は会場のドアを開けた。


 防音加工されている為か会場内ではまだ発表が続いていた。

壇上で誇らしげに説明をする唐津を見つめながら空いている席を探す。

唐津の表情は自己陶酔に浸っている顔であった。


森川は前列2列目の席に腰を降ろす。会場はスクリーンでの説明の為、照明を落としている。


 唐津の説明に時より会場から感嘆の声が上がる。

その声が上がるたびに唐津の表情は至福に満たされているようだった。


発表を終えると会場からは大きな拍手が沸いた。唐津は手を上げそれに答える。


森川は懐から術具を取り出す。


そして壇上を去ろうとしている唐津の太もも目がけ投げつけた。


 唐津は何が起きたか分からなかった。壇上を去ろうとした時、足が急に重くなったのだ。

ゆっくりと重くなった右足を見下ろす。

太ももに短い短剣が根元まで刺さっていた。


「――っ」

視覚した途端、痛みが唐津を襲った。


悲鳴に包まれる会場から参加者達が出口へ殺到する。


唐津の視界には前列の席から立ち上がる森川武の姿が見えた。





 安雲はホテルの階段を昇っていた。

唐津が出席している学会の会場は8階である。

ロビーでの騒ぎが徐々に上の階へと広がりつつあった。


耳に付けている受信機から無線が入る。


「准将、そちらのホテルへ桐原とミランダ・ケストルが到着した模様です」

オペレータの冷静な声が響く。


「了解した。ベイラグランドの方はどうなってる?」

階数を示す数字は既に6を示していた。


「警備の部隊は依然、正面玄関で異形種に対して応戦をしています。突入部隊は

地下駐車場を制圧。二手に別れ電力部と管制室を制圧中です」


「よし、電源を落としたらパーティー会場へ能力者を突入させろ。リストに載っている

人間の退避を忘れるな」


階数表示が7を示した時、上の階から銃撃音と悲鳴が聞こえた。無線を切り足早に階段を昇る。


 8階の廊下へと入る。壁は銃弾でえぐれ、血痕が付着していた。

その色より赤い絨毯の先には食い散らかされた人間の残骸が散乱している。


安雲は礼帽を投げて捨て、制服の第一ボタンをはずした。


 会場入り口には狼男が2体。食事を楽しんでいる。

安雲は右手をかざし、衝撃に備える為、両足に力を込めた。


安雲の能力は衝撃波であった。掌から唸りを上げて見えない波が音速で廊下を疾走する。


 食事を満喫していた異形は轟音に顔を上げたが右上半身を壁ごと粉砕される。

相棒を失った異形は怯むことは無く、安雲目がけ前傾姿勢のまま突進する。


安雲は絨毯を引き裂きながら迫る異形へ左手を向けた。


 既に異形は安雲の目の前まで迫っていた。

筋肉と体毛に覆われた太い腕を振り上げる。腕が振り下ろされえば人間などひとたまりもない。


轟音と共に鮮血が廊下の壁にまき散らされる。


安雲の横を頭部を破壊された異形がそのままのスピードで転がっていった。


 安雲は顔に飛び散った返り血を袖で拭きながら会場へと向かう。

先程まで異形がいた入り口からは参加者達が悲鳴をあげ飛び出して来ていた。

廊下の惨劇を目にし、逃げる場所を求め彷徨う。


逃げ出す人々の間をぬって安雲は暗い会場へと入って行った。





 桐原とミランダはホテル正面で足止めをされていた。

何体かは始末したが、まだ異形の数は8体も残っている。正面玄関の優美さは既になく

瓦礫と死体の山が広がっていた。


頭上で衝撃音が響く。粉砕された窓ガラスが光を反射しながら降り注ぐ。


「桐原! 急がないと――」

ミランダは術具である杭を異形に投げつけ発動の詠唱をする。


杭は投げられた瞬間よりその効果を発揮する。

瞬間的に加速を開始し、弾丸と同じ速度で異形へと突き刺さる。


弾着と同時にさらに別の術式を発動させる。

刺さった杭はミランダの追加効果を発生させる術式で体内で変化を始めた。


異形は杭が刺さった程度では息絶える事は無い。


 姿勢を立てなおし、飛びかかろうとした異形は絶叫を上げる。

体内で杭はあらゆる方向へ刺を突き出していた。体を突き抜け血で濡れた金属が姿を見せる。


「こんな奴らに手間取って……」

ミランダは額から流れだす汗を拭いながら呟いた。

疲労は徐々にではあるが体力を奪っている。


 桐原は術式を詠唱し走りだす。

己の魔術は近接戦闘に特化させた魔術である。肉体を強化し魔力その物を衝撃として叩きこむ。


人間としてはありえない速度で異形へと突き進む。


虚を突かれた異形は反応が遅れた。


 桐原の拳は異形の顔面を捉える。手に伝わる感触を合図に拳から魔力が衝撃となって

頭部をトマトのように破壊する。


 異形が倒れる前に桐原は次の目標へ跳躍をする。頭部を破壊され鮮血をまき散らす異形が

地面に倒れた時には、桐原の右足は異形の胴体をくの字に折り曲げていた。


 ミランダは桐原の戦闘に目を奪われていた。

今まで彼女が見てきたどの魔術士にも当てはまらないスタイル。

そして卓越された桐原の技術に恐怖さえ感じた。


残された異形は一斉に桐原に飛びかかる。


桐原は間髪をいれず拳を叩きこんだ。

拳は唸り、次々に醜い化け物を肉の塊に変えていく。


最後の一匹が殴られた衝撃に飛ばされ、車に衝突し絶命する。



 

 桐原は異形の返り血で汚れていた。

拳からは血が滴り落ち、顔には肉片がこびりついている。

それを払いながら桐原はホテルへと向かう。


「ミランダ……上はもっと厳しいぞ」

桐原は背中を向けたまま声をかけた。


 ミランダはホテルを見上げる。

森川武を止めなければという一心でここまできた。

だが異形をも使役する森川をミランダが止められるかはわからなかった。


震える自分の体を押さえつけ桐原に続く。




























ここまで読んで下さってあがとうございます。



やっと面子が一ヶ所に集まりました……


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ